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リコレクションズ  作者: 戸理 葵
第三章 反撃
41/67

理想的初詣

私は好きです、ここ。

お世話になりました。立派な所です。

二日。朝10時半。御茶ノ水駅聖橋口。




「・・・来ました。」


やたらと寒いもんだから、お気に入りのピンクグレーのダウンコートを着込んで、ピンクベージュのマフラーをグルッグルに巻いていったら、

拓也も紺色のダウンジャケットに迷彩のマフラーを、口元が埋まるほどグルッグルに巻いて立っていた。


「おう。」

「何か進展?」

それで呼び出したんでしょ?


「うん。進展。」

そう言うと彼は、寒そうに肩をすくめて、背中を丸めて歩きだした。

私は慌てて、後からついていく。どこに行くんだろう?

人ごみに流されていく。いや、マジで。やたらと人が多い。拓也の姿が人並みに埋もれて、何度もその姿を見失いそうになった。


しばらく歩き続けたら、脇から腕をグイっと引っ張られた。

見ると拓也が横に立っている。私は周りを見回した。

・・・初めて来る、ここはひょっとして・・・


「・・・神田明神・・・?」


「やっぱ混んでるね。」

「・・・って、何の進展よ?!」

「事態の進展?関係の進展?なんでもいいじゃん。」

「騙したわねっ。」

「人聞きの悪い。俺、なんも言ってなかったハズだけど?」

それを騙したっていうんじゃないっ。


不敵な顔してニヤッと笑い、再び歩きだす拓也の後姿を見て、軽く溜息をつく。

あーあ、素直に誘っても私が絶対来ない、って知ってるもんだから、ついにはこんな手を使ってきたか。

しかも、自分が甘えれば大抵、私が諦める事を、この子は知っている。


でも悔しい気持ちは(ぬぐ)えなくって、ブツブツと文句を言う事を止められない。


「しかも神田明神なんて、江戸の鬼門封じじゃない。」

「・・・・はあ?」

「平将門(まつ)っちゃってるし。首塚の(たた)りだし。これでもう、成田山にお参り行けないし。」

「・・・お前、変なとこでマニア入っちゃってんね?下町江戸っ子の明神様に、何イチャモンつけてるのよ。」

「・・・・・。」


ホントはあんたにイチャモンつけてるのよっ、て台詞が喉まで出かかる。

それを飲み込み、代わりに眼力で飛ばす。でもやっぱり、可愛い顔して知らん顔。ああ、バカらしい。




「拓也はお正月、帰らなかったの?」


お賽銭も投げてお参りも終わり、参道を戻りながら私は聞いた。


「専門学校があるしね。お前の事も気になるし。」

さらっと言わないで。


「お前がおじさんとこ行く時、俺も付いていってもいい?」

「・・・なんて言って、付いて来るのよ・・・。」

「なんとでも。お好きなように。」


知らないわよ、そんなの。あんたの口から出まかせ嘘八百で、どうにかしてよ。


彼の後をとぼとぼとついて歩く。

途中で絵馬が沢山ぶら下がっているのが目に付き、みんなのお願い事をつい、読んでしまう。

フラフラ、と拓也から離れてそれらを眺めていたら、後ろでかわいい女の子の声が聞こえてきた。

「たっくん。」


やたらと近いものだから、嫌でも会話が聞こえてしまう。


「えー、なんでいんのー。忙しいっていってたじゃーん。なな、すっごい寂しかったんだよー。」


可愛い声だなあ。声優さんみたいだなあ。ほら、アニメとかでよくある、変身しちゃう女の子達の声。

「ほら、みてみてー。イブイブにくれたピアスー。可愛いでしょー。」

「・・・ななちゃん、こんなとこまで来るんだ?」


・・・なぬ?

これは拓也の声?なぜあの子が返事をする?

・・・ああ、そうか!『たっくん』とは拓也の事ね!納得!

てもしや、私は今、拓也の彼女に遭遇しているの?驚愕!

それはマズイマズイ。離れなきゃ。そして隠れなきゃ。


私は後ろも振り返らずに、そーっと、そー・・・っと、二人から離れた。

そして絵馬達の後ろに回る。

拓也の彼女は、白いピーコートにピンクのミニスカートと黒タイツを合わせた、茶髪ウェーブのナチュラルアゲハちゃんだった。なあるほど。


「そうなの。初めてなの。最近ブショーにハマっててさー。ここって、ヘイアン時代か戦国時代の武将を祀ってるんだよ。たいらのまさかど。」


ナチュラルアゲハちゃんが可愛く楽しそうにお話をしている。

鎌倉幕府と室町幕府は何処へいったの?


あの子、いくつだろう?この間、大学のキャンパスで見かけたコとは違う気がするけど。


「たっくんは誰と来てるのー?お友達ー?」

「うん。そうだよ。」

「ななもお友達ー。」


そういって拓也に腕を絡めてくる。甘え上手で可愛い仕草。

おお、女子力沢山使ってそう。恋愛偏差値が高いんだろうな、こういう子って。


「悪いね、ななちゃん。また今度、学校でね。」


先程から拓也は、優しくて甘い笑顔のお兄さん、をしている。

高校時代から色々な後輩ちゃん達と付き合ってきた拓也だけど、

ふーん、こういう顔して彼女達といたんだ。私には滅多に見せない、いい顔ね。


「えー、ななも一緒したーい。ダメ?誰と来てるの?抜け出そうよぉ。」

「ごめんね。またの機会で。そのピアス、よく似合ってるよ。」

「えっ?ホント?」


・・・拓也もやっぱり、偏差値高い・・・。あの笑顔でそれ言われたら、そりゃオチるよ。


「絶対だよ!学校でね!!」

・・・かわいいじゃない・・・。


バイバイ、と拓也がニッコリ手を振り、しばらくして、絵馬壁の向こうにいる私に、顔だけ向けて言ってきた。


「いつまで隠れてんの?」

「お邪魔かと思いまして。」

「別にいいのに。」

「私が良くない。」


ゆっくり姿を現す。


「それでは、初詣も済ませた事ですし、また会う日まで。」

「おいコラ、ちょっと待て。」


拓也に襟首を掴まれて戻された。ちょっとやめてよ、伸びるでしょ。

寒いしもう帰りたいのよ。変な修羅場にも巻き込まれたく無いのよ。


「何だよ、それ。いつの事だよ。」

「・・・しあさって、おじさんとこに、お正月の挨拶の名目で行くんだけど・・・。」

「どこよ、それ。」

「・・・落合。別に拓也忙しいなら「行くよ。」


かぶせ気味に拓也が答える。私はいやーあな、顔をした。


「・・・来るんですか?」

「行きますよ?」

「専門学校は?」

「行きますよ?」

「一人でも大丈夫なんだけど。」

「臨機応変に要領よく聞けないでしょ、あなた。」

「だって、奈緒は一人で聞き込みしてるー。」

「あんな田舎まで飛行機乗って行けるかっ。」


うっ。私のおじさんも地元にいれば良かったのに。息子家族と一緒に上京なんかしちゃうから。


「・・・来るのお?」

「行くっつってんでしょ、最初から。何時よ、それ。」

「・・・んーと「たっくんっ」


あ、また登場した。ほら見つかった。だから帰るっていったのにぃ!

さっきのアゲハちゃんが戻ってきた。

パッチリお目目がつり上がって、すっごく怖くて迫力がある。可愛いのに。怖すぎる。


「・・・ねえ、だあれ、その人。」

「・・・。」


キタキタキタキタ。こういう場合は、口をつぐんでいた方がいいのよね。黙っていよう。


「こんにちは。あたし、たっくんの彼女で中島「ななちゃん。」


拓也が遮った。ジャケットのポッケに両手を突っ込み、ニコニコしている。本領発揮だ。


「今日はね、もう帰りなよ。また後にしよ。」

「何よ、それ。ななと帰るの?じゃなきゃ、なな、帰んない。」

「帰った方がいいよ。」

「じゃあ、たっくんはあの人といるのっ?」

「今日はね、色々あんの。ごめんね。あとで連絡するから。」

「そんなの嫌だっ。今一緒にいたいのっ。たっくん、あんなおばさんのどこがいいのっ?」


拓也が黙った。彼女も黙った。私はもちろん、黙っている。

おばさん、ね。やっぱりちょっとショックかも。ちゃんとオシャレして、夜は早く寝よう。


なんて考えていたら、拓也の、低い声が聞こえてきた。


「・・・しつこいね、君も。」


顔を上げると、彼の表情はすごく冷たかった。

私に呆れて冷めた視線を送る時の顔つきと、全然違う冷たさ。ギクッとした。


「それどころじゃないから。見て分かんない?諦めてくれる?」


「たっくん・・・。」


ななちゃんも、少したじろいでいる。

次の瞬間、拓也はさっきまでの可愛い笑顔で、ニコッと微笑んだ。


「じゃ、また学校でね。」


なに、この子。




「・・・私、あんたのそーゆー所、大っ嫌い。」


怒った彼女を見送って、しばらく歩いた所で、私はボソッと呟いた。

拓也は軽く肩をすくめるだけ。

「そ。ごめんね、性格悪くて。」

「その、手の平返したような二重人格、どうにかしたら?相手に、あまりにも失礼よ。」

可哀そうじゃない。あの子、泣いているかもしれない。

私にはもう、この二人は終わってしまったんじゃないかと思える。

それなのに、人を傷つけておいて平気な拓也が、すごくすごく腹ただしい。


「・・・綾は、『失礼』が大っ嫌いだもんな。」

クスクス笑わないでよ。私、怒ってるんだから。


「大丈夫。あの子はあーゆー子だから。一緒に来た友達ってのも、男でしょ、きっと。」


・・・随分ただれた恋愛してるのね。・・・恋愛じゃないわね、それ。




私が思わず同情の眼を彼に向けた時、携帯が鳴った。

奈緒からだった。


あけおめコールかな、と思った。



「もしもし?あけましておめでとー。・・・・・うん、大丈夫だよ。・・・・え、もう?・・・うん。・・・・・え?」


耳を疑う。


「・・・・・・・・・そうなんだ・・・。・・・ううん、まだ・・・。・・・うん、わかった。・・うん。うん。じゃあね。連絡するね。」



電話を切る。


黙ってしまう。


固まってしまう。


「・・・どうしたの?」


私の様子をみた拓也が、普通に聞いてきた。




私は、沈んでいく自分の気持ちを感じながら、小さく言った。



「・・・・ハヤマサトシ・・・もう、死んでたって。」



拓也が少しビックリしたように、眼を見開いた。



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