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次の日、リリベルは昼食後にアイオット様に執務室に呼ばれた。
「アイオット様、リリベルです」
執務室の扉をノックすると内側から侍女さんが開けてくれて中に入る。
「リリ、旅の疲れを癒しているところに呼び出して悪いね」
「何かあったのですか?」
「うん。一つは王城からの便りでね。王妃様が南での一件を聞いて体調を崩したらしいんだ。でも神官に会いたがらないそうで、君をお望みなんだそうだけど…王城に来て欲しいそうなんだが、どうするかい?」
それは断れないのでは?
「疲れているだろう?断ろうか?」いやいやいやいや!!
「大丈夫!行きます。行かせて頂きます!」
アイオット様はクスッと笑って
「うちは断っても大丈夫な家だよ」と仰った。
それはそうかもですが…困っている人は王妃様じゃなくても助けなきゃ。
マリィ姉ちゃんにも、お祖母様にも知られたら締め上げられる。
「直ぐですか?準備して来ます」
「ああ。いつでも良い時に来てくれと言っていたが、リリベル、もう一つ伝える事がある」
「何でしょうか?」
「侯爵領の事なのだが、領内に港があるのは知っているか?」
「え〜と、確か大きな貿易港?だとナル兄ちゃんが言っていたかも」
「そうだ。そこで問題が起こった。マリィの防御壁は陸地のみだ。海上には及ばない。つまり海からの攻撃は防御しないと防げないのだが、最近、海賊が発生している。冬までに対処しないと被害が大きくなる恐れがある。今は父が領地で指揮を執っているが、父は引退しているし負担を掛けたくない。だから私がまた行くのだが…手が足りない。ベルナルドを呼び戻すよ」
「ナル兄ちゃんを?」
「ナルが野生馬に乗れるのを、もう待ってやれないんだ。申し訳ないが、そこは私の力不足でね」
「ううん。そんな事ないよ」私は首を振る。
「それに、きっとナル兄ちゃんも侯爵家の力になる方が優先だと思うはず。野生馬はまたチャレンジできるから」
「そうか?そうだといいけど」
「私は、これから王城に行って来るよ」
「ありがとうリリベル。王城には連絡しておくよ」
私は自室に戻って、侍女さんに手伝ってもらって他所行きのワンピースに着替える。髪を整え化粧も薄くしてもらってから階下に行くと、執事さんが馬車を用意しておいてくれていた。
王城に着くと馬車留めには、恐れ多くもザック殿下が待っていて下さった。
「殿下?お会いするのは新学期になると思ってたのに」
「ああ悪いな、リリベル嬢。俺もそのつもりだったのだが、母上が俺のせいで体調を崩したんだ」
リリベルは殿下のエスコートで話しながら王妃様の元に向かう。
王城の王妃宮にはお茶会で2回来たから今回で3度目だ。
殿下の話だと王妃様は、南の王族が襲撃されザック殿下も巻き込まれたと聞いて心配し、心労で倒れたらしい。
皆が無事だと聞いた後も寝込んだままで、王太子殿下や公爵様が神官様を手配するのだが会おうとされないのだそうだ。
「なぜ王妃様は神官様にお会いにならないのでしょうか?」
「さあ分からないんだ。ただ会いたくないと。だが俺が戻って、母上にお会いしに行ったら、君になら会ってもいいって」
「私、神官じゃないですけど」
「それは分かっているよ。だけど、その言いにくいんだけど、母は子爵領に一緒に行っただろ?それで多分…その多分だけど君達は北の王族の人達に近い容姿をしているから安心するというか、仲間意識みたいなのを感じているんじゃないかと」
「そうなんですかねぇ。でも分かりました。私がお役に立てるなら」
「母上、アイザックです。リリベル嬢と参りました」
殿下が王妃様のお部屋をノックするとドアが開いた。王妃様の寝室なんて私なんかが入ってもいいんだろうか?
リリベルは戸惑いながらも恐る恐る中に入る。
ザック殿下はリリベルに構わず、どんどん中に進んで行く。カーテンの閉じられた窓辺の方まで行くと王妃様はベッドの枕とクッションにもたれて横になっていて、側には公爵様がいらした。
リリベルがスカートを摘んでお辞儀をしようとすると、公爵様は手で制され「リリベル嬢、私は席を外すから王妃様を頼むわね」と仰って部屋から出て行かれた。
王妃様の寝室は全体的に水色を基調としたお部屋になっていて壁紙やカーテンなども水色で家具は白が多かった。
リリベルが失礼にならないようにソッと部屋を見渡すと、南の王女殿下の所で見た物と同じ物があった。
「あっ!ビーバーちゃんだ」
リリベルは王妃様の側に行く前に、思わぬ物を見付けて、つい声に出して言ってしまった。




