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王太子殿下が王太子妃殿下をエスコートしながら現れる。そしてその後ろに兄が付いている。
やはり期待通りだ。そして会場内にいきなり黄色い歓声が上がる。
「キャー来たわ!お二人よー」
「ヤダーお似合いね。本当に麗しいわ」
「ねぇ、もっと近付かないかしら?」
イイぞー!!逝け逝け!
「できれば妃殿下とポジ替えして欲しいわね」
おぉ!なかなか強者発言の者もいる。
王太子ご夫妻はいつもと違う雰囲気と妙な歓声に戸惑っている。
ザック殿下もマレシオン様も「何が起こったんだ?」と辺りを見回している。
シャーロット嬢が、「あー今、流行りのアレね。私的にはまだ学園物推しだったのになぁ」と言う。
やっぱシャーロットには分かるのね。
私はちゃんと作り物の令嬢を被って知らん顔をしておく。
私が伯母達に頼んでおいたのは、以前、侯爵夫人が言っていた、
“美しい侍従に囚われた王太子”の小説を発行してもらったのだ。
これがまた飛ぶように売れた。もう何版も増刷された。
なんせ実際に小説のモデルがいるのだ。
“美し過ぎる侍従”がね。
その上、王太子殿下のお気に入りで高確率で側に侍っているのだ。
そりゃご婦人方の妄想を掻き立てまくりだろう。
更に、リリベルは18禁バージョンと13禁バージョンと分けて広くファン層に読んで頂けるようにした。
18禁バージョンの内容は侯爵夫人達にお任せしたが、13禁バージョンの監修はリリベルさんの、これまでの恋愛小説熱をぶち込んだ逸品だ。
それにシャーロット嬢の、プチご意見も少々活かされている(本人には言ってないが)
あの時リリベルは侯爵夫人に言われた時、ピンと来た。これはもうすでに発行できる状態にあるぞと。
恐らく子爵家の誰かのGOを待っていたのだ。絶対、“両親の禁断の〜”とかも侯爵夫人達だ。小説だけじゃない舞台もオペラも噛んでいるはずだ。
リリベルはただ、兄の妻であるアイリーン義姉様のことが心配だった。彼女は今、妊娠中でご実家で静養されている。
さっぱりした人で兄に付く虫を払いながら王太子妃の侍女としてチャキチャキ働く頼もしい女性だった。
手紙では「面白いから許す」って返信来ていたし、完成品を送ったら「まじウケる」って返事まで来た。母君の侯爵夫人もハマったそうだ。
なかなかユーモアの分かる強かな女性で良かったと安心した。兄の出演料として印税も少しお渡ししておくか。
ファン層の黄色い歓声は国王陛下の登場まで続き、王太子ご夫妻は、ずっと謎の雰囲気の中、過ごしておられた。
私と殿下のペアの注目もこれで自然消滅するといいなと思っていた。
しかし、やはり納涼祭とは舞踏会だったのだ。すっかり忘れていたが王族が最初のダンスを踊ってから始まるのだ。
陛下達が音楽と共に踊り出すと王太子ご夫妻も加わり、次に成人を迎えた第三王子殿下も加わらないといけない。
えっ?第三王子殿下のパートナー?私じゃん!
「お手」ってまた手を出される。“ポチ”じゃねーし!また心を無にする時間だ。




