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新学期が始まった。明日には中間の学力テストがある。
これは前期の学力がどのくらい身に付いたかを測るもので、作法やマナー、ダンスの実技、魔法実技のテストなどは学期末になる。
この中間のテストはあくまで学力だけを見るものだ。
本当なら明日のテストに向けて教室では緊張感が漂うべきなのだろうが、クラス内はどこか浮ついている。
主に令嬢の間でだ。ザック殿下が登校なさっても高位貴族の令嬢方が上の空だ。
こんな事、今まで無かったから殿下も不思議そうだ。
まあ令嬢達が浮ついている理由は一つだろう。
昨日、美しい侍従シリーズ第二弾が発売されたのだ。
しかも18禁バージョンは、美しい侍従に王太子の護衛騎士まで囚われてしまう三角関係。
13禁バージョンは、美しい侍従に嫉妬した王太子の護衛騎士の三角関係なのだ。
これは護衛騎士の恋愛対象を変えることで、どちらも読みたいと読者心を刺激する美味しい読み物にしている。
護衛のモデルはもちろんライオット兄だ。あの脳筋もこれぐらい役に立ってもらわないとだろ。3番目の伯父の所でも大変世話になったしな。
クラスの令嬢の様子を見る限りでは、また大ヒット間違いないだろう。
15歳の多感な令嬢方は、きっと18禁バージョンもドキドキで読んでしまったに違いない。
心の中では笑いが止まらないが、今回もリリベルは知らん顔をしておく。
だが今日は、いつもリリベルに絡んで離さないシャーロット嬢の様子が何かおかしい。
話し掛けて墓穴を掘りたくないが、でもおかしい。
リリベルはやっぱり放っておけなくて恐る恐る話しかけてみる。
「シャーロットさ〜ん?」シャーロット嬢はギュン!と音が出そうな勢いでリリベルの方を向くと珍しくシクシクと泣き始めた。
理由を聞くと、私の大事な学園物の園が邪悪な小説に侵されている!それに今まで信じていたヒロインが偽物かもしれない!
更に新しく流行っている邪悪な小説は「いかがわしい」と祖母に没収された!と。
「邪悪と思っても読むんだな」という突っ込みは、邪悪の発信者として黙っておく。
どれも、わりとどうでもいい理由だったことに安心したリリベルだったが、なんか祖母というワードが引っかかる。
しかも偽物ヒロインとは私のことだろうか?まあそれもどうでもいい。
それにしてもシャーロット嬢の実家は何をしているのだろう?官僚の家だとは聞いていたが。
明日のテストが終わった後にシャーロット嬢に話を聞いてみることにした。
ダイアナ様やジャスミン様ともお茶の約束をして今日は寮に戻る。
一応、明日のテストの見直しをしとかないとね。




