1 もう嫌だ!
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私は王が撤退するまでの時間稼ぎの捨て駒として殿を務めさせられた。
私は魔法を打ちまくり、剣をふるい切って切って切りまくった。
敵の攻撃は俺の体を傷つけていった。回復魔法で回復しているがそんなもので追いつかない。しかし、そんなことを気にしている暇はなかった。意識もなくなり、ただ生存本能だけで動いていた。
はっと気づくと、敵は撤退していた。
周りは死体だらけだ。殿を任された味方は全員戦死していた。
生き残ったのだと思うと、俺はその場でぶっ倒れた。
もう指一つ動かせない。
でも口は動いた。そして思わず口にした言葉は「もう嫌だ!俺はやめる!」
俺トールはブラッカン王国でプルターク男爵家の家に次男として生まれた。
父は立派な人で、王家に忠誠を誓う軍人だった。
我が国は四方を外国に囲まれており、山がちで土地も貧しいため農地も少なく、おもな産業は鉱産物とそれの加工品を輸出することで成り立っていた。
前王は国家の状況をよくわかっており、中立を国是とした外交による国境の安定と交易の推進を図っていた。
軍は国境警備と、国内の治安維持がメインであり、父は部隊長として活躍していた。
俺は次男だし、家を継ぐのは優秀な兄がいたので、成人、この国では15歳、したら冒険者でもなるかと思っていた。
だから必死に勉強したし、剣の腕も磨いた。魔法も勉強した。各種薬の作り方や鍛冶まで学んだ。
家を継がないのになぜと思うかもしれないが、だからこそだ。
成人、この国では15歳になったら俺は一人で生きていかなくてはならない。
幸いにも生まれは男爵家、下級貴族だがそれでも生まれとしては恵まれているだろう。
だから家の力を使って、いろんなことを学んだよ。
父上も俺の教育に力を注いでくれたし、兄もいろいろ教えてくれた。
母上はいつも励ましてくれたし、すごくいい家庭環境だと思った。
金属魔法に適正があったのでそれを伸ばしたし、治癒魔法も学んだ。空間魔法でかなり大きなアイテムボックスも獲得した。
鍛冶も学んだ。武器を自分で修理出来なきゃ壊れた時やばいだろ?
そのおかげで12歳から通い始めた軍事学校で、2年生の時に武闘大会で優勝できた。
父上、母上も、その時には軍人としてすでに勤務についていた兄も喜んでくれた。
父上からニコニコしながら「もしかしたら、養子の口が来るかもしれないぞ」と言われた。
まあ、婿養子に行ったら一生妻に頭が上がらなくなるからちょっと嫌なんだが。
俺の人生の絶頂期はここまでだった。
王が急な病で亡くなって、皇太子が王を継いだ。
この皇太子、一人息子で甘やかされて育ったのか無能な癖に自尊心が強く、「俺はこの王国をより発展させる」と言って、いきなり北の蛮族が住む土地に侵攻をしようとした。
北の大地は不毛で、牧畜がメインの遊牧民族が各部族に分かれて住んでおり、お互いに争っていた。
たまに南に攻め込んでくることがあり、それの撃退も軍の重要な任務になっていた。
北の土地は奪っても利用価値のほとんどない土地なので、特に侵攻や入植はせずに、追い返すのにとどめていた。
実際、北の国境は蛮族の襲来を恐れて、村もなく、無人の土地となっていた。
そんな土地を欲しがる意味が分からないと、軍も内務官僚も反対したが、王は強行した。
王自らが軍を率いて進軍した。奇襲なので、いくつかの部族には勝利したが、馬鹿みたいに進行して補給が切れたところで一挙に逆襲を食らい、軍は壊滅した。
王は多大な犠牲を払ったことで命からがら助かることができた。
俺の父はこの戦いで戦死した。帰ってくることのできた父の戦友から聞いたのだが、父は王を逃がすため、殿となって部隊が全滅するまで戦ったそうだ。
死の際も、全身傷だらけになっても倒れることなく、立ったまま亡くなったとのことだ。
俺も兄も母上もそのことを聞いて感動して泣いたよ。父は軍人として立派な最期を遂げたと。軍事に携わる家の者として誉れであると。
ここで終われば美談で終わって、あとは王が我々に感謝の一言でも言ってくれれば、我が家も他の軍家の皆も納得しただろう。
そしたら王はなんて言ったと思う?
家臣が無能でこの戦に負けたんだ。すべてお前たちが悪いと怒鳴り散らして生き残った将軍と部隊長を処刑してしまった。
その将軍と部隊長たちは、王にたびたび献策し、無謀な戦いをいさめていた者達だった。
処刑した部隊長たちの代わりに自分の取り巻きを将軍に任命した。
あとはめちゃくちゃだ。
兄からは「卒業前だが学校をやめて、この国から出て行った方がいい」と言われた。
母上からも逃げ出すよう勧められた。俺は後ろ髪が引かれる思いだったが、3年生の途中で退学しようとしたところでいきなり繰り上げ卒業させられ、軍に放り込まれた。
壊滅した軍の補充を進めるためだと言うことだ。
その後、軍事学校は2年で繰り上げ卒業になり、そのあと1年になり、ついには休校になった。
教官たちも次々と引っ張られていった。
兵下士官はもっとひどい。片っ端から徴兵され、わずかな訓練で戦場に送られた。
軍家出身者は12歳になると、自動的に軍に引っ張られるようになった。
軍家では家でも軍事教育をするから、まあ多少はましだが、それでもちゃんとした教育を受けていないわけだし、質の低下は著しいこととなった。
そんな感じで無理に軍を再建すると、また東の国ボルガランド王国に戦争を仕掛けた。
今度は前回の失敗に懲りたのか王は遥か後方に陣取って、直接の指揮はそのお気に入りの将軍にさせていた。
この将軍、王の取り巻きだった人物で、遊びには詳しいが軍事のことは何も知らない、ど素人だった。
この戦争も負けた。文字通りあっという間にだ。
そりゃ軍事の素人が指揮をして、未熟練の兵や将校がほとんどで、何の準備もせず、と言うか、準備を進言した奴はすぐに解任された、ただ無秩序に敵地になだれ込んだら、勝てるはずがない。
兄は、逃亡する将軍と本部に置き去りにされて前線の混乱の中で戦死したらしい。遺体は帰ってこなかったし、それどころかどこで死んだのかもわからなかった。
父と兄が続けて戦死したことで、俺が家督を継ぐ羽目になった。
母上はショックで寝込んでしまった。生きる気力がなくなったのだろう、物も食べず、水も飲まずにろうそくが消えるように亡くなった。
悲しみに打ちひしがれる俺たちに、王はさらに鞭うった。
これまでの敗戦はすべて軍家の出の連中が悪いと言い出し、全軍家の家禄を半分に削った。軍家の者達は皆身内をなくしており、無謀な戦に駆り出され、王を恨んでいた。
当然俺もそうだ。父も母も兄もあいつに殺された。
コノウラミハラサデオクベキカ
反乱の火種がくすぶり始めた。
更に文官を中心とした貴族たちも戦費調達のため家禄を半減させられ、さらに軍に人材を出すよう命じられた。
文官の家出も次三男は前線に連れていかれるようになった。将校待遇だが訓練も受けてない奴が息の残れる戦場はこの国にはなかった。
さらに領地を持つ貴族達には特別財産税をかけた。ほとんどの領地貴族が破産寸前になった。
国民も税の増加や徴兵の強化、近隣国との度重なる戦争による交易の途絶で塗炭の苦しみを味わっている。
これで王は完全に国民や貴族たちから恨まれ、誰も味方はいなくなった。
北と東と戦いはまだ続いていた。講和は成立していなかった。王曰く、「負けていないものをなぜ不利な条件を飲むのか、こっちが有利の条件で結ぶなら結んでやらないこともないが」と言っていたそうだ。
俺は北と東と転戦が続いた。まともな補給もなく、まともな計画もなく、ただ、攻め込んできた敵から守るだけの作戦だ。
役立たずの上司は無茶な作戦を押し付けてくるが、まともにやっていたら全滅だ。
前線部隊は完全に無視していた。たまに上司が怒鳴りこんでくるが、物理的に消去した。
そのうち、前線にやってくることは無くなった。
そしてまた、性懲りもなく戦争をはじめて、やっぱり負けた。今回は西のギスカール王国だった。国力は同じぐらいなので今回は勝てると思ったのだろう、王が前線に出張ってきたら敵に攻撃を受け、従軍していた軍家出身者に命じて殿役をさせたわけだ。
俺以外は皆死んだ。俺だけ生きて帰ったら、王は俺たちの所為で負けたんだと責任を押し付けるだろう。そして生き残った俺が代表して責任を取らせられ、家の取り潰し、下手すれば処刑だ。ここまでひどい扱いをされて忠誠心なんか完全に消えたよ。
南に行けば大きな森がある。それを抜けて南の国に逃げよう。もともと冒険者になるつもりだったのだ。きっと戦死したと思ってくれるだろうから追手がかかることもないだろう。
でも、こんな扱いをしてくれた王に対して、必ず復讐してやる。父を殺し、兄を殺し、母を殺し、家をめちゃくちゃにされ、絶対にこの恨み晴らしてやる。でも、とりあえずこの地を離れ、力をつけなくては。
寝ながらそんなことを考えた。しばらく休んだら体が動くようになった。
とりあえず、ふらふらしながら俺は南に向かった。
殿部隊が全滅したことを知った王は三度責任を押し付けて、殿を務めた軍家をすべて取り潰した。
これがこの王家の終わりの始まりとなった。
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