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リコレクションズ  作者: 戸理 葵
第三章 反撃
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決意

「・・・10年も前に、・・・病気だって・・・急性の・・・。」


可哀そうに。彼は、死んでしまった。

自分が人を殺したと思いこんで、それを抱えて死んでしまった。

ひょっとしたら、違っているかもしれないのに。

私が、何も言わなかったばっかりに。

可哀そうに。可哀そうに。

ごめんなさい。ごめんなさい。



・・・こういう事か。

こういう事を、私は抱えていかなくてはならないのか。

調べれば調べる程、真実を知れば知る程、自分が隠し持っていた事実の大きさに気づいて、

一生、罪の意識を背負って行かなくてはならないのか・・・。



胸が、痛くて痛くて、堪らない。




「・・・来いよ。」


拓也が、手を出した。


「帰ろう。」



私達は、黙って手を繋いで、歩きだした。




碧さんが、「君はもう関係ない。忘れるんだ。」と言っていた理由が、少し分かる気がした。

こうやって足を踏み入れる度、私は確かに傷ついて、自分を追い詰めていくのかもしれない。

拓也が、「お前に覚悟はあるの?」と聞いた理由も、分かる気がした。

こうやって罪悪の意識に(さいな)まれてしまうかもしれない事は、始める前から分かっていた事だったんだ。



怖い、と初めて思った。



「お前、今日は実家に戻るんだろ?」


拓也が不意に聞いてきた。

「・・・?・・」

私の実家は今、関東某県にあって、通勤通学をするには少し遠くて不便な所にある。

今日はもちろん、実家から来た。


「家に帰れ。」


そう言って拓也は、JRの駅前で私の手を放した。


「そしておじさんとこ、必ず俺を連れて行け。連絡しろ。」

「?」

「部屋に戻ったりしたら、押しかけるからな。そしたら俺、勉強どころじゃなくて非常に迷惑よ?だから、家に戻れ。」


拓也はそう言うとクルッと背を向けて、さっさとどこかへ行ってしまった。


・・・ちょっと待って?誰が何して迷惑だって?え?誰が迷惑?



私は唖然とした。

勝手に呼び出された初詣は勝手に駅に置き去りにされ、私の周りってどうしてこうも勝手な人が多いのかしら。




分かってる。勝手じゃない。心配してくれてるんだ。

一人で部屋で悩むんじゃない、って言ってくれてるんだ。

おじさんの所で、何か新たな、キツいネタが出てきた時に、私を支えようとしてくれてるんだ。


碧さんだって。

私を心配してくれていたんだ。

何も気づいていない私が、危なっかしくてしょうがなかったんだ、きっと。



なんて勝手で、愛しい人達。




過去は変えられない。

見ても見なくても、真実は変わらない。


もう、知らずに生きていく事は出来ない。

だから、後戻りは出来ない。



私は、鞄の中に忍ばせて持ち歩いている、一通の封書を取りだした。

それを眺めて、握りしめて、決意する。

未来を歩きたい私に、あまり時間は無い。


やるしか、ない。







「姉ちゃん、入るよー・・・って何?この匂い。くっせー。」


勝手に入ってきた秀真(しゅうま)が、勝手に嫌な顔をした。


「・・・何してんの?」

「気合いれてんの。」


大した事ではありません。ネイルを塗っているんです。足に。

色は?真っ赤です。キラッキラのラメをその上から塗っちゃう予定です。


私は足を秀真に差し出した。


「塗りたい?」

「こら。」


えー。いい経験だと思うんだけどなあ。女の足にペティギュア塗ってやった事のある19歳男子、なんて、結構イケてると思うんだけど。


「いいの?そんなの塗って。就職活動中なんじゃないの?」

「だから足なんじゃない。」


足なら見えないでしょ。手は、フレンチにする予定だから。


「気合って、就職成就祈願で塗ってるの?」

「・・・人生登頂祈願、かな?姉ちゃん今、踏ん張り時なの。」

秀真の足元の親指に手を伸ばす。


「・・・・何してるの?」

「大学合格祈願。気合の御すそ分け。」

「・・・どうしてくれんだよ・・・。」


突っ立ってる秀真の足の親指を、丁寧に塗ってやった。

秀真は成す術も無くて、肩を下げて眺めている。


「姉ちゃん明日、落合の角井のおじさんとこ行くんだって?」

秀真が上から聞いてきた。

私は自分の足に、ラメの仕上げをする。


「・・・そだよー。」

「何でまた?」

「・・・大学4年間東京に居ながら一度もご挨拶に伺っておらず、卒業前にその失礼をお詫びしたいと思いまして、親戚なので今後も何かとお世話になる事もあるかと思い」

「と、母ちゃんに言ったの?」

「と、おじさんにも言うの。」


ふーん、と秀真が呟く。


「秀真、ソレ、乾かしてからじゃないと、崩れてすごく汚くなるよ?」

「俺も行こうか?」


私はビックリして顔を上げた。


「何で?」

「何でって・・・姉ちゃん一人で行くの?大変じゃない?母ちゃん達が行くとは思えないし。」


うちは、おじさんちとは仲が悪い。私達子供が関わった事はないけど。


「それに行けばお年玉貰えるかもしれないし、合格したら入学祝も来るかもしれない。」

「・・・秀真、受験勉強は?」

「今更。A判定だし。じたばたしても、ね。電車の中で暗記でもしてるよ。」



・・・気を使ってくれるのはとてもありがたいんだけど・・・

・・・でも、秀真を連れていって、アノ件、どうやって話を切り出そう・・・。


私は一瞬迷ったけど、急に、それがすごくいい考えに思えてきた。


そうだよね!拓也と二人で行くより、秀真がいる方がずっと不自然にならないかも!

滅多に会わない親戚の家に行くだけでも不自然なのに、同級生の男なんか連れていったら、

あまりに不自然すぎて、ますます落ち着かないかもしれないわ。

聞くモノも聞けないじゃない。

よし、


「それでいこう!!」

「・・・どれでいこう?」

「?電車だよ?」

「・・・・・。」


秀真はしばらく私を眺めた後、おやすみ、と言って部屋を出ていった。


私は部屋で、真っ赤なラメラメ足を見て、気合を入れた。

頑張るしかない。やってみよう。

反省と後悔と思い悩む事は、後からまとめてしてみよう。





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