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学院祭当日となった。展示形式のクラスやクラブは朝9時から16時までの常設2日間、発表形式のクラスやクラブは午前と午後1回ずつの発表機会となっているが、リリベルのクラスは午前1回目の発表で人が入り切れなかった。
その為、午後は2回発表をすることになった。
それが話題となり、更に2日目も2回の発表では足りないと発表数を増やすよう生徒からの要望が生徒会に上がった。
会場はこれ以上大きくはできなかった。これ以上大きな場所といえば入学式などで使う講堂の大ホールだ。今の会場はこれでも2番目に大きい。
だから発表回数を増やすしかないのだが、もちろんクラスの意思が優先される。なんせ自分達の発表に縛られて他のクラスの発表を見れないからだ。
しかし“プロジェクトS”として立ち上がった彼らのプロ意識はすでに学生の範疇を超えていた。
彼らは2日目、午前2回、午後2回、最後アンコール1回を発表し惜しまれて解散したのだった。絶対2回以上、観に来ていた人いた!
原作者の立場から言わせて頂いても、彼らの完成度は高かった。
本来、朗読なので衣装など要らないはずだったが、あのラブリー令息が衣装とメイクで危うい雰囲気の美少年に変貌し、見事役に成りきった。
そして王太子役の殿下も普段の子供っぽさは形を潜め、憂いを帯びた悩める美少年を演じ切っていた。
これは、ほぼ台本を持ったままの演劇だと言っても過言ではなかった。
バックミュージックも負けておらずバイオリン担当の令息が雰囲気に合わせたオリジナル曲を作曲し、ピアノや他の楽器演奏者と共に朗読を切なく盛り上げていた。そして時々入る効果音、足音や扉が開く音、馬車に揺られる様子や雨音まで上手く場面を創り出していた。
全てが合わさって目を瞑って聞けば尚、その情景が広がると言わしめる朗読発表会を成し遂げたのだ。リリベルもユノゴー氏に見せて差し上げたかったなと思えるほどだった。
そして我がクラスは当然のように学院祭最優秀クラスに選ばれ、成績に最高点が加点されることになった。
クラスを一丸としたシャーロット総監督の手腕が最も評価されたが、得点は全員同じ点数の加点だった。クラス単位の発表なので個人の活躍は相殺されるのも学院祭だった。
リリベルはほぼ参加していないのに申し訳ないな〜と思っていたが、シャーロット嬢が、
「リリベルさんの一言で殿下がやる気になったんですよ。だからちゃんとチーム貢献しています」とリリベルの貢献度も認めてくれたが、
「やっぱりリリベルさんがヒロインでした。疑って済みませんでした」で感動が引いていったのは仕方ないだろう。
そして、この学院祭で殿下の王族の皮も剥がれた。
今まで王族然として、どんな時も紳士的な態度を崩さなかったザック殿下だったが、この朗読の練習で文句を言ったり駄々をこねる姿に、彼も年相応の令息なのだと誰もが思い知った。
良い意味で王族の垣根が無くなり他の令息とも普通に付き合えるようになった。
そして令嬢たちも彼に夢を見るのを諦めた。
それって王族としてどうなの?いつも一歩引かれるのが王族なのではないかと思わないでもないが、まあ学生時代の三年間くらい普通に過ごすに越したことはないかとリリベルは思うことにした。




