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前世も異世界転移もありません!ただの子爵令嬢です!多分?  作者: 朱井笑美


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 アイザックは南に向かう馬車の中で思った。

 “またこの面子!”

 

「殿下、考えている事がお顔に出ておいでですよ。これから出方の分からない相手に、交渉をしに行くというのに」

「じゃあストレートに聞くけど、またこの顔ぶれか?」

「王太子妃様の采配ですわ。どの道、ご一緒するつもりでしたけど」

「義姉上の?護衛の責任者もまたライオット卿だし、俺、リリベル嬢の従兄弟達に見張られてんの?」


「それを許す王太子妃様ですか?従兄弟なのはたまたまですよ」

「そうよ優秀なんだから仕方ないじゃない」

「悔しいけどその通りだ。だが俺に従順でもないよな?しかも国の為に働きながら国益一筋でもないだろう…ってそういう事か!」

 宰相補佐官も外務大臣補佐官も俺を見守るように見ていた。


 義姉が俺の為の相談役に付けてくれたんだ!リリベル嬢の事も含めて相談できるように。それに多分、俺が国の為にとか、南に嫁いだ姉上の為にって一人でテンパったり抱え込まないようにと。


「南の国まで十分時間はありますから、作戦会議を致しましょう」

「でもまだ向こうの要望が分からないだろ?」

「それはほぼ縁談に決まりじゃないですか!それに関しては相手が誰であっても応じるか応じないかの二択しかないので、後回しに致しましょう」

「ええっ!その為に行くのにか?」

「その話し合いだけだったら、我々じゃなくてもいいじゃないですか」

「それはそうだけど…」


「殿下のお心が決まっておられなければ、簡単にあちらさんから落とせると思われてしまいますよ。そうしたらただの種馬生活ですよ!」

「種馬!」

「そうですよ。調べに寄ると女王の王配は幼馴染の伯爵出の元騎士です。ずっと彼女の護衛だった。つまり王太子殿下ご夫妻と同じような関係の相手と結婚して、しかも王子までいる」


「もし女王との婚姻なら間違いなく種馬ですね」

 俺は想像して寒気がしてきた。きっと俺との間に赤い髪が産まれなかったら俺だけじゃない。俺の子供もどうなるのか!?


「よくそんな事、短時間で調べたな?」

「南の王族からの情報ですよ。彼らは殿下に執着する女王の様子を見ていた。だから事前に情報も集めていたんです。彼らだって、やすやす殿下に火山の国に嫁いでもらいたくはないのですよ」


「だが彼らには資源という問題があるだろう?」

「魔力石があってもそれは解決ではなく時間稼ぎにしかなりません。彼らもそれはよく分かっているのです」

「国を挙げて魔法を使える者を増やすのか、魔法に頼らない道を模索するのか岐路にいるのです。それは我々だって他人事ではない」


「俺達の国も?」

「まだ魔法を使えない者の報告はありませんが、よくお考え下さい。魔法は使えば使う程、鍛えれば鍛える程、伸びるのに高位貴族程、我が国では魔法が使えません」

「確かにそうだ。特に細かいコントロールは下位貴族の方が得意だし」

「これは他国からすると異例の事です。普通は高位貴族程、高度な魔法を使い魔力も豊富である事が多いのです。ですから今後は我が国も魔法に関する認識を変えていかないと、魔法を使えない者が出てくるかもしれません」

「確かにそうだ」


「まあでも今はそれも置いといて、殿下ご自身の事です」

「俺の…?」

「単刀直入に伺います。リリベルがお好きなんでしょう、殿下?」

「…そうだ。その通りだ。だから俺は王族を抜ける準備と、抜けても大丈夫なように俺自身の基盤を固める準備をしていたんだ。だがもうそんな時間は無いけど」


「リリベル嬢のお気持ちは…」

「さあ。俺には分からない。でも多分、良いところまでいっていると自分では思ってたんだ。多分、俺がちゃんと準備できて彼女に打ち明けたら…きっと“仕方ないな〜”って言いながら付き合ってくれるんじゃないかって」


「殿下、とっても健気!あんな従姉妹の為に」

「確かにリリには泣き落としの方が効くかもな〜」

「泣き落としのつもりじゃないけど…でもまあ、そのままズルズルと自分の方に引きずり込もうみたいな気はあった」

「あながち間違ってはいない戦法だな」


「でもリリベル嬢は、多分、殿下の事、お好きですよ?」

「ええっ?!何で分かる?」

「だってどう考えてもねぇ。うちの主人も同じ認識でしたし」

「フィリップもか?」

「リリは確かに殿下には気を許している。俺達、従兄弟と同じ枠のように見えて違うのかもな」


「そうそう!殿下が手を差し伸べるでしょ?そうすると他の人のエスコートよりも顔が輝くの。嬉しいって。多分、あれは本人も気付いてないわ」

「そうか?!」「そうよ!」

「そうだなぁ。だったら一度引いてみるか。殿下、帰国してもリリベルとしばらく会わないように。こちらの情報も危機的なものが無ければ本国にはシャットダウンしよう」


「それは大丈夫なのか?」

「大丈夫ですよ。全部、こっちに任されてますし」

「俺、何か乗せられてる気がする」

「リリベル嬢にはお返ししないとね」

「そうだな。毎回、リリにシテやられるのはつまらないしな」

 二人共、何だか楽しそうだ。

 リリベル嬢、国の立派な大人を敵に回しているぞ。

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