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「リリベル嬢、そのお人形を知っているの?」
「あっご挨拶もせず、申し訳ありません」
「いえ、いいの。これは私の母なのよ。私が産まれる前だけど、母が女王に即位した時に記念で作られたそうなの。私がこの国にお嫁に来る時に青薔薇と一緒に持たせてくれたの」
「そうなんですね。実は、これと同じ物を南の国の王女殿下がお持ちで、とても気に入っておられたのです」
「まあ。このお人形を?」
「王女殿下のビーバーちゃんて、母上のこの人形なのか!」
ザック殿下も何度も見たことがある人形だったのだろう。だけど、殿下はビーバーちゃんと王妃様のお持ちの人形が結び付いてなかったようだ。
そんな事よりも
「王妃様の体調が優れないと聞いてお伺いしたのですが?」
「ああ。それで、わざわざ来て下さったのね。あなたも帰国したばかりで疲れていたでしょうに。私のせいでごめんなさい」
ザック殿下に促され、リリベルはベッドの側にある椅子に腰掛ける。
「王妃様、なぜ神官様の治癒をお受けにならないのですか?」
「私はどこも悪くないからよ。ただ王女が…娘が南で命を狙われたと聞いて、自分の立場と重なったの。あの子も南で国民から受け入れられていないのではないか?って。そしたら胸が苦しくなって。しかもアイザックまで危険な目に…」
「母上!そんな事お考えだったのですか?姉上は南の国でとても人気があり歓迎されておりました。襲撃をした者達は、一部の反対派です。王太子に自分の娘を嫁がせたかった者や、龍神への盲信を理由に私利私欲に駆られた者たちです」
「本当に?あの子は南の国で受け入れられているの?」
「大丈夫です。姉上はお子も身籠られ、幸せそうでらっしゃいました」
「本当に?」
王妃様はザック殿下の言葉だけでは不安なのだろう。隣にいたリリベルの事も見つめる。
「王妃様、第三王子殿下の仰る事は本当です。青薔薇にも頼らなくてもいい程、お幸せだと。それに、この襲撃をきっかけに母として強くなる決心をしたと申されておりました」
「そう!そうなのね良かったわ…(私と違って)」王妃様は仰らなかったけど、言葉の最後にその言葉が隠れていたような気がした。
「王妃様、回復魔法をお受けになりますか?」
リリベルは王妃様に向かって手を差し出す。
王妃様は少し迷ってらっしゃったが「では、お願い」と、弱々しくだが手を伸ばされた。
その言葉を聞いてザック殿下は安心されたようだった。
リリベルは王妃様の血の気の引いた冷たい手を握って回復魔法をかける。
王妃様はどこも悪くないと仰っていた。
回復させるのは体だけだ。気怠さや、体の重さやコリなどを和らげるよう血流を促進させるイメージで取り除いていく。それだけでも回復したと感じられるはずだ。
「まあ!体が軽く楽になったわ。ありがとうリリベル嬢」
「母上!お食事はされますか?少しは食べられるのではありませんか?」
「そうねぇ。少しお腹も空いたかも」
「では食事を準備させましょう」
「ありがとう。アイザック」
殿下は直ぐに側にいた侍女に食事を依頼している。
「リリベル嬢、本当は神官様に会うのが少し怖かったの。私は北の出身でしょう?それに私はカテリーナ様に…聖女だったカテリーナ様に嫌われていたから…」
王妃様はそう言って下を向かれた。
王妃様も沢山、苦しまれたのだ。




