交渉(笑)と商談
前話のあらすじ。
だが断る!
二章、後数話で終わりますヾ(o゜ω゜o)ノ゛くらいまーっくす
年度末仕事納めの方等、皆様今年度もお疲れ様でした(*;д;)
聞き間違いかな。そう言いたげな仕草を奴は見せた。
いや、分かれよ。普通に考えて喜び勇んで決闘に駆け出す訳がないだろう。
オレは戦闘狂のきらいはあるが、面倒事は全力で避けたい小市民だぞ。
「ふっ、僕とした事が有名になったせいで初心を忘れていた」
何故分からないのかと疑問に思っていたら、奴の中で合点がいったようだ。
何やら得心した顔をしてそう宣う。
「僕はナルヴィク・ランカスター。エル-ダきっての冒険者さ。名前くらいは聞いた事があるだろう? 他所から来た君たちには、ランクだけでは伝わらなかったようだけど」
いや、違ぇよ。
お前が誰か分からなかった訳じゃねぇよ。名前は思い出せなかったけど。
シンプルに、面倒臭いお前と決闘なんかしたくねぇだけだよ。
「では、改めて言おう。アイザック・フェイロン、僕と決闘したまえ!」
「嫌です」
今度は言い終わるまで待ってやった。オレは優しいなー。
自身の優しさをしみじみ感じていると、場の空気が冷えてきていた。
「……ならば、僕に勝てたら賞金をやろうじゃないか。万が一の場合は、言い値で払ってやる」
「嫌です」
「…………」
「……」
空気を読んで黙ってくれている三人はともかく、オレとナルヴィク・ランカスターの間にも何とも言い難い沈黙が流れる。
だが、引く気はない。勿論、空気を読む気もな。
「さっきも言ったが、僕はAランク冒険者だ。勝てば名誉が得られるぞ。少なくともここエル-ダでは、全ての住人に一目置かれると言っても過言ではない。さあ、僕と!」
「だから、嫌です」
名誉や名声には特に興味がない。
戦う事に関しても、お前にそれだけの価値を見出だせないんだ、悪いな。
目を白黒させて周りを見回していたナルヴィクが、ハッと自分の剣の柄を掴む。
「ちっ、ではこの剣を賭けてや――」「いらん」
「なっ!? これはマナタイトクォーツとミスリル合金の、二本と無い名剣だぞ!!」
「ない、です」
まったくもっていらないし、興味も無い。
明らかにオレの剣の下位互換だしな。柔そう。
そもそもこいつ、オレの実力を見抜けていないんだよな?
もしそれが正しいなら、Aランク冒険者との決闘なんて自殺行為だとは思わないのだろうか。
普通のCランク冒険者でも、Aランク冒険者の最底辺にすら歯が立つ可能性なぞ微塵もない。
「分かったぞ、ハンディキャップが欲しいんだな。卑しい奴め。どれくらいあれば満足だ? 僕は寛大だから――」
「そんなのいらんし、そもそもやらねーっての。マトモな会話をしたいなら、人の話は聞くべきだぜ、Aランク冒険者サマ。じゃあな」
最後はそれまでより長めの言葉で断じたせいか、呆気に取られるウザイケメン。
ランク的には格下のオレに、ここまで言い返されるとは思っていなかったようだ。
元々道ですれ違った状況である。
奴に背を向けて、オレたちはさっさと人混みの中に消えた。
正気を取り戻したのか後方から声が聞こえたが、無視に限るぜ。
◇◆◇◆◇
「いやー、無事に辿り着けて良かったよ。何度か死を覚悟したからね」
「だよなぁ。まったく、聞いてないぜ。あんなところに、モンスターが大繁殖してやがるなんて」
宿に着くと、食堂で会話をする商人たちが愚痴を溢し合っていた。
中々に気になるワードだが、まずは部屋を取らないとな。
「親父さん、前回はすまなかったな」
「お、前に来た兄ちゃん。気にすんなよ。キャンセル料とか言って、半額置いてってくれたじゃねーか」
今時、そんな律儀な奴珍しいぜ。そう言って鍵の準備を始める。
前回エル-ダに着いた時は、ギルドに行く前に実は宿を取っていた。
マールが街に居なかったので、泊まる事なく出発してしまったが。
どうやら、十日以上も前なのに、オレたちの事を覚えていてくれたようである。
「前回自慢の料理を披露できなかったし、折角また選んでくれたんだから、この宿イチオシの逸品をご馳走してやるぜ」
「自慢の料理? 逸品? それが奢り……わーい、ありがとおじさんっ」
エルミアが、いの一番に反応する。
前貰った金もあるから気にすんな。そう付け加えてニヤリと笑う店主。
中々気前がいいおっさんだ。
まぁ、視線がメルヴィナの胸に注がれているし、好みの女の前でカッコつけたいだけかもしれんが。もしかして、覚えていたのもオレの顔じゃなくて、メルヴィナの体つきじゃあるまいな。
すっとメルヴィナの前に入り、彼女の肢体を隠す。
「感謝する。すぐ頼めるか?」
「勿論だ。……あんたら少し歳離れてそうだが、そういう関係だったのか。すまんな」
オレがした行動によって、どうやら仲間との関係を勘違いされたようだ。
フランは特に気付いていないようだから、特に実害もないし放っておくか。
すぐに謝罪が出る辺り、店主も比較的常識人なんだろうし。
出てきた料理を受け取って、ついでに二杯の酒を頼み席に着く。
「隣、良いかい?」
「ん、別に構わないが」
礼を言って、先程駄弁っていた商人の横の座席に座った。
オレが連れている女性のレベルに少し気圧されたようだが、構わず会話を展開する。
「さっき、気になる話が聞こえてね。ちょっと教えてもらっても?」
言葉と当時に、頼んだ酒を彼らの目の前に出す。
奢る代わりに情報を得たい意図を、彼らは理解したようだ。
頷きを交えて先を促される。
「モンスターの大繁殖、とかなんとか」
「あぁ、それな。あんたら冒険者みたいだし、自分たちの命に関わる情報だもんな。……これでどうだ?」
示された指は三本。
三枚の金貨で情報を売ってやるよ。そう言いたいようだ。
「即座に価格交渉とは、目端の利く商人だ――と、言いたいところだが」
一度言葉を止めて、相手の反応を見る。
発言を翻した事に疑問を持っている。そう顔に書いてあった。
「そりゃ悪手だろ商人」
「あん? 兄ちゃん、喧嘩売ってんのか」
若めの男の温度感が上がる。
しかし、即座にもう一人が無言で手を差し出し、相方を制した。
「あんたら、国外から来たんだろ。そして目的は、霊山から採れる素材と調合された薬」
「……ッ」
服装の意匠が、この国由来の物とは少し異なっていたのでカマをかけた。
それに対し、気炎を上げた方の商人が分かりやすい反応を見せてくれる。
相方に小突かれた事で、ポーカーフェイスに戻るが遅すぎる。
「やっぱりな。国外から来た商人が、この街より先で仕入れられる品にめぼしい物はない。あんたら、仕入れが終わったら戻る予定だったろ」
「……仮にそうだとして?」
こちらの言いたい事が分かってきたみたいだ。
オレは今、双方に利益のある話をしている。
「この街から国外に出るルートは、大きく二つ。だが霊山方向は今、落石により塞がれている」
「何? そんな情報は……」
「これは、向こうに滞在していたオレたちだから分かる情報だ。まぁ耳が早い奴らは、今日明日には知る事だが」
街道の封鎖は、出発の日に起きた事だった。
冒険者ギルドにも既に伝わっている。
疑うなら確認してくれ、そう付け加えて続きを話す。
「となると、あんたたちが取れる選択肢が限られてる事は分かるよな?」
「……討伐されるのを待つのが、一番良さそうだな」
と、思うじゃん?
「あちらの街道付近は、この国の人間はあんまり利用しませんわよ?」
先程まで静かに食事をしていたフランが、食事を終えた拍子にそう告げる。
街に着くまでに出てきた鳥型の魔物を、唐揚げにしてしまったからな。エルミア共々食べ過ぎてしまった彼女は、今日の晩飯はかなり量が少なかった。
俺もちょくちょく食べてはいたが、もう食べ終わってしまったようだ。
「そうだった……!」
「え、だからどうしたんだ?」
二人の男は対極的な反応を見せる。
難しい話ではない。答えは簡単だ。
「討伐依頼を出す人間は少ないし、受ける人間もまた然りって事」
「あー、確かにそうだ」
出た場所にもよるが、余程街に近くない限り、数日中に討伐依頼が組まれる事は無いだろう。
そうすると、二人はこの街に釘付けである。
他の場所に赴こうにも、土地勘もなければ需要も把握していない。そんなリスクの高い選択は避けたい筈だ。
「前提は分かった。で、あんたの提案は?」
来た。
ここで焦らず、相手にも伝わりやすいくらい自信満々に言い放つ。
「おっさんたちが、討伐依頼出してみないか?」
「は? 何で俺達が」
「あれだけの数を討伐する報酬なんて、簡単に出せないぞ」
当然ではあるが、否定的なムードで返される。
滞在するだけ利益が減るとは言え、自分たちだけで依頼を出す額面には代え難い。そう彼らの顔が物語っていた。
「考え方が固いな。まぁ、オレの話を聞いてから考えると良い。あんたら、商業組合で一目置かれるぜ」
さーて、無双チャンスが降って湧いてきたぜ。
こっからが交渉の本番だ。
今回は、求めるものは知恵を凝らした上で、自分から動かないとだよねって話(*つ´・∀・)つ
主人公が幾ら無双目当てでも、情報が無く金にもならない危険地帯に、仲間を引き連れて突貫するロクデナシではないので。夫婦の実家から特に資金提供は受けてないし、お金も稼がなきゃ。
一応ライバルの為、今後も対比的に描いていきたい所。
次回は、金・土・日に三連続更新確定。
多分、二章最後のバトル描ききるのに四話は最低掛かるので、可能なら木曜日か月曜日も更新します。




