幼女同伴? あ、ノーサンキューで
「もう、身近な存在の命が消えるのは、見たくないですわ……」
一度は落ち着いたフランだったが、エルミアに慰められる内にぶり返したのか、そんな事を呟いた。
恐らくは、アンデルまでの道中でオレに助けられる直前の光景を思い出している。オレにはそれが分かってしまった。
一ヶ月程、フランやシャルさんに同行をした冒険者。
彼らの自業自得とは言え、彼女たちの護衛依頼中に命を散らしたのだ。
いやまぁ。情報収集を疎かにして、魔物の縄張り付近で飯を作っていた奴らに、同情なんて出来ないけども。
「でも、メルヴィナおねーさんとアイズ君が揃って気付かないなんて、相当分かり辛い病気なんだね?」
「場所が場所だからな。界隈では沈黙の臓器なんて言われるところもある訳だし」
ウコロフ村襲撃事件の際。
オレとメルヴィナは、怪我人は元より持病や古傷なども見抜いて、可能な限り治療を行った。
オレはステータスのマイナス補正と重心の不自然さから、メルヴィナは過去の経験からと、看破に至る過程に違いはあるけれど。
その差異が逆に互いが見逃す部分を補っていた。
「その割には、内臓の不調とかも見抜いてたような?」
オレの目が捉えるステータスは、病気などが体力にマイナス補正を及ぼせば感知できる。
しかし、逆に言えば病気の初期症状など、体への負荷が少なければオレは異変に気付けないのだ。
メルヴィナの病状は初期も初期という事で、分からなかったのだろう。
たまたまだと返して話を切り上げる。それが気に食わなかったのか、彼女は話の矛先をリスト作成作業中の薬師に向けた。
「つまり、見抜いたマールちゃんは凄すぎだっ!」
「イスにすわる時のすがたが、ししょーと被ったのですー」
姿勢が綺麗な立ち姿なのに、着座する時に猫背になっていたそうだ。
おまけに無意識に腹部を押さえていたらしく、特徴的だったとの事。
痛みがなくても、体は反応しているんだなと思う。
「ん? じゃあ、胸を揉みしだいていたのは?」
それで当たりが付いたのなら、腹部への触診と予防薬だけで良かったんじゃ……
「あぁ、あれは……しゅみですー」
「趣味!?」「でもグッジョブ、だったよね!」
「なんとませた幼女だ……」
三様のリアクションを見せる当事者以外の三人。
残念エルフは、鼻血でも出そうな蒸気した表情でサムズアップを見せている。当時の情景を思い出しているかのようだ。
こいつ、自分もそこそこ豊かなくせに、無駄におっさん臭い時があるな。
「わたし、ようじょじゃないですーっ」
ぷんぷんと頬を可愛く膨らませ、怒ってますアピールをされてしまった。
年齢的には違うのかもしれんが、そういうとこだと思うぞ。
「エルミアさん……彼女に免じて今回は不問にしますね」
「ひぃっ」
ニッコリ顔で威圧するメルヴィナ。
「まあまあ、意味はある事でしたのでぇ」
見た目はこの場で最年長なメルヴィナに、一番最年少なマールが宥める。いや、君の行為が原因なんだけどね?
揉んだ意味としては、症状によってしこりが出たりもするから、という主張だった。
他の病気も考えられたので、その切り分けも兼ねていたとかいないとか。
ただ、あそこまで執拗に揉みまくっていたのは、彼女の性癖か何かだったと言うけれど。
「うぅ……何かを失った気がします」
「気のせいですよぉ。新たなトビラの先は、見えたかもしれませんがぁ」
揉まれたのはオレではなく、メルヴィナとしても結果的に死を回避するきっかけになった。
だから、オレたちに特に文句はない。言ってはいけない。
決して間近で見られて、思い返したら役得だったとか思ってないぞ。ホントだぞ。
「――アイズ?」
「さーて、じゃあ素材の回収に向かうかァ!」
疑念が涌き出る気配を感じたので、先手を打って回避した。
「おまかせしましたー」
病み上がりのフランを連れていく訳にもいかない。
そもそも、彼女の病状の原因は、霊山に蔓延る木々による花粉な訳だし。
今も、その近くにいるのだ。
マールの魔花粉への詳細な説明が無ければ、薬だけ貰って昨日の内に引き返していたまである。
「わたくしも行きますわっ!」
そんな言葉と共に、大人しく話の推移を見守っていたフランが突然立ち上がった。
◇◆◇◆◇
フランの回復を待つ事、二日。
オレたちは、三人パーティーで霊山に採取に出向いていた。勿論、メルヴィナの治療薬のためである。
フランが居るのは、メルヴィナを助けてトラウマを克服したい新妻の意志に押され、休養の後であればと渋々認めた結果だった。
「遠目からでも凄かったが、近くで見ると圧倒されるな」
「わたくしも、ここまでの山は生まれて初めて見ますわ……」
故郷アンデルの山は、日本の山と違って急勾配ではない。
なだらかな斜面に広がる森、という表現がピッタリ来る場所がオレの主な行動範囲だった。
リザードマンの生息する岩山もあったが、標高はそこそこである。
「えー、そっかな。確かに立派で大きい山だけど、威圧感なんて感じないよ。寧ろあたしはこう、帰ってきたー! って感じがするけど」
そりゃあ、君は自然は友達! を地で行くエルフ様だからね。しかもオレたちと出会う前、ガチでここを素通りしてたら物理的にも帰ってきてるからね、うん。
「そんな身構えるから、逆に怖くなっちゃうんじゃない?」
彼女の言う事にも一理あるのだと思う。
だが日本人の感性を併せ持つオレからすると、自然は災害などの恐ろしい一面が強い。
今世では狩人としても活動したので、恵みも享受している。それでも他の生物の命をいただくというイメージが主なので、連想はしても自然とは直結しなかった。
「霊山を分け入ると、流石に雰囲気がありますわね」
「殆ど未踏領域だしなぁ、ここ」
森の狩人コンビが揃って、普段から並の冒険者が行き交うような場所で苦戦する筈がない。
奥まで行く程遭遇率が上がる魔物や薬草。
運が悪いのか浅層では揃わなかったので、あれよあれよと人気など皆無の空間に入り込んでいた。
辺りは鬱蒼と繁っており、何処の熱帯かと思うくらいに密林の体を成している。
「ここまで木々が密集しているなら、やはり助力が必要でしたかしら……」
「森で俊敏に動けないメンバーが複数人居るのは、リスク高いから仕方ないよ~。その分、あたしが頑張るからさっ」
マールは当初、熱烈に同行を希望していた。
薬草系の素材採取には自身でないと不可能だという主張である。
しかし、こちらにはポンコツと言えど森の民がいた。
エルミアが必要な素材の特徴だけで、大抵の薬草に理解を示したので同行は断り、代わりにフランを連れている次第だ。
「フランとメルヴィナ、パーティーメンバーを二人も救って貰ったんだ、報酬も弾まないとな」
「お金じゃそんなに受け取ってくれなかったけど、薬草だったらあたしたちに使い道無いしねー。受け取ってくれるでしょ」
彼女の主張として、この機会に霊山の希少素材を得ようという目論見があった。
師匠を殺した病気に、自身の手で素材を得て終止符を打つという気概もあった。
そんなこともあって、先日は朝から素材回収をしていたのである。
彼女が採集していた物。それはメルヴィナの病気用の素材の一部だったのだ。
彼女の想いに万全の布陣で応え、師匠さんの無念を晴らす。
それがメルヴィナの命を救う事に繋がるのだから、報酬は奥地の豊富な薬草類を渡す予定だった。予想しているであろう量の、何倍も多く、な。
「ん、アレじゃない? 最重要素材の一つ。ようやく見つかったね」
エルミアが指差す先には、草なのに魔力を発し冷気を纏う背丈の大きい草があった。いや、デカすぎね?
だが目当ての素材である事に変わりはない。
根から丁寧に取り、それを高く掲げる。
「ねんがんの あいすぐらすをてにいれたぞ!」
「アイズ君。それアイシィーズ草だよ?」
行きはよいよい帰りは怖い。
それを体現しかねないフラグをオレは盛大にぶち立てていた。
最近内容がぺラい気もします。
二章クライマックスまで冗長にならない程度に盛り上げてかないと( `・∀・´)




