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リリベルは次の日、聖騎士のザッハトルテ様に会う為に大神殿に向かった。
伯父達からマリィ姉ちゃんへのお土産に、大量のお菓子を持たされ神殿の裏口に到着すると、今日は姉の侍女のココットさんがお迎えに来て下さった。
「リリベルさん、こんにちは。神殿にようこそ」
「ココットさん、こんにちは。今日も薬草園と菜園のお手伝いを予定しているのですが、まずは子爵領から戻ったザッハトルテ様にお会いしたくて」
「ええ、ちゃんと伺っておりますよ。これからご案内しますね。こちらにお越し下さい」
事前にちゃんと話が伝わっていたのか、ココットさんの先導で神殿の奥に案内される。
だけど、ここは普段リリベルが出入りしない建物だ。
この場所は普段、大神官様方がいらっしゃる建物だと以前、聞いたことがある。
室内に案内されると数名の大神官様と大神官長様、マリィ姉ちゃん、トルテ様と新人の聖騎士様がお揃いだった。
この面々がお揃いとはどうしたんだろう?何か子爵領であったのだろうか?!
「リリベル嬢、神殿に着いて直ぐに申し訳ないね。それにこの面子を前にして大変驚いているだろう。だが君もきっと知っておきたいだろうと考えてね」
「ご配慮ありがとうございます。あの…子爵領に何かあったのでしょうか?伯父達は何も言ってなかったのですが…」
大神官長様が、第一声でそう仰ったので、リリベルは心配の面持ちで尋ねる。
「リリベル嬢、ここ何年もずっと、北からの移民も侵入も子爵領にはなかっただろうか?」
「はい。数年前のトルテ様が野生馬と知らせに駆けつけられたのが最後だったかと」
「そう北から王女が嫁いで来てからは、北の隣国はずっと大人しかったようだが、最近、聖女の北の防御壁に北側から触れる者が相次いでね」
皆、神妙な面持ちだ。
「もちろん防御壁は破られてはいないが、触れる者が続くと意図的なのではないか?と懸念された矢先に、明らかに破壊しようとする攻撃があったんだ。幸い、接触が続いていたせいで、こちらも警戒していたから防ぐことができた。我々は直ぐに王城の騎士団にも連絡したが、子爵家への連絡も含め、新たな聖騎士を数名、子爵領に派遣していたんだ」
「今はアルテミス殿ともう一人、若手の聖騎士が子爵領で警戒をしている」
アルテミス様は女性騎士の最年長の聖騎士様だ。
「それはただの国境侵犯なのでしょうか?それとも脱北者なのですか?」
「リリベル嬢も、そこの聖女殿も、どうやらお父上から何も聞いておられないようだな」
とリリベルの質問に対して大神官長様が仰る。
私はともかく、マリィ姉ちゃんも知らないの?
「北の目的は随分前から、国境の山脈の子爵領側にのみ生息している野生馬だと我々は推測している」
「ええっ!?」
思わずアイツら?まで言ってしまいそうになった。
だって見た目は白いが、中身は真っ黒な馬達なのに。
「あの子達に何の価値が?確かに美しい子達ではあったけど」
マリィ姉ちゃんも驚いている。
まあ確かに馬達はマリィ姉ちゃんには大人しかったし、懐いていたよね。
「あの馬達は、とても賢いだろう?だから軍事目的で捕獲したかったのかもしれないし、純粋に馬達を奪いたかったのかもしれない」
「あの馬達の気性を知っていたら、そんな事、難しいと分かるはずなのに」
と私が言うと、姉は「ええっ、すごく良い子たちだったじゃない?」とか言う。
やはりマリィ姉ちゃんはヤツらの本性を知らないな?
トルテ様も新人騎士様も姉の言葉に眉を顰めている。ほらね?
「マリィお姉様、彼らは人の悪意を遠くからでも察知できるのよ。だから彼らを目的として侵入してきた人や、棲家を荒そうとして森に入る人には先制攻撃を仕掛けるの。しかも気配を消しての連携攻撃が凄いの。時には地形まで利用して敵を殲滅するまで容赦ないの」
「!」
あぁマリィ姉ちゃん…。
この姉ちゃんのビックリ顔、ぜひザック殿下とベルトラント様に見て頂きたい。
「でも北が野生馬を軍事利用以外で欲しがるとしたら、なぜなのでしょうか?別に我が国の保護獣とかでもありませんし」
「リリベル嬢、子爵領の野生馬達は女神様の愛馬であったユニコーンの子孫だと言われているのだよ」
大神官様は途方もない事を明かされた!
私はビックリし過ぎて、きっとさっきのマリィ姉ちゃんと同じ顔になっているはずだ!
そんな凄いお馬さん達は、なぜ国の保護指定獣になっていないの?でもその理由には思い当たる節がある。
そう彼らは自衛ができる。その上、守ろうとする者を逆に攻撃する可能性がある。きっとその為の女性聖騎士派遣だったからだ。
それにむしろ、彼らの存在を神殿も表に出さない事で逆に守っていたんだ。
「女神様の愛馬の子孫だったから、北に狙われるとは…一体どういう意味なのですか?」
こっちの方が疑問だ。
「それは、かつて国が北と西、東の三国に分かれる前、一つの国だった時代まで遡る。父神が国を三つに分け、北を姉に東を弟の息子に、西を末の妹に分け与えたのが三つの国の起源と言われるが、二人の姉妹は仲が悪かったようだ」
「弟が常に妹神の肩を持つのも気に入らなかった。しかも姉神は愛馬にしようとしたペガサスを弟に、ユニコーンを妹に奪われてしまった。北の国では弟と妹が汚い手段で馬を奪ったのだと考え、馬を取り戻したいのだと我々は推測しているのだ」
「大神官様、東の隣国にはペガサスの子孫はいるのですか?」
「それは…」
何だか言いにくそうだな。もう滅んでしまっているのか?
「隠しても仕方ないだろう?」
「そうだな。すでに南の国との交流もかなり進んでいる」
南の隣国が関係あるの?
大神官様は迷っていたが意を決して…
「実はペガサスは散歩で飛んでいる時、南のドラゴンに食べられてしまったのだよ」
大神官様達以外、全員でさっきのマリィ姉の驚き顔になった。
だから長いこと南の隣国とは最低限の交流だったのね。




