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ララ姉ちゃんご夫妻はこの夏に子爵に陞爵され、納涼祭にはお披露目の為、一時帰国していた。しかし、またあっという間に南の隣国に戻っていった。
あれから侯爵家もリリベルにとって油断ならない環境に思えた。
リリベルは速攻で、残りの夏休みはマリィ姉ちゃんがいる大神殿に行くことを決めた。
納涼祭の翌日の新聞は“兄&王太子”と“ザック殿下&リリベル”が二分していた。
侯爵夫人達は大盛り上がりしていたので、その間にコッソリと出る。
アイオット様が「本当にごめんな」と言いながら餞別と有名店のお菓子を、伯父が米酒を持たせてくれた。おぉ大吟醸じゃん。
「マリィにヨロシクな」って相変わらず姉ちゃんへは破格の待遇だ。まあ聖女様だしな。
でも伯父が期待の若手芸術家に描かせた姉ちゃんの肖像画が傑作だった。伯父はしばらく亜然としていたが、抽象画だった上、画家の芸術センスも爆発していた。
一枚は姉ちゃんにも献上しておいたけど、リリベルは特にお気に入りで侯爵家の自分の部屋に飾っている。
でも兄ちゃんは遠慮していたな〜「夢に見そう」って。あんなに斬新で革新的なのにと残念に思う。
両親も「面白い」と持って帰っていたが、
「これはお祖母様には刺激的過ぎるな」と普通の絵も購入していた。
どうでもいい事を考えているうちに大神殿に着く。
だが、あれは王家の馬車じゃん!
神殿の裏口でリリベルは今、一番見たくないものを目に入れてしまってテンションが下がる。
そして赤い物も見えて、やはり侯爵家に戻るかと思っていると、ザック殿下が目ざとくリリベルを見つけて小走りにやって来た。
他人のふりをしたいが、さすがに王族相手では無理か。
リリベルは馬車の中から慇懃に礼をする。
「第三王子殿下におかれましては…『お手!』だからポチじゃないって!
リリベルが反発の意を示してプイッと顔を反らして無視していると、いきなり殿下に腰を掴まれ持ち上げられる。
ギャー!なんて事を!
「もう高い高いの歳ではありません」と言うと、
「何言ってんだ?手を出さないから、持ち上げて降ろしただけだろ?」と言ってきた。
「筋トレの成果だな〜」ってザック殿下はご機嫌だ。
「ザック様、令嬢に許可なく触れたり、いきなり触れるのは良くありません。ましてや持ち上げるなど王子がやっていいことではありません」
と以前、リリベルを王子宮まで案内してくれた侍従さんが注意して下さった。
「えーゴメン、ゴメン」ちっとも悪くなさそうにザック殿下が謝られる。
リリベルは、これはまたやられるに違いないと、次から、ちゃんと手を出そうって思った。
「ザック殿下、ここで何されていらっしゃるのですか?」
「ん?お前、大神殿に奉仕活動に来たんだろ?だから俺も一緒に奉仕活動しようと思って」
「そういうのは女性王族のお仕事なのではないのですか?」
「ああ。でも姉上が嫁いで居ないだろう?今は母上と義姉上しかいないから、代わりに来たんだ」
ま〜納得できる理由ではある。
しかしリリベルとタイミングを合わせなくても。なんなら大神殿じゃなくて孤児院とか他の神殿でもよくない?
だがこの後、ザック殿下が大神殿を選んだ理由をリリベルは知っしまうのだ。




