72
大神官様の告白は、なかなかの衝撃だったが、
「大神官様、一つ疑問があります。これまでの脱北者って、もしかして野生馬と関係があるのですか?」とリリベルが尋ねると、
「彼らは子爵殿の話では、馬の捕獲に成功するまで帰るなと言われて北から送られて来るそうだ。だが彼らは子爵領で保護されると逆に帰りたがらないそうで、子爵領でそのまま領民として暮らしているのだと聞いている」
マジか。北ってどんな国なの?!てっきり青薔薇を優雅に育てて眺めてる人達なんだと思ってた!
それにしても父!子爵領の秘密、多過ぎじゃないか!多分、上の二人もこれは知らないはず。
ではナル兄は?彼は子爵家を継ぐはずだから知らないといけないのでは?
「リリベルちゃん、聖女様も、お父上から手紙を預かって来ています」
トルテ様から姉が手紙を受け取る。
表書きは“マリィへ、リリへ”と書いてある。姉が手紙を開くと一言“心配するな”とあった。
筆不精にも程があるだろう!父よ。大体、宛名書きの方が本文より長いってどういうこと!
マリィ姉は迷わず手紙をゴミ箱に捨てていた。
新人騎士様が「えっ」て驚いていたけど、多分、マリィ姉も父の手紙には慣れているんだな。
それから、しばらく子爵領の聖騎士様の派遣は2~3名になるそうだ。王城の騎士団からも騎士の派遣を打診されたそうだが、そちらは野生馬の安らかな精神面の為に断ったそうだ。
リリベルは大神官様とトルテ様に別れを告げて薬草園に向かう。
マリィ姉ちゃんは、まだ防御壁の点検が終わってないそうだ。北の防御壁は、しばらく毎日見ることになったらしい。
お昼にずれ込むから夕飯の時に会おうねと言われた。姉ちゃんお菓子たくさん持って来たから頑張ってね。
リリベルはいつもの薬草園に到着すると、今日は殿下がいないから水撒きが大変だなと思った。
しかし新人の聖騎士様が「午後からは休みだから手伝いましょうか?」と申し出て下さった。
地下からの水運びは、なかなか大変なので男手があるのは助かる。リリベルは喜んでお手伝いをお願いした。
今日の薬草園担当の神官様と薬草の育成状況を確認していく。薬草は治癒や治療魔法に頼れない時に使ったり、神殿から遠い村に配ったり、魔法があってもニーズは高い。
特に痛み止めや解熱、殺菌作用のある薬は騎士達も常に携帯している。
収穫された薬草は神殿の薬事室で薬になる。ちなみに薬のレシピは新薬でなければ公開済みで神殿でも民間でも王城のも同じだとされているが、薬草の育成度合や新鮮さと収穫された場所によって効能の違いが多少出る。
マリィ姉ちゃんが聖女になってから、大神殿の薬草園はリリベルが時々面倒を見ているので、自分で言うのもなんだが、ここの薬は効能が優れていると評判だ。
ほとんどは聖騎士様用の薬になるが、余剰の一部は神殿のホールの売店でも買える。でも出したら直ぐに完売だ。だってとても良く効くのだから。
リリベルが薬草の世話をしている間に聖騎士様が水を運んでおいてくださるそうだ。
とても助かる。聖騎士様が水を運んで、ココットさんが手入れ済みの薬草に水撒きをしてくれる。
午前は順調に終わりそうだ。
お昼も聖騎士様と一緒にいただく事になった。姉ちゃんの侍女も神官様もリリベルに付いてくれる時は、いつも一緒に食事を食べている。
神殿の食堂で食事をしながら話をすると、なんと今、子爵領に駐在してくれている聖騎士様はアルテミス様と若手の騎士って言っていたけど、実はベルトラント様なんだそうだ。
夏休みにお会いした事を伝えると、ココットさんは「お元気そうで良かったわ」と仰っていた。
ベルトラント様は今、ファンクラブでも人気ナンバーワンの騎士様だが、聖騎士様の中でも人気の騎士様だそうで、新人騎士様も
「憧れてるんです」と仰っていた。
そう言えばザック殿下もお兄様が大好きだった。
マリィ姉ちゃん!すごい人に好かれてますよ。




