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結局、ザック殿下はまたリリベルの畑仕事について来てくれた。
すでに神官様によって耕された土地にタネや苗を植えるのがリリベルの仕事だったのだが、その後の水撒きを殿下がまた水魔法で手伝ってくれたので、いつもより簡単に仕事が終わり時間に余裕ができた。
殿下はミネルバ様に誘われて聖騎士本部の鍛錬場に行くらしいので、リリベルも見学に行くことにした。
リリベルはこれまで何度も大神殿には来ているが聖騎士の本部には行ったことがなかった。
これはクラスの女子が羨ましがるヤツだ。絶対、秘密にしとかないとだな。
リリベルは一緒してくれているユリアさん、フィリップ様と一緒に殿下が聖騎士様の鍛錬に交じるのを木陰に座って見学している。
横に座るフィリップ様がまだ眉間に皺を寄せているのを見て、リリベルは、
「フィリップ様はザック殿下が姉に想いを寄せていることに反対なのですか?」と聞いてみた。
フィリップ様は少し驚いた様子で、
「令嬢、実は私は以前は第一皇子殿下の侍従をしていたのです」と仰った。
それに反応したのはユリアさんで「まあラント様の!?」と仰った。
リリベルは何のことかさっぱり分からず目をパチパチさせる。
なんせ自分は第三王子殿下のお名前すら知らなかった世間知らず、いや常識知らずなのだ。
王太子殿下が第一王子ではなく第二王子だったのなら確かに第一がいるんだよな。とやっとのことで思い至る。
ユリアさんが「リリベルさん、第一王子殿下は王位継承権を随分前に放棄され、今は聖騎士様として神殿に所属なさっておいでなのです」と説明して下さる。
でも第一王子殿下とザック殿下にマリィ姉ちゃんがどうして関係しているのか分からない。
リリベルがフィリップ様を見ると、フィリップ様が、
「私の母は元側妃様の姉で元側妃様とは姉妹になります。つまり第一王子殿下は私の従兄弟なのです」と仰った。
「望まない結婚をした妹を心配して、母が私を妹とその息子の王子を助けるようにと王城に入れたのが始まりでした。私はまだ当時12歳でしたが優しい叔母と可愛い殿下と3人で過ごし、とても楽しかったのを覚えております」
「第一王子殿下は、名付け親の元聖女であられたカテリーナ様の影響を受け、聖騎士になられる事を目標とされておりました。そして殿下が無事に聖騎士になられた折、私は第三王子殿下の侍従として新たにザック殿下を主人としてお支えしているのです」
「ですが、その私のかつての主人のベルトラント様は聖女様をザック殿下よりも随分前からお慕いされておられるのです。だからもしザック殿下も聖女様を望まれたら私はどうしたらいいのか分からないのです」
「まあ!」とユリアさんが驚きの声を上げる。
マリィ姉ちゃん!王家を巻き込むまさかの三角関係ですよ?!
それ侯爵夫人達に知られたら、メッチャまずいヤツ!!




