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「リリ、お父様からの手紙」
「マリィ姉ちゃん、どうせ“良くやった”とか、また一言でしょ?」
「ハズレ!」「えー何て?」
「読めばいいよ。どうせ“マリィへ、リリへ”って書いてあるし」
姉から渡された父からの手紙には“領民が増えた。野生馬の嫁が来た”だった。
「へー父、あのまま全部貰っちゃったんだ」
やっぱり父らしい。北に帰った人はいないのだろうか?
あれから彼らの隠れ家も直ぐに見つかった。
白状すれば罪に問わないとしたらしい。外交官達はただ普段通りの外交の仕事をしていただけだ。それに隠れ家は国の指示じゃなかった。彼らは自分達で家族をそこに隠していたのだ。北に人質にされないように。
国が指示を出したのは恐らく騎士達だけだった。
北からの防御壁破壊に失敗したから内側から攻めようとなったんだな。バカだ。そんなの直ぐに予想がつく。
しかし、そこまでしてどうして野生馬にこだわるのか?理由があるなら、また狙ってくるんじゃないか?
国はしばらくは北の外交官の受け入れを止めるそうだ。未然に防止したから、我が国は強くあちらを非難できなかった。
なんと、まだ子爵領に着く前にミネルバ様とお母上の伯爵様は一行を捕まえてしまったのだ。
だから奴らは「道に迷った」と怪しい言い訳を主張して、子爵領なんて目指してもいなかったと、とぼけているらしい。
騎士の白馬は父が奪って騎士達だけ送り返したらしい。父はそれで良いって言うけど甘くない?!
でも、この件で王妃様は青薔薇を全て処分されたそうだ。なんか王妃様はずっと北との縁を切りたかったのではないだろうか?そう思っていたらリリベルは後日、王妃様にお茶会に誘われた。
これは断れんやつじゃん。
リリベルが恐る恐るお茶会に出席すると、4人がけのテーブルには王妃様と親友の公爵様、そして王太子妃様がお揃いだった。
国のトップの女性しかいない。怖すぎる。
リリベルがスカートを摘みお辞儀をすると、公爵様が「そちらに、お掛けなさい」と王妃様の向かい、王太子妃様の横に座るよう指示される。
侍女に案内され椅子に腰掛けるとお茶が注がれた。
テーブルにも美味しそうなお菓子がたくさん並んでいたが、とても恐怖で食べる気にならない。
お茶もきっと飲んでも味が分からなさそうだ。
それに毒入ってないかしら?
椅子に座ると王妃様は観察するようにリリベルを見てくる。そして一口お茶を飲み、小さく溜め息を吐いてリリベルに、
「どこまで北の国について知っているかしら?」と聞いてきた。
リリベルは「全く存じあげません」と正直に言う。
王妃様は「そう」と一言仰り、またお茶を一口召し上がって、リリベルに、
「子爵領がある場所はかつては北の領土だったことは?」と仰った。
リリベルはその事も知らなかったが、恐らく父や祖父も知らないのではないかと伝えた。
王妃様の話によると、300年以上も昔の話なので知らないのも仕方がないとのことだ。
そして北の国の国民も東西の国と容姿は変わらないが、この国の王家に赤い髪と青い瞳が多いのと同じで、北の王家は代々、金髪や水色の瞳、もしくはエメラルドグリーンの瞳が多いのだと仰った。
「え?それって」とリリベルが思っていると、今の子爵領は当時、北では辺境伯として王家を継がなかった北の王族が代々、守っていた土地だったのだという。
それがなぜ、今では西の国の領地になっているのかというと、北では数年間、未曾有の大寒波に襲われ国が飢饉に陥ったのだそうだ。
その為、食糧支援を受ける為、国境の山脈の西側の領土を西の国に譲る事になったそうだ。それはその領土を治めていた辺境伯ごと西に併合されたのだという。
あの山脈の麓の領土を北の王族が治めていたのには理由があった。
それは一つは国境であるという事。そしてもう一つは野生馬だ。
王妃様が仰るには、あの野生馬は西の女神の愛馬のユニコーンの子孫ではなく、北の女神の愛馬であったスレイプニルの子孫であり、その馬を見守る役目もあったのだという。
王太子妃様は初めて聞く話だったのか、ものすごく驚かれておいでだったが、リリベルとしては今更どっちでもいいことだなと思った。




