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学院祭が終わり、一息ついたところで明日から一週間の秋休みに入る。
寮はその間も夏や冬とは違って居ることができるが、リリベルは侯爵家に帰る事にする。
伯母達から相談を受けていた事もあるし、大神殿にも行きたい。
トルテ様達は、そろそろまた別の勤務地に行くそうだ。早く会いに行きたかった。
「リリベルちゃん!待っていたわ」侯爵夫人が出迎えてくれる。最近はずっと、このノリで迎えられてるなとリリベルは思った。また小説関連の話なのだろう。
ユノゴー氏も待っているそうだ。応接室に向かうと伯母とユノゴー氏が既に話し込んでいた。
そして伯父ともう一人知らない男性もいる。
リリベルが「お待たせしました。今、戻りました」と言うと、二人は顔を上げ「リリベルちゃん、小説の舞台化が決まったの!」と言ってきた。
リリベルには舞台化も想定済みだ。だって父達の話の舞台化だって伯母達がどうせやったんだろう。
だが今回は様子が違うようだ。何でもアイリーン様が王太子妃様からの注文を受け、彼女を満足させられなければ初日で公演を終了させられてしまうのだとか。
だが満足を勝ち取ったらモデルの妻達承認で興行できるらしい。
なんとも天国のようで地獄のような条件だ。
伯母の話では俳優選びが一番難航するであろうとのことだ。
確かに兄と王太子殿下の容姿の再現は手を抜けない。完璧なモデルの存在を知っている人が多過ぎる。あのイメージを崩すだけで舞台の評価は下がるだろう。髪は染めればいいが瞳の色は一致させなきゃいけない。
遠巻きでも観客はオペラグラスで瞳の色までしっかりチェックしてくるのだ。
彼らの色は北の隣国の人に多いとされている。あちらの国の出身者や子爵家のように北と国境の近い領には似た容姿が見つかるのでは?と言ってみる。
伯母は伯父のアドバイスですでにその辺りで人員を探すよう人を送っているらしい。さすが伯父だ。
最悪、うちの領に脱北者の村がある。そこに行けばたくさんいるかもしれない。と言うと伯父も目を見開いて驚いていた。
「そんな村があるのか!?」と。
さすがの伯父も子爵領内を全て把握している訳ではないか。だが脱北者の村と言っても全員ではない。
半分以上はうちの元々の領民だ。ただそこの村が受け入れ地になっているだけの話だ。
そこの村で脱北者に言葉やこの国の習慣などを教えるのだ。そして慣れてきて北に戻る意思が無ければ、村人の推薦を受ける。
父が領民と認めて国に提出し、その後この国の国民として身分証を得るのだ。
もちろん前職や前の身分は適用されず平民としてだが。
最近では脱北者はほとんどいない。だが父が結婚した当初までは年に数名いたそうだ。
最後の脱北者はリリベルも覚えている。
あの時はあの野生馬がトルテ様を乗せて子爵家まで走って来たのだから。
それはさておき今は舞台のことだ!
俳優は伯母と劇団に任せるとして、今、取り掛かっているのは台本らしい。
紹介されたもう一人の見知らぬ男性は劇団の脚本家なのだそうだ。
今回、王太子妃殿下を満足させる為の脚本を彼とユノゴー氏とで書き上げるらしいが、リリベルにも提案をぜひして欲しいと言われた。
リリベル的には提案は特に無い。小説に全ての熱を出し切っているし。だが最近うちのクラスでやった朗読を思い出す。
そうだ!とシャーロット嬢の采配を彼らに伝える。
彼らも「そうか、なるほど」とか言っているから参考になったのかもしれない。
またシャーロット嬢に役立ってもらったなとリリベルは思う。でも彼女の普段のリリベルに対する言動からすれば気にせず参考にすればいいだろうとリリベルは思った。
あと、パンフレットの表紙をマティアス氏に頼んでは?と提案してみた。彼の絵はかなり人気が出て値段も高騰しているらしい。
そんな人気画家の描いたパンフレットなら更に話題になるはずだしパンフレットの売り上げも伸びるだろう。




