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リコレクションズ  作者: 戸理 葵
第三章 反撃
43/67

翌日、私達は約3時間かけて電車に乗り続け、私鉄の小さな駅で降りた。

弟の手には、いくつかの手土産がぶら下がっている。

「あれ?姉ちゃん、あれ・・・。」

改札口で一人の小柄な男を見つけ、秀真(しゅうま)が目を丸くした。


「なんで吉川さんがいんの?」


それはね、えっとね、何と言ったらよいのやら・・・

「・・・秀真(しゅうま)、お前・・・」


拓也は目の前に立った秀真を見上げ、同じように目を丸くした。

「・・・でっかくなったなー・・。」


拓也の身長は多分、170cmちょっと。秀真は多分、180cm弱。


「あざーっす。あけましておめでとうございます。」

「おめでと。4年ぶりか?もっと?何食ったら、そんなに大きくなれんだよ?」

「牛乳っすかね?とりあえず、毎日飲んでました。」

「うぇー。俺、牛乳は苦手・・・。」


拓也はパンツのポケットに両手を突っ込んで、肩をすくめる。

秀真は私を見た。

「姉ちゃん。」


真顔で言う。

「結婚の報告っつーのは、普通、家族から最初にするもんだぞ?」

「なっ・・・そんなんじゃないわよっ!!」

「違うんだ?」


秀真はあっさりと引き下がった。

「姉の天然と妄想を取り扱えるのって、俺か吉川さんぐらいだと思ったもので。すみません。」

え?それは誰に何を謝っているの?

拓也は軽く苦笑しているだけ。え?それは何に対する苦笑なの?


秀真は手荷物を床に下ろすと、腕を組んで私を見下ろした。


「今日は、親戚への年始の挨拶なんじゃなかったの?」

「・・・まあ、名目はそうなんだけど・・・。」

「実態は?」

「・・・・。」

「・・・俺、お年玉は貰えそう?」

知りません。


私は拓也を見たんだけど、こういう時の拓也ってちっとも助けてくれなくって、あさっての方向を向いちゃっている。可愛い顔してスットボケている。

そして私は、嘘がつけない。

ていうか、彼みたいに咄嗟にテキトーな事が言えない。

(コレを言えば拓也に、『咄嗟にってあなた、3時間も一緒に電車乗ってんだから、その間にどうにかしたら良かったでしょ』と言われるに決まってる。)


「おじさんにね、聞きたい事があって・・・ね、おじさんが知ってるかも分からないし、その、教えてくれるのかもわからないんだけど。まあ、ダメもとで聞いてみようかな、と。」

これって説明になっているのかしら?


「・・・それって、昨日の真っ赤な気合と関係あるの?」

「・・・うーん・・・」

無駄に鋭いな。


「・・・月に行くアレとも?」

げ?なんでそこでそれが出てくる?

え?私、そんなに単純?単細胞?見ればわかる、って感じ?


「・・・うーん・・?」

「・・・ふーん。突っ走る事にしたんだ。やっぱ、珍しい。」


秀真は感心した様に私を見た。

そして腕を解くと言った。

「俺、協力するよ。何聞きだせばいいの?教えて。」


どうしよう?と思って拓也を見たら、彼は肩を少しすくめて「いいんじゃない?」と言った。

考えてみれば、これは私の問題だった。


そこで私は、15年前の前浜東の事件を調べている事を、秀真に伝えた。

秀真は、うん、うん、と聞いていたけど、私に理由を一切尋ねなかった。

良く出来た弟なのか、単に何も考えていないだけなのか。


「よし。じゃあ、こうしない?受験の小論文対策。少年犯罪について意見を述べよ。リアリティを持たせたいから、話を聞きたい。」


秀真は事も無げに言った。受け入れるの、早っ。


「・・・へぇー。秀真、どこ受けるの?」

そういう展開になるのならば、弟を連れてきた身としては聞いておかないと。


「第一志望は東都大工学部。」

「・・・。」


絶句。


「どっかで聞いたな、一浪して東都大工学部。」


隣で拓也が、冷めた声で言った。ああ何、この感じ。


「で、そうなると俺は?」

「吉川さんは僕と同級生って事で。今日は二人して話を聞きにきた、でどうですか?僕ら予備校も同じダチ、っつーことで。」

「お前と俺が同級生?ま、いいけど。俺もある意味、受験生だもんね。」

「童顔だしね。」


しまった、また余計な口を挟んでしまった。

やだ、そんな目で見ないでよ。時々勝手に口が喋るの、意思とは無関係なの。


「じゃ、行こっか。」

「・・・なんか、身内に嘘つくのってやっぱり、気が引けるなあ・・・。」


私が俯いて呟くと、拓也と秀真が同時に言った。


「何言ってんの、今更。」

「こんなのかわいいものだよ。」


かわいいもの?

私と拓也が秀真を見る。彼は珍しく、少し口を尖らせて言った。


「あいつらが何したかしってるでしょう?ばあちゃんが死んだ時、金目の物、めぼしいものは殆んど取ってっちゃった連中だよ?大して世話なんてしてないどころか、陰でばあちゃんの悪口言ってたクセに。俺、子供ん時に聞いたんだから。それに比べれば、こんなのウソにも入んないよ。おじさんに痛い事、何にもしないんだからな。」


・・・成程。そうでしたか。そうだよね。正当です。


・・・でもね、秀真。怖いよ?痛い事したいの?それはダメだよ?

・・・そうか、この子って怒らせちゃいけないんだ。気を付けよう。



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