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「子爵夫人は大丈夫だったか?」
「はい。お陰様で。大事を取って、この後は屋内で過ごすそうです」
姉は凄い勢いで下着のデザイン画を描いていた。今日は部屋から出ないだろう。
いや出て来たらダメだ。仮病がバレるだろう。
お昼ご飯はソーメンというウドンより、かなり細い麺を、またダシの効いたショウユで頂いた。ウドンより喉ごしがよく何杯でもイケる気がした。
リリベルは、このソーメンをワンコスタイルで頂いて、積もり上がった椀の量を皆に驚かれた。
だって両脇からライ兄とエリオット様が、どんどん私の前に椀を置くんだもん。
この何杯でものスタイルの蕎麦バージョンが“わんこ蕎麦”の由来なんだと第二王子殿下から聞いて感動した。
「うちはアップルワインでやりますよ!」
って張り切って言ったのに呆れられた。
ゴメンなさい。南の伝統を飲んべえ行為で汚しました。
お昼の後は教わった盆ダンスを皆で踊った。
沢山の人と同じダンスを踊るのは初めてだけど楽しかった。
地元の人にもダンスを褒めてもらったし。
日が暮れる直前まで皆で踊ったり出店で食べたり飲んだり、南の国で過ごす最後の良い思い出になりそうだった。
だがリリベルは気付いていなかった。
リリベルのユカタは部屋では濃いターコイズブルーだったが、明るい外で見ると、しっかりスカイブルーだった。そして纏められた髪には赤いリボンが付けられていて、ザック殿下の色にされていたのだ。
シャーロット嬢は満足気にしていたが、マレシオン様だけでなく、ザック殿下まで遠い目になっていたと聞いたのは、随分、後の話だ。
なんせその日に大事件が起こったのだ。
リリベルは着ていたユカタなんて、当然、すっかり忘れていた。
夕飯前に王城に戻って帰国の準備をする。
皆、元々の荷物も少ないが、リリベルはほとんどのお土産を姉にお願いしていた。直ぐに手が空いたのでシャーロット嬢やリリアン様の手伝いをしようとしたところで、侍女さんがリリベル達を呼びに来た。
これから王城の天守閣で、国民に向けて王太子妃様の懐妊報告をするのだそうだ。
花火が上がって明日まで盆ダンス大会が延長される事を国王陛下から伝えられるのだと教えてくれた。
3人で王城近くまで行くと、お城の周りは、とても大勢の人が集まっていた。
今日の午前中にはすでに新聞などで懐妊や盆ダンスの延長が知らされており、国王陛下から直接聞きたい人がお城の周りに集まって来ているのだそうだ。
「ビーバーちゃん来てくれたの?」
「王女殿下、これから発表があるって伺って」
「そう花火も上がるよ!楽しみだね」
ここには王女殿下とザウルス様、リリベル達5人しかいなかったが、殿下や令息達もきっとどこか近くにいるのだろう。
集まった観衆から「ワァッ」と声が上がる。
国王陛下と王太子ご夫妻が天守閣のテラスに立たれたようだ。
陛下から拡声魔法で、王太子妃が妊娠しており新年を前に出産予定である事、それを祝って明日も盆ダンス大会が1日延長される事を国民に伝えられた。
大歓声が上がり、王太子ご夫妻が笑顔で手を振り歓声に応えているのが下から見えた。
花火も上がって賑やかになった時に、それは起こった。
急に花火の火花が王太子ご夫妻目掛けて飛んで行ったのだ。
王太子殿下が直ぐに水魔法でそれを弾いたが、追い討ちのように火炎魔法が天守閣目掛けて飛んで行く。
これは花火ではない!
集まっていた国民も大騒ぎで大混乱になる。
第二王子殿下も駆け付け、水魔法で防御に加勢している。
「姉上!」ザック殿下の声もどこか近くで聞こえた。
王城は木造だ。王太子夫妻と共に城も燃えないように防がなければならない。
大変な事になった!
「お兄様!」王女殿下が叫ぶのをザウルス様が抱き締めて
「彼らは大丈夫だから!君も避難だ」と言って連れて行こうとする。
確かに王族を狙ったものなら王女殿下も危ない。
「君達も一緒に避難しよう」とザウルス様に言われて逃げようとした時に、火の魔法と共に風魔法が城に向かって放たれたのが分かった。
稲刈りをする時と同じ、風で鋭い刃を作る魔法だ。
強力な鋭い刃物のような風魔法が天守閣目掛けて放たれている。
風魔法は水魔法で防せぐのは困難だ。
南の王族は皆、水属性だ。
誰か土魔法使いはいないのか?!
「はっ私だ!」リリベルは城の方に走って行く。
「ビーバーちゃん!危ないよー!」
王女殿下の叫び声が聞こえたが、リリベルは混乱する人々をかき分け一生懸命走った。




