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入学して1週間経ったが、
「私はモブだから〜」今日もシャーロット嬢は意味不明発言、絶好調だった。
授業後は教師から学院のクラブ活動と委員会や生徒会の説明があった。クラブと委員は一緒に活動できるが、生徒会に入るとクラブ活動は難しいとのことだった。
1学年からの生徒会は、ほぼ1組から選出されるらしいので関係無さそうだなとリリベルは思った。
委員会は成績にプラス点が付いて就職に有利らしい。3組は下位貴族もわりといるので希望者が多く直ぐに決まった。
リリベルはクラブ活動一覧の紙に目を通す。ダイアナ様は読書クラブとピアノ演奏のクラブで悩んでらっしゃった。
「リリベルさんは?」と聞かれたので、
「園芸クラブか乗馬クラブかしら?」
と言うと、近くにいた伯爵令息と男爵令息が、
「リリベル嬢、一緒に乗馬クラブに入ろうよ、僕達が教えるよ」と誘ってきた。
いや田舎の貴族令嬢を舐めないでもらいたい。リリベルは父、ナル兄に混じって領地の森に生息する野生馬によく乗りに行った。
あいつらマリィ姉と父は喜んで乗せてたくせに人を見る賢い奴等だった。
リリベルがまたトリップしかかったところで、
「ダメよリリベルさんは製菓クラブに入るの。そこで手作りクッキーを作って王子達を虜にするんだから!」とシャーロット嬢が会話に入り込んできた。
クッキーじゃなきゃダメなのかい?リリベルは遠い目になった。さすがに令息達もドン引きしているところへ、シャーロット嬢が
「ああダメだわ。リリベルさんは生徒会に入るんだったわ」
と追い討ちをかけてきた。
いや人のクラブ活動勝手に決めんなや。リリベルの心の声は最早、貴族令嬢が剥げるどころか場末のチンピラだった。
結局、リリベルは園芸クラブに入った。冬場は温室だが、それ以外の季節は学院内の至る所に土魔法の顧問教師と庭師の指導の下、草花を植えて愛でるクラブなのだが、リリベルは目立たぬように、こっそり野菜やベリーなどを植えてやろうと企んでいた。
リリベルは食べれない植物にはあまり興味は無い。美しい花々は野菜を隠すカモフラージュだ。
「爺様、見ていてね」リリベルが渡り廊下の傍にある花壇で、スコップを握って意気込んでいるところに、生徒会の面々が廊下を通り過ぎて行く。
その中に同室のリリアン様がいるのを見つけた。さすがリリアン様。生徒会にお声が掛かったのねと感心して見ていると、気付いて手を振って下さった。
リリベルも軽く微笑んでスコップを持っていない手の方を振るつもりが、スコップを振っていたわ。
ここに父も婆様も居なくて良かったねと思っていると、一行が足を止めた。
「君がリリベル嬢か?」
何で知ってるの?と近付いて来た男子生徒を見上げると、銀髪に紫の瞳の美青年がリリベルを観察するように見ていた。
「コイツも紫タマネギか!」と思って首を傾げると、リリアン様が、
「リリベルさん、生徒会会長の公爵令息マレシオン様よ」とご紹介下さった。
「おぉ最高位貴族じゃん!」とリリベルはスコップを持ちつつも制服のスカートを摘み、
「子爵家のリリベルです。お初にお目に掛かります」と腰を落とした。ここは本来目線も落とすところだと婆様に習ったが、学院内はかしこまる必要はない。
代わりに生徒会ご一行様にニッコリと微笑んでおいた。でも何故かご一行様が一瞬怯んだ気がする。
間違ってガン飛ばしたか?
「成る程な」と生徒会長の公爵令息が仰って、ご一行様は去って行かれた。
「???」
あの後、花壇の隅にニンジンとラディッシュの種を蒔き、周りに花の苗も植えホクホクのリリベルに、部屋に戻って来たリリアン様が、
「リリベルさん、あなた聖女様の妹なのだから有名人なのよ。あまり無闇に愛想を振りまかないほうがいいわよ」と仰った。
リリベルはキョトンとする。すっかり、その辺りの事を忘れていたのだ。あんなにナル兄にもマリィ姉にも学院では「息を殺せ!気配を消せ!」と言われていたのに。
リリベルの笑顔はプライスレスではなかったのだ。ちっ、お値段以上か。でも教えてもらって良かった。
リリベルはリリアン様に盛大に感謝して、明日からは“無”で過ごそうと決意した。
はずだったのになー。