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A Life Is Mine !  作者:
13/32

2.非現実来訪

「イ、イケメン」


隣でぼさ、と紙袋を落とした音がした。そう言えば美奈は、イケメン好きだったな…

あれ?でも、ジャニ系の可愛いのが好きなんじゃなかったけ?しかもJrとか若い子。イケメンならなんでも良いのか?


隣で硬直しているであろう親友の視線だけでなく、私の、それどころか道行く人々の視線全て集めているイケメン。

綺麗な金髪はプラチナブロンドの見本のようで、きらきらと太陽光を跳ね返して輝いている。肌は陶器のように滑らかで艶やか、染みもシワも見当たらない。宝石のような蒼い双眸が、静かにこちらを見下ろしている。

白シャツにジーパン、オレンジのダウンジャケット。裾上げの必要が無かっただろう股下の長さにびっくりだよ。っていうか、普通に売ってるのだろうか、このジーパン。彼が着てれば量販店の安物でも、高級ブランドに見えるだろう。

ちくしょう、なんて汚い言葉を呟いてしまう程に完璧だ。


完璧な美貌はほとんど無表情のようだが、ぴりぴりと伝わってくる刺すような怒り。これ、完全に私に向かっているよ。

怖い。怖い怖い怖い!!

っていうか、何で居るんだおまえはぁあ!


「何故、会いに来んのだお前は」

「ななななな」

「な?」

「何で居るの!」

「お前が会いに来んからだ」


至極当然、と言わんばかりの美形に、私はがくりと肩を落とした。

平穏な日々が音を立てて崩れ落ち、完全終了しようとしている。

誰か、助けて。









ビオラから戻ってきた私は、まず、父親の電話をあしらい、母親に課題の邪魔をすると言い付けた。今頃は鉄拳込みのお説教が行われているだろう。

そんな事を考えながら部屋に戻り、泥のように眠った。翌日の朝ごはんに間に合ったのが奇跡である。

平穏無事な一週間を過ごした後、木村さんから週末のお誘いを受けた。


「木村さんは毎週末向こうに居るの?」

「そうね、大体は向こうに居るわ」

「っていうかさ、何でここで管理人なんかしてるんですか」

「あーまあ、色々あるんだけど…面倒だから、今度説明するわね」


行くか、行かないのか、と視線で問い掛ける木村さんに首を横に振り、行かないと意思表示をする。


「そっか…また、ラグラスの攻撃を受ける訳ね」

「えーっと、どんな攻撃か知らないけど、甘んじて受けて下さい。私、今月はずっとバイト入ってるし」

「ちょっと顔見せるだけでも」

「私はもう行かないんですってば。ラグラスの攻撃が嫌なら、木村さんも行かなきゃいいじゃない」

「どっちでも研究してるし、ロベリアの監視もしなきゃいけないのよねぇ」

「ラグラスが居ない所でやればいいんです」


むっと頬を膨らます。

あれは私が居て良い世界じゃない。ラグラスと結婚なんてしようものなら、歴史を変えてしまうような気がする。

国際結婚でさえ文化の違いとかで大変なのに、異星結婚だなんて。そもそも、ラグラスは人類なのだろうか?

あ、頭痛くなってきた。


「何か色々無理」

「分かったわよ。でも、あの子凄いわがままなんだって覚えててね」

「そういうトコだけ年齢相応ってどうなんですか」


その言葉がどういう意味かだなんて、その時の私はちっとも分かってなかった。



それから一月は忙しいけど平穏な日々だった。

年末が近付いてきたものだから、課題だなんだと忙しく、週末だけ入っているカフェのバイトも慌ただしい。あちらの世界を思い出す事もほとんどない日々を過ごし、気付けばあっという間に師走。

今日は、冬物バーゲンに付き合えと、バイト先に乗り込んできた親友と共に買い物をしてきた帰りであった。

合コンに着て行く服を買った親友は上機嫌で、夕飯を奢ってくれると言っていたのに。

全部、終わりだ…


「ラグラス!」


きき木村さーーーん!

ラグラスの背後には木村さんの姿があった。あんたか!あんたが連れてきたのか!っていうか、それしかないんだけど。


「外に出ちゃ駄目だって言ったじゃない!」

「これが戻らぬのが悪い」

「ちょ!私のせいにするな!」

「あなた、どれだけ自分が目立つか分かってないわね?!私の身を滅ぼす気?」

「勝手に滅べ」

「ほんっと可愛くない!」


二人がお馴染みの言い合いを開始し、美奈は私のスカートを引っ張った。

美奈は私より随分小さい。言い合う二人に背を向けて、手招く美奈へと腰を屈めてやった。


「何なの、このイケメンと美人」

「えーっと…」


何と説明すべきか。

異星人たちです、なんて言える訳ないし信じて貰えないだろう。


「寮の管理人さんと、そのお知り合い?」

「何で疑問形なのよ」

「いやーほら、うん」


空気読んでよ、空気。私もういっぱいいっぱいでしょ?これ以上突っ込まないでよ。


「アイ」

「ふああい?!」


唐突に背後から掛かった声。腹に響く僅かに低い美声に、久しぶり過ぎて鼓動が跳ねた。

名を呼ばれるのは二度目だろうか。名を呼ばれただけでこれだから、この声が愛なんか囁いた日には、乙女達がばたばたと倒れてしまうだろう。

振り返ると、思いの外近い位置に居るラグラス。首が痛くなる程に見上げないと顔が見えない。

手首を捕まれ、ぐいと引かれ歩き出す。


「行くぞ」

「ど、どこに?!」

「屋敷に決まっているだろう」

「ままま待って!無理だから!待て!」

「何が無理だと言うんだ」


彼がひどく真剣な表情で振り返った瞬間、木村さんの言葉を思い出した。

言い出したらきかないんでしたね…

ちらり、と辺りに視線をやると、嘆息している木村さんと、口を開けて呆けている美奈。それだけでなく、通行人も私たちのやり取りを見ている。


「とにかく場所を変えよう。美奈ごめん、帰るね」

「うん…」


その視線は説明しろ、と物語っているが、そういう訳にもいかない。言い訳考えなきゃなぁ。


「木村さん、どこか人目の無い場所知りません?」

「…カラオケ?」


ラグラスがカラオケ……に、似合わない。似合わなさすぎて笑えてくる。

だからと言って、他に案が浮かぶでなし。カフェ、ファミレス、何処に行っても悪目立ちすること間違いない。

寮は家族であっても男子禁制だ。警備員さんも居るし、ラグラスを連れ込むには無理がある。


「行きますか」


離そうとしない彼の手を引いて、一番近いカラオケに足を向けた。








物珍しそうに辺りをきょろきょろとするラグラスは子供のようで何だか可愛い。カラオケに着いても、モニターやリモコンに興味を惹かれるらしくあれこれ触っている。

木村さんはトイレに行ってくるから、その間に痴話喧嘩でもしてなさい、と席を外している。

ミルクティーで一息着いた私は、落ち着きないラグラスの名を呼んだ。


「飲み物、飲みなよ」

「ん?ああ」


ミルクティーをまじまじと見詰めてから、一口飲み干したラグラスは僅かに眉を寄せた。


「甘い」

「じゃ、こっちにする?」

「いや、良い」


何が口に合うか分からないので烏龍茶も頼んであるが、甘いと文句を言う割に気に入ったらしい。

何から切り出すべきか。どう切り出しても、惚気というか自意識過剰にしかならない気がする。は、恥ずかしい…

頭を抱えたくなったが、木村さんの前でするよりはマシだろう。


「…何で会いに来たの」

「お前が来ないからだろうが。この星では夫を蔑ろにするのか」

「それは人それぞれだけど、正式に結婚した訳じゃないし。ここではね、色々手続きとかが必要なんだよ」

「それでも、お前は俺の妻だろう」

「何で私なの?異星人なんて面倒なだけじゃない。メイドちゃんみたいな可愛い子にすれば良いでしょ?」

「一度決めた事を、俺は曲げん」

「な、なにを自信満々に言ってるかなぁ?!好きでもない人間嫁にして、なにが楽しいの?!」


彼にとって、俗に言う「政略結婚」なんてものが当たり前なのだとしたら、愛のない結婚も理解するしかない。だが、それには結婚すれば得られるメリットがある。私と結婚したって、何のメリットもないと断言出来るぞ。むしろ、デメリットならある!


胸を張ってデメリットでも説明してやろうかと思ったのだが、彼は想像を超える表情を浮かべていた。

きょとん、と。子供が「それなあに?」と目をぱちくりとさせているようなそれに、私は面食らって言葉を失った。


「誰がお前を好いていないと言った」


…………は?


「俺はお前を気に入った。だから妻にしたのだ」


えーーーっと。ちょった待って。聞かない方が良いって言は分かってる。その思考を巡らす間もなく、迂闊な私はぺろりと口を滑らせた。


「私のこと好きなの?!」

「ああ」


間髪空けずに返ってきた肯定の言葉に、私はがっくりと項垂れる。逃げ場を完全に塞がれた気がした。


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