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「兄上、第二王女の誕生おめでとうございます」
「ああ、ありがとうザック」
「次は王子殿下だといいですね」俺は何気なくそう言ってしまったんだが、兄は、
「ザック、私はもうマレシアナには子供を産ませないことに決めたんだ」とそう言った。
俺は驚いて「まさか兄上、側妃を?」と言うと、
「そんな訳ないだろう。でも思ったんだ彼女が身重の体で会議に出ていた時、これ以上、彼女に負担を掛けるべきではないってね。この国にはマレシアナは必要だ。でも彼女は子供を産む道具ではないだろう?二人もいればもう十分だ。二人をしっかり育てるよ」
「兄上」
「どうしても後継に男子をと議会が望むなら、お前もいるし、叔父上のところにもいるだろう?」
確かに義姉は北の件のせいで出産間近にも関わらず、表に出て来らざる得なかった。しかも悪阻で休んでいたせいで自分に情報が来なかったと反省までしていた。
悪いのは義姉上ではない。でもその責任感が義姉の身体に負担をかけるのではないかと兄が思うのも仕方ない。
兄にとって義姉の健康の方が大事だ。
俺も兄の気持ちに賛成だ。それに俺が少しでも王太子にふさわしい存在になればいいのだ。
決して王位を狙うわけではないが。
兄は俺の考えていることが分かったのか、
「親バカだがな第一王女は、すでに凄く賢いんだぞ!まだ2歳だが、もう少ししたら少しずつ王族の教育を始めようかと思っている」と言った。
そうだこの国は女性の当主も多い。義姉上の公爵家も女性だし、副騎士団長も、苦手な作法の先生も皆当主だ。
きっと第一王女もこの国のトップにふさわしい女性になるだろう。
「でもまずはマレシアナを納得させないとな。彼女は責任感が強いだろ?」
確かに義姉上を説得するのは骨が折れそうだ。でも義姉が大事な兄ならできるだろう。
最後は泣き落としになったとしても義姉は兄に弱い。
兄と義姉の夫婦は俺にとっても理想の夫婦だ。産まれた時から一緒にいるそうだが、お互いのことを何でも知っていて互いを尊重し補い合っている。
それにちゃんと愛し合ってもいるんだ。
“緑色のベル”さえ絡まなければ良かったが、まあそれも長い付き合いの山あり谷ありの一部なのだろう。
そういえば、リリベル嬢はどうしているだろうか?もう領地に到着しただろうか?彼女なら何でも解決してしまいそうな気がするな。令嬢避けの為に側近にしたが、マレシオンを除けば実は彼女が一番有能だった。
確かにラント兄上に言われた通り、俺が寝た子を起こしたのかもしれない。どんなに関わっても放っておけば彼女も普通の令嬢を被り続け、ただの妖精令嬢で終わっていたのだろうな。
いや分からないな。
あれが3年間も大人しいか?きっとどこかでボロが出たはずだ。そう思っていたら不意に笑いが込み上げてきた。
「何だよザック気持ち悪いな」ヤバい!兄に見られていた。
「いや、リリベル嬢は領地に無事に着いたかな?と思って」と言うと、
「それだけでは無さそうだが?」と兄は思わせぶりに俺を見てくる。
俺は「ああ、だって彼女はいつでも何か仕出かしていそうだろ?そう思ったら笑えてきて」と言うと、
「何だ、それだけか」と言ってきたから「他に何か?」と言うと 「このままじゃマレシオンに奪われるなぁ。ああそれとも聖騎士かな」と言って笑いながら義姉の元に戻って行った。
奪われるって?最初から俺の物じゃないし。




