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リコレクションズ  作者: 戸理 葵
第三章 反撃
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動揺

私の頭の中はすっかりフリーズしてしまった。

秀真(しゅうま)が上手い事切り上げてくれたのだと思う。どれくらい時間が立ったのかは分からない。

外に出たら、もう辺りは暗くなっていた。


「藤田さんが目撃者って事?」

マンションの敷地から出た瞬間、私は拓也に食ってかかった。

拓也も少し動揺はしているものの、私よりは落ち着いている。


「いや、ちょっと待てよ。だって年が合わないだろう?あの人っていくつ?」

「今年28って・・・あ、そうか。」

「目撃者は二人とも、同級生の筈だぞ?藤田さんは15年前、13歳?中一だろう?」


そうか。そうだよね。

と私が納得しかかった時、隣で秀真がボソッと言った。


「・・・でも、年齢を誤魔化しているって事はない?二つぐらい、平気じゃない?」

詳細を知らないのに、私達の会話を聞いていただけで、妙に的を得た事を言ってくる。


「・・・あり得る・・・。」

拓也が呟いた。唇を軽く噛みながら、また親指で擦っている。

私は思いつくままに言った。

「でも名前が全然違うよ?下の名前!ケンイチ?と祐介、じゃ。」

「・・・・・。」


三人で黙りこみながら歩いた。

今となっては年齢も不詳の藤田さん。もし彼が母親姓を名乗ってあの場にいた、なんて過去を持つのだとしたら、年齢や名前を偽ることぐらい、何だかとても簡単な様な気がする。

・・・でも、日本の社会で、そんな事出来るのかな?

大学だって、碧さんや純さんと一緒だったハズ。


「偽名で生活、出来るのかな?」

「スパイかよ。」

「じゃあ、・・・芸名?」

「芸能人かよ。言い直しただけじゃん。それならせめて通称名、ぐらいにしとけよ。」



拓也の相変わらずの切れ味鋭い突っ込みに、私は凹みそうになりながらふと、何か引っかかるものを感じた。



「・・・ね、拓也、その人の名前って・・・。」

「ん?コウノケンイチ?」

「・・・どう言う字、書くの?」

「知らない。誰に聞けばいいの?」



コウノケンイチ。コウノケンイチ。芸名かな?芸能人かよ。


台詞が、頭の中でこだました。



・・・ちょっと待って?

・・・まさかまさかまさか・・・。



とんでもない考えが思い浮かんだ。それが一気に、私の頭の中を支配した。



私は立ち止った。鞄の中を引っかきまわす。

少し先でそれに気付いた拓也と秀真が振り返った。私はそんな二人に構う事なく、電話をかけた。

コールが鳴る。

程なく、音声案内が出た。電源が切られているか、電波の届かない所。

もう一度かける。

音声案内が出る。

頭に血が上ってきた。胸がドキドキする!!


「・・・どうしたの、姉ちゃん?」

「綾?」

「奈緒と連絡がつかない!!」


私が叫ぶと、二人は仰天したように私を見つめた。

私のテンパりぶりに驚いているようだった。秀真が近づいて、聞く。


「え?何?」

「奈緒の携帯に電話してるのに、電源が切られてる!!どうしよう!!」

「何よ?それがどうしたんだよ?」


拓也はその場に立ち止まったまま、眉をひそめてこっちを見ている。

私は秀真に覗きこまれながら、携帯に耳を当て続け、叫び続けた。


「だってだって変なの!!藤田さんは何度も私の側にいるし、奈緒のマネージャーやる意味分かんないし、目撃者かもしれないのに、奈緒はあの俳優とデートしている!!」

「何言ってんだよ?わかんねーよ。落ち着いて話せよ。聞くから。」


拓也はやっとこっちに向き直り、私に近づいて来て、両肩を掴んできた。

私はそんな彼の丸っこい瞳を見つめながら、叫んだ。


「あの人の名前!!私の思い違い?考えすぎ?ねえあの人なんで、わざわざ調べてまで奈緒に近づいたの?」

「あの人って誰だよ!」

「河島(たける)!!」




事情を知らない秀真はキョトンとしている。

だけど拓也は、それを聞いた途端、眉間のしわが更に深くなった。


「・・・カワシマ・・・タケル・・・?」

「あの人、芸名なの?本名なの?」

「知らない。お前、知ってるか?」

「知らない。ちょっと待って。ググる。」


秀真がすぐに携帯を取りだした。操作する。

私は拓也の目を見て話し続けたけど、実際に見ているのは、頭の中の記憶だった。



「あの人と初めて会ったのは、夏に同窓会で帰郷した時だった。その後、私は会っていない。

 でもそれがきっかけで、奈緒はスカウトされたんだよ?しかも半ば強引に。

 そしてその彼との仕事で、奈緒のお世話係を買って出たのがが藤田さんだし、

 奈緒は、河島健に初詣、誘われたって言ってたのよ。」


「あった。・・・ビンゴ。本名、河野(コウノ)健一ケンイチ。」




すっかり、日が暮れた。

私達は、誰も動かなかった。

私はなんだか、自分が沼の中に足を取られている様な気がした。

何かが、足に絡まっている。複雑すぎて、動かす事が出来ない。


だけど、どこかを見つければ、それは簡単にほどけていくんだ。

どこか一つの絡まりをほどけば。それは、どこ?



「・・・同姓同名・・・?」

「・・・まあ、どこにでもいそうな名前では、あるよな・・・。」


秀真と拓也が呟いているのが聞こえてくるけど、私の頭には殆んど入ってこない。


「河野健一と藤田祐介はつながりがあるってことか?兄弟?」

「藤田祐介って?」

「・・・あの藤田代議士の息子だよ。」

「?藤田違いとか?」

「あの親父の話しっぷりがそんな感じだったかよ?いかにもありゃ、ビンゴだろ。」


二人の会話をよそに、私は携帯を再び開いた。

今まで一度も使っていなかった番号。使えなかった番号。使いたかった番号。でも、使いたくなかった番号。



「姉ちゃん?誰に電話するの?」

「私、(みどり)さんに電話する!」

「え?」

「だって藤田さんの番号知らないし、奈緒と連絡がつかない!この人に聞くしかないでしょ!」

「ちょっと待てよ、綾!」


拓也が私の手首を勢いよく掴んだ。

綺麗な茶色い瞳が間近に迫っている。

珍しく、わずかな動揺と苛立ちが見てとれた。


「河野健一と藤田さんが繋がっているとして、それとつるんでいる塚本さんだってどんな奴かわかんねーだろ、今となっちゃ。」

「だから何よ?」


私は拓也の丸い瞳を見返した。

一瞬、その瞳がゆらっと揺れたのが見えた。腕を掴んでいる手に力が入る。拓也がギュっと眉根を寄せた。


「お前が見た殺人の現場、犯人の可能性がある人間が4人いて、内一人が死亡、残り二人がつるんでいるって事だろ?どっから見てもヤバいだろ、考えろよ。」

「そんなの関係無いっ。」


私は力任せに拓也の腕をふりほどいた。拓也の台詞を聞いた秀真は息を飲んでいた。


「奈緒が戻ればそれでいいのっ。無事ならいいのっ。あの人達が何をしたいかなんて関係ないっ。拓也だって、あの人は悪い人じゃないって言ってたじゃないっ!」

「そんな前の、気休めで言った台詞を持ち出すなよっ。状況がぜんっぜん違うだろうがっ!」

「違わないっ!」


私の叫びに、拓也は一瞬言葉を飲んだ。私はそこにたたみかける様に言った。


「奈緒しかいらないっ!他はどうだっていい!碧さんなら助けてくれるっ。15年前の事を忘れろって言うなら忘れるっ。取引でも下心でも、何でもいいのっ。今解決できるのは彼しかいないでしょっ!!」


そして私は、通話ボタンを押した。



奈緒を見つけなきゃ!!危険かどうかなんて、全然わかんないけど、わかんないけど、


神様!!



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