3-2
このお話は、一応R15だという事を思い出してお読みください。
一応ですね、一応…
婚約者、と言った美少女をまじまじと見詰める。どこからどう見ても文句の付けられない美少女。胸がなさそうなのが残念なくらいで、これだけ華奢ならそれもまあアリだ。
この容姿で巨乳ちゃんだったら、それはもう犯罪だ。貧乳で良かったのかもしれない。
お約束ならば、十八の王子様に結婚相手が居ない訳がない。
こちらの適齢期は分からないが、王族は血を残すのが義務みたいな感があるし、幼い頃に決められた相手なんて珍しくもないだろう。国同士を繋ぐなんて義務もあるはずだ。
とするならば、この美少女はどこぞかの王女さまとか権力者の娘に違いない。それは彼女の身を包む、高貴な空気からも想像出来る。
小さな両手をぎゅっと握ってから、私は大丈夫、と目だけで伝えると手を離した。ぐるりと振り返ると、未だ無表情の美人。
その胸倉をぐいと掴む。
「こんな美少女がいるというのに、私なんかに現を抜かすとはどういうことだぁ!」
「お前は…どこまでも違う!」
「何がよっ!っていうか、なにこの美少女!ラグラスとの子供なんて、びっくりするぐらい綺麗な子が産まれちゃうんでしょ!ちょっと、早く赤ちゃん抱かせなよ」
「何故男目線なのだお前は!」
「どこがっ!?近所のおばちゃん目線でしょーが!」
「ああ、もうお前は!」
胸倉を掴んだ手首をがちりと掴まれ、私とラグラスはぎりぎりと睨み合いを続けていた。
ええい、誰が引くものか。
私なんかより、誰がどう見たってこの美少女のが良いに決まってるじゃないか!私だってこの美少女を相手にすると、女の子は愛でるものという信念が揺るぎそうなくらいだというのに。
「何の騒ぎだ…」
のそり、と眠そうな目を瞬かせて現れたのはおっちゃんだ。ここの主であるというのに、挨拶するのもすっかり忘れてた。
「あら」
「セリョウ!久しぶりだな。元気でおったか」
「はい、お父様もお変わりなく」
………?
いま、なんと?
「おとうさま?」
「お前の父親になったつもりはないぞ」
そんなことを言っている訳ではない。若干メタボで人の良さそうなおっちゃんが父親なんて、まあ弄りがいがあって可愛いし悪くはないが、うちの父親とは系統が全然違くて。おっちゃんが父親なんて想像出来ない。
ああ。いや、違う。
そうではない。
「この美少女のおとうさん?」
「そうだ」
むっつりと言うおっちゃんと美少女を三度ほど見比べて。
「うそだあぁぁああ!」
私は力の限り絶叫した。思考回路は…と、昔懐かしいアニメソングがぐるぐると頭の中を渦巻いていた。
何という悪夢だろうか。
天変地異でも起こらなければこんな事がある訳がない。夢だ、夢。きっと悪夢に違いない。
「ううーーううーーそんなばかなぁ…」
「お前は…いい加減起きろ」
「うわぁ!」
耳元で囁かれたその声に私は飛び起きた。案の定、そこには呆れた表情のラグラスが居て、お尻のふかっとした感触で自分がベッドに寝かされていたのだと理解する。
シャットアウトしようとしてしまった。いや、してしまった。
気を、失ってしまうとは。そこまでショックだったのか、と自分でも驚いてしまう。
遺伝子の悪戯。
生命の神秘。
神の起こした奇跡。
どんな言葉を並べても、この現象に当て嵌まるものはない。
「ラグラス」
「何だ」
私の真剣な表情に気圧されたラグラスは、勝手に私の頬を撫でていた手を止めた。
「美少女ちゃんは養子?」
「…違う」
「じゃあ奥さんの連れ子…ええと、前の旦那さんとの子供とか」
「れっきとした、血の繋がった親子だ」
「嘘だ!私は騙されないぞ!きっと奥さんが浮気して出来た子に…」
「奥方が亡くなった今でも、後妻も持とうとしないあの人と、その夫にべったりだった奥方が、か?」
「嘘だぁ!遺伝子的に有り得ない!」
「…お前、本当に酷いな」
酷いのはこの事実だよ。
「あ!美少女ちゃんは?!」
「いいか、アイ」
「うえ?」
鼻息荒く彼に詰め寄ったのだが、逆に冷静に詰め寄られた。
青色がじっと私を射抜くと、頬に置いたままになっていた手を滑らせる。ぞくりとするその感覚に、私は肩を竦めた。
「俺は、あれと一緒になるつもりはない。おまえが…」
「何で?!じゃあ私が結婚する!」
「ああ…だか…ら」
「こっちの世界は同性でも結婚出来る?!いや、別に肉体関係とか、うん、いや、やっぱプラトニックで…あ、でも、木村さんの頭脳を持ってすれば、卵子同士での受精も簡単に成功させそう!やっぱ美少女の遺伝子は遺すべきだよね!世界遺産だもん」
付き合う時は、まずその男と出来るかどうか想像するのよ、と教えてくれた友人。うん、私、あの美少女ちゃんとなら出来る気がするよ!あの子Sっぽいけど大丈夫かな…いや、きっとイケる!あの子のためなら甘んじてMになろう。
ぐぐぐと握った拳を掴まれ視線を上げると、彼の金髪が目の前にあって唇には柔らかな感触。
またキスされた!ちょっとラグラス、調子に乗ってない?!
押し返そうにも、ベッドに着いていた片手もいつの間にか縫い止めており、身を引くくらいしか出来ない。引いてもその分彼が寄れば、必死で作った間は埋まってしまう。
調子に乗っているとしか思えない。やわやわと下唇を食んだかと思えば、滑り込ませた舌で内側から唇を撫でていく。
ぞくり、と背に走る甘い痺れにぎゅっと眼を閉じるが、それで逃げられる訳でなし。更に中へ中へと入ってくる舌は歯列を、舌を撫で回っている。それが舌の付け根を撫でた瞬間、私は悲鳴に近い声を上げた。
身体の芯を電気が走る。それに気付いたらしいラグラスはくつりと笑って少しだけ唇を離した。
「ここが弱いのか…そのような眼をして、煽っておるのか?」
煽るか馬鹿!と心中では叫んでいたが、唇だけでなく全身の力が抜けてしまった私にそれは叶わない。どんな眼をしているかも分からないというのに、どう煽れるというのか。
勝手に良い方向に解釈したらしい彼は、くは、と声を上げて笑うとそのまま唇を重ねてきた。
先程判明した弱い所を重点的に攻められ、私はもうぐてんぐてんだ。いつの間にかシャツの裾から大きな手が侵入してきているのに、全く抵抗出来ない。脇腹を撫でられて上げた悲鳴はラグラスの舌に絡め取られた。
今日の服装はショートパンツにオーバーニーのソックス。生足部分に視線を遣って眉根を寄せ、それはあちらで普通の服装かと常識を問いてきたくせに、今はその脚をやわやわと撫でてくる。
このセクハラ王子!
「ん、あっ!」
突然与えられた強い刺激に悲鳴を上げた。脇腹にいたはずの手の平が、いつの間に下着を押し上げており、膨らみを撫でて頂を指でこね回す。
このままでは完全にヤられてしまう!
「あ、ちょ…!いい加減に…!」
「そのくらいでお止め下さいませ。殿下」
「へ?」
声は美少女ちゃんのもので。
慌ててそちらを向けば、笑顔だというのに青筋が浮いて見えそうな程に頬を引き攣らせた彼女が居た。
溜息と一緒に、ラグラスの舌打ちが聞こえた気がしたが、それどころではない。
「ごごごご誤解!誤解だから!これはラグラスが勝手に…!」
「わたくしはそのような事は気に致しません。その前に、無駄な脂肪を直したら如何ですか?」
「え?あ、ああ、胸?」
無駄な脂肪って…と思いながら衣服を整えていると、後ろからラグラスに抱き込まれた。このセクハラ王子め!人が誤解を解こうと必死なところを邪魔しおって!
「俺は国に戻るつもりはない。お前とも結婚するつもりはない。王妃になれぬなら、俺と結婚する意味もないだろうが」
「わたくしは殿下を御慕いしております。王妃になれぬとも構いません」
「え、うそ?!愛の無い婚約者じゃないの?!私が入る隙は?!」
「ございません」
にっこりと笑う美少女に、私は失恋してしまったようだ。
「私の恋が!」
わあと溢れ出した涙は止まることなく。私はラグラスの胸に縋り付いて泣いた。
「お前はどこまでも…」
「ど、どうなさったの?」
「お前に失恋したのだ」
「わ、わたくしに?!」
一歩引く気配がして、私は更に凹んだ。
私の本気の恋が。
自分で告白もする前に敗れてしまったのだ。今日は自棄食い決定だ。木村さんに付き合ってもらおう!
「大人しく俺の妻になれと言っておるだろう」
「いやだってば」
全く、どさくさに紛れて何を言ってるんだか。
肩を落としたラグラスを見て、ちょっとだけ気分が晴れたのは黙っておこう。
うん。