嫁を持つ身でボーイミーツガール
前話のあらすじ。
(見た目は)野獣先輩、襲来
作者「守れるか、その貞操――」
アイズ「漫画の煽りみたいに言うのをヤメロぉ!!」
うら若き少女も真っ青な悲鳴をあげる寸前の状態を、どうにか踏み留まって数分後。
闖入者を遠ざけて服を着替えたところで、騒動の原因が戻ってきた。
「オォ、やはりお前さんいい体しとるなぁ! その歳で仕上げた事を考えれば、驚きったい」
そう言ってバシバシと背中を叩かれる。
衝撃を感じて体が前後に揺さぶられた直後、途端に悪寒が走った。
オレの背中に当たっていた手のひらが、いつの間にか撫ぜるような手付きになっていたからだ。
「ちょぉうっ、変な触り方すんな!」
思わず変な声が出たじゃないか。
「そうか? そんなつもりはなかったんだがな、すまんすまん。がはははは」
笑いながらも視線はオレの肉体に釘付けで、その口角も怪しげな雰囲気を漂わせている。
(ちょっ、今舌舐めずりしなかったか!?)
やばいこれ本気で貞操のピンチじゃないかっ。
ある程度削られたSAN値より、こっちの方が喫緊の問題である。
今まで遭遇した事のない状況に、体が震えを禁じ得ない。
これが満員電車で痴漢に遭う女性の心境か……などと変な納得がオレの身を包む。
そんな情けない夫を助けてくれたのは、こういった謎のシチュエーションにおいて無類の男らしさを発揮する、愛すべき奥さんだった。尚、機嫌はまだ完全に直っていない。
「はぁ、戻りが遅いので気になって来てみれば……何をやってるんですの?」
現状を考えれば、呆れ顔もまたご褒美だな。
◇◆◇◆◇
結論から言って。
国境を越えた先で遭遇した巨漢、ワプルのホモ疑惑は疑惑の域を出なかった。
フランの介入によって幾分調子を取り戻したので、割と突っ込んだ質問も浴びせてみたのだが、のらりくらりと躱された印象だ。
例えるなら、主要キャラがガンガン死んでいく革命漫画の鎧アニキくらいには、怪しい感じがするのだけれど。
そういえばあれ、続編出たらしいけど読む前に死んじゃったんだよなぁ。
「メルヴィナおねーさん。アイズ君が子犬みたいに体をピクピクさせてたと思ったら、今度は遠い目で哀愁漂わせてるけど、回復魔法掛けなくていいの?」
「回復魔法に精神状態のリカバリーは出来ませんよ」
「あ、そうなんだ」
なんて会話が繰り広げられているのは気にしない事にする。
「なはははは、驚かせたのはすまなかったのよぉ。あっしは近くに巨人の魔物が出たって話を聞いて、力比べをするために探索しているところだったい」
「あ、それならもう狩り終えたよー」
エルミアが間髪入れずにそう伝える。
「だにぃ? それならあっしは何のためにこんなところまで……まぁ、代わりにフェイロン君みたいなイイ体の持ち主に出会えたから良しとするよぉ」
「ひぃ」
反射的に身が竦む。この独特な喋り口も、別に裏声とか使ってないのにそっちの人っぽく感じる要因だよな。
だが発言内容通り、このワプルとかいう男、ホモというよりも肉体フェチに近いのではないかと思う。
それでもホモ疑惑は拭えないが。故に、まったくもって安心はできないのだが。
「ワプルさんはソロで冒険者をしているのですか?」
メルヴィナの疑問に、顔が曇るワプル。
「今は、という注釈がつくがその通りだなぁ」
何かセンシティブな話題だったか。そんな表情で二の句を継げずにいる女性陣。
こんなおっさんに配慮など無用です。
いや、腹ぺこエルフにそんな気遣いなど元々無かったか。
「そんな事よりお腹空かない? ご飯にしよっ」
そういう事になった。
「じゃあオレたちは街に急ぐから。あんたは近くの村で一泊した方が良いと思うぞー」
「いや、あっしも今日中にはオルファンに戻るよぉ」
食後、そんな会話を終えて国境を越えて初めての街、オルファンへと馬車を出した。
ワプルは徒歩で戻るようだ。
「悪いなワプル、この馬車は3人乗りなんだ。後は荷物と御者席だし」
「仕方ないったい。そもそも、あっしが乗ったら重量オーバーだと思うから気にするなよぉ」
お前というより、その身の丈程の大盾がな。
盾士らしいけど、何故複数種類の盾を持っているのか。
加えて、タンク職がソロで巨人に挑もうとしていたのかも丸っきり謎だったな。
「盾もアイテム袋に入れれば乗せる事もできたでしょうに、良かったんですの?」
「仕方ないよ。見ず知らずの奴に、アイテム袋の存在をバラしたりするのは良くないからね~」
自身も矢筒型のアイテム袋を持つエルミアが実感のこもった台詞を吐いた。
楽観的な彼女の事だ、以前にどこかでアイテム袋の話をして痛い目に遭っているのだろう。
失礼な話だが、想像に容易い。
「そうそう、折角不自然じゃないように最低限の旅装を馬車に積んでるんだからな。……あと単純に身の危険を感じる」
後半は小さめな声で呟く。
ぶっちゃけた話、同性愛者疑惑が浮上する輩に背後を許したくない。
オレはノンケなので、その手の人種とは距離をおくに限るのだ。オレはノンケなので。ホントこれ大事だぞ。
飯だって、ワプルは干し肉と果物を持参していたので、あえて薄味にしたスープしか提供していない。
君子危うき人物に興味を持たれるべからずである。……もう遅い気がするのは気のせいだ。気のせいだったら気のせいだ。
「お、あれかな?」
「防壁の一部と灯りが見えましたわ」
雑念を抱えながら御者をし続けて、どれくらい経ったか。
目的の街、触媒の都オルファンに辿り着いた。
「メルヴィナは、この街に来た事あるんだっけ?」
「いえ、この国に居た事はありますが、オルファンは初めてですね。噂に聞いた事がある程度です」
「なら、パーティー全員に初体験が待っていると言えますわね」
フランが若干興奮気味で言葉を漏らす。
表現はともかく、確かに未知の体験は楽しみだよな。
――そんな事を思った反動だろうか。
数時間後、未知との再遭遇を果たす事になるとはその時のオレは気付いていなかった。
◇◆◇◆◇
宿を取って、冒険者ギルドに顔を出し終えた。
メルヴィナとエルミアは食料の買い込みと、二手に分かれての行動だ。
まぁ、エルミアの嗅覚にヒットする食材以外は、あいつの目的は買い食いだろうけれど。
オレとフランは越境と甲殻犀の大移動、そしてエル-ダで受けた指名依頼の報告を行っていた。
これでパーティー単位の貢献率も稼げたので、管轄が違う他国での活動もある程度スムーズにいくだろう。
指名依頼を商人たちに持ちかけた時、オレがここまで計算していた事は言うまでもない。
「先んじてやるべき事は終わらせましたし、後はゆっくり休むのみですわね」
「そうだ……なぁっ!?」
げぇっ、あんまり会いたくない奴と遭遇してしまった。
オレにとって、心情的にはナルヴィク・ランカスターよりも枝毛一本分マシという奴だ。
「おぉ、フェイロン君じゃないか! オルファンに戻って一番最初に会えた知り合いが君たちとは……なんて偶然だ。運命を感じちゃうよぉ」
けっ、何が運命だ。
街々をさすらうタイプの冒険者は、各拠点毎の知人なんて少ない。
それを考えれば大した確率でもないだろうに。
なんとなく外堀を埋めるべく、口実を探してるんじゃないかと邪推してしまう。
ワプルはドスンドスンと音を響かせて、こちらに駆けてくる。
どうしよう、凄く逃げたい。
無意識の内に重心が後ろに下がる。
「アイズ、諦めて対応するしかありませんわ」
「だよなぁ、かなり憂鬱だけど」
諦観の先を引きずるように後ろ髪引かれながら、オレも声を上げる人物に近付く。
その中間、十字路になっている脇道から人が出てきそうな気配を感じた。
「あのバカ、何が嬉しいのか知らんが、脇道微塵も気にかけてないな」
このままではぶつかってしまう可能性があるので、足早に距離を詰めて脇道の人物を守るように動く。
そんなオレの挙動に何を思ったのか、ワプルは更に速度を上げた。
「フェイロン君もあっしと会いたかったのかい? 嬉しいなぁ」
そんな事まったく思ってないから、周りにもっと配慮しろ!
お前の体と衝突したら、一般人は大怪我してもおかしくないだろうがっ。
脇道から出てきた女性。
彼女は楚々とした足取りで、こちらに向けて曲がってくるようだった。
艶やかな黒髪を左右に振りながら歩くその姿は、背後に迫りくる存在に露程も気付いていない。駄目だ、ワプルとぶつかる!
「失礼っ」
そう言って咄嗟に彼女と立ち位置を入れ替えて、急ブレーキをかけるワプルに肘鉄をするような体勢で衝撃を吸収した。
???「え、わたしの本編初登場回、これで終わり?!」
二章の反省点を活かし、閑話含めて迅速なフラグ回収ヾ(o゜ω゜o)ノ゛




