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ラテン語で狼らしいよ

「やった! 討伐数一体!」


 オレの快哉(かいさい)の声が森に響いた。


 場所は街道脇に広がる森林。

 背の高い樹木が、そこそこの間隔をもって天高く連なる景色に、獲物の唸り声が木霊する。

 そのけたたましい音は、即座に阿鼻叫喚の悲鳴にすり替わった。

 森の木を使った空中起動後に、最後の標的のうなじから剣がめり込み、首を切り落とす。


森の醜き巨人フォレストアグリージャイアントだっけ? 15メートル級はいないみたいだけど、4メートルは確実にあるし圧巻だな」


 国境を越えた先にあった村で、最近街道を騒がせている魔物の話を聞かされた。

 なんでも、商人を襲って酒や食料を奪っていくという。

 行商が途絶えるのは、その村にとって死活問題だ。

 オレたちは討伐依頼を受けて、今は村民の敵の撃滅に勤しんでいるところである。


「こっちも一匹撃破っと。木を支えにして、音を抑えなきゃね」


「狙い通り、あちらに何匹か釣られているようですわ。作戦は成功でしてよ」


 巨人と言いつつも、熊と人間を足したようなその体は毛に覆われ、基本は四足歩行だった。

 その状態でも人間の倍程の高さがあり、全身の大きさは比べるべくもないとくれば、どれだけ低く見てもCランク以上の魔物と言える。

 幾度かの襲撃で、ある程度の知識を得た類人猿の如き集団は、普通の冒険者であれば紛う事なき驚異だ。


「アイザック君が集団を抱えながら数を減らしてくれたので、余裕をもって倒せましたね」


 大半をオレに引き付け、エルミアとフランの連携で端から潰す。

 オレ自身も、内側から個の武勇で食い破る。

 オレたちが取った二面作戦の前には、化け物集団も全滅を余儀なくされていた。


 戦闘が終わって戦果を拾い集め、血の臭いから離れるようにその場を離れる。

 商人たちの遺品なども回収済みだ。

 今回の依頼は、ギルドが作った木版に記されたものなので、大きな町の冒険者ギルドであれば換金が出来る内容だった。

 そのため、向かう先は村とは真逆である。


「ねぇねぇアイズ君。わざわざ空中で首を刈りに行かなくても、君なら投擲で目を狙うなり足元を斬りつけるなりして、遠距離から先手を打って安全に倒せたんじゃない?」


「そう言われれば、そうですわね」


 馬車が街道を駆ける中、御者席に身を乗り出してきたエルミアが無粋な事を言ってきた。やってみたかったんだよ、言わせんな。

 その方がスリルもあって戦闘してる感が出てたしな。


 フランがエルミアの発言に対して、確かにと頷く。

 それに「でしょー?」と言いながら、エルミアは持った弓を剣に見立てて振るような動作をした。

 続いて、フッと息を漏らして投擲するように弓をオレの前に突き出してくる。危ないな。


「何、くれんの? 弓矢」

「あげないよ!?」


 早口で返された。

 自由すぎるその振る舞いにちょっとイライラしたから、討伐の証である巨人の亡骸の一部をエルミアに放り投げてやった。


「あ、これ纏めといて」

「きゃっ」


 割とグロテスクな部分だったからか、エルミア(ポンコツ)らしくない、可愛らしい悲鳴が上がる。少し溜飲が下がった。

 討伐証明部位に向けて、戯れに火を放ってみようと思ったけどやめとくか。

 なんかジト目を感じるし。


「アイザック君。あの魔物の緑色の血を拭いたいですし、ある程度距離を稼いだらお風呂にしませんか?」


「あ、それは良いアイディアですわね」


 上手くメルヴィナが空気を変えてくれたので、それに乗る事にした。

 街道には休憩用に拓けたスペースが、往々にして確保されている。

 魔物の縄張りに食い込む形で作られるものも多いため、言う程安全ではないけれど。

 まぁ、オレが周囲を偵察するので微塵も問題ない。


「着いたぞー。浴槽出すから手伝ってくれ」

「それでは私が」


 メルヴィナに手伝ってもらって、アイテム袋から複数の板材を取り出す。

 フランを呼んで、それらを接合してもらった。


「それでは水を入れますわ」

「悪いけどよろしくなー。オレは周囲をグルッと回ってみる」


 この時代……と言うか世界か。庶民の家に風呂は無い。

 排水や風呂を沸かす方法、そして風呂が基本的に石や金属製だった事が理由である。

 木は周辺国では腐りやすい種が多かったためか、基本的には使われていないようだ。


 オレは風呂を5つに分割したものを作成し、アイテム袋に入れる事で旅に浴槽を持ち込んでいる。

 重量はあるが、容量が拡大されるアイテム袋と馬車によって、どうにか持ち運びが出来ているので有り難い。


「今更だけど贅沢だよな~。まぁ女性陣も多いし、自重する気はないけど」


 接続は土魔法で行う。勿論風呂を沸かすのも魔法だ。

 本来アイテム袋をこんな使い方する冒険者は当然居なく、そんな事よりもアイテムや素材回収等に当てる。

 オレがこれだけは譲れないとゴネたのと、それを達成できるフランという魔法使いが居たために強行した結果が、この快適な旅環境だった。

 商人として、アイテム袋を複数入手できたのも大きいよな。


「辺りは、一先ず大丈夫そうだった。誰から入る?」


 オレとしては普通にレディーファーストだと思っているのだが、冒険者界隈では侮蔑に捉えられたりする場合もあるため、一応提案した。


「あたしはゆったり浸かりたいから、最後希望~」


 つまり、エルミアはいつも通りだな。


「アイズからで良いのではなくて? 一番汗を掻いたでしょうし。それとも言い出したメルかしら」


「いえ、私はフランお嬢様の後で構いませんよ。お湯を一杯いただければ、腕は拭えますし」


「もう、冒険者の旅に主従など関係ないと、いつも言ってるでしょう?」


 少し呆れた顔を見せるフランだったが、頑ななメルヴィナの主張を崩せず、こちらに視線を向けた。

 先に入ってどうぞ、というニュアンスだろうか。

 でも、貴族の令嬢であるフランこそが、いの一番に清潔にしたい筈だ。


「入るか?」


 端的に問う。


「わたくしは別に後でも……」

「でも、入りたいんだろ」


「まあ、それはそうですけれど」

「じゃあ、入ろうぜ」


 親指で浴槽を指し示す。

 すると、フランが頬を若干染めだした。


「えぇ、入るって、わたくしと……」

「折角良いもの見つけたんだし、先に入るのが気になるなら、オレも湯に浸かるからさ」


 巨人討伐の戦利品を頭に思い浮かべながら言い放つ。

 フランの顔が一気に紅潮した。そしてわちゃわちゃと世話しなく手を動かし始める。


「わ、わたくしたちは夫婦ですし(やぶさ)かではありませんが二人がいる上こんな野外で一緒に入るなんて――」

「楽しみなんだよなぁ、亀の甲羅風呂! エルミアしか、このロマン分かってくれなかったけど」

「――へ?」


 商人の遺品と共にあった、亀の魔物の巨大な甲羅。

 それを浴槽にして風呂に入ってみたいと馬車の中で話していたので、実行しようと語ったら、やけに早口なフランと被ってしまった。


「ごめん、何て言った?」


「も、もう! 知りませんわっ」


「え、何故に?」


 エルミアだけが何故か腹を抱えて笑っている。メルヴィナは苦笑顔だ。

 尚、愛しの嫁の機嫌は、暫く直らなかった。



 ◇◆◇◆◇



 騒動を一段落させ、水魔法で洗浄と煮沸消毒をした甲羅に湯を張り終えた。

 目隠しを立てた上で、湯に浸かる。


「うわ、なんかいつもと違って気分が高まるなぁ……気持ちいい……」


 おっさんではないので極楽極楽とは言わなかったが、前世の歌を口ずさみたくなる衝動に駆られる。

 やはり風呂は命の洗濯だのぅ……。


 そんな感じで寛いでいると、緊張が切れていたからか索敵が疎かになってしまっていた。

 エルミアがいるからと油断しすぎたかもしれない。

 接近には直前まで気付けなかった。


「こんなところに湯気……なんじゃこれは」

「ぬぉぉ、人? いつの間に!」


 足音を殺していたのか、巨漢が姿を見せて、初めてその存在に気付いた。

 オレ、覗かれてる!?


「お? 若いのにイイ体しとるのぉ、むほほ」


 ギャーー! 半分冗談だったのにこの人ガチっぽいよ!

 助けてエルミア先生。このケダモノを狩ってくださいっ。

 武器、武器は――浴槽の下かッ。


「がはははは、あっしの名前はワプルよぉ。まあそんな慌てるない」


 大柄な体躯を揺らして豪快に笑うその男は、そんな名乗りをした。


 アイザック・フェイロン16歳、貞操のピンチである。

ほもぉヾ(o゜ω゜o)ノ゛


サブタイは新キャラの名前です。

濃い描写含め、その手の内容はほぼ無いので苦手な方も安心してね!

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