とある回復術士の胸裏
ロスタイムっヾ(o゜ω゜o)ノ゛
どうしてこうなったのでしょう。
私は、フランお嬢様が放った風魔法により昏倒した冒険者さんを治療しながら、そんな事を考えていました。
私の名前はメルヴィナ。
昔は姓がありましたが、今はただのメルヴィナです。
年齢は20を越えています。
月日を数えられる生活をしていなかった時期があるので、細かく覚えておりません。
四捨五入すれば、確実にハタチである事は確かです。まだ肌も艶めいてますしね。
そんな私が、人相が険しい冒険者さんに囲まれ、回復魔法を掛けている。
誰が予想できるでしょうか。
先日まで、尊くも退屈な――そう評すると同僚や当主様方に失礼なのは分かっておりますが――毎日を過ごしていたのです。
勿論、その日々を手に入れるまでとは、比べるべくもない温かな暮らしでしたが。
両親が亡くなり、味方も居ないまま泥水を啜り生き抜いた数年間。
女を捨てずに生きてこれた事が、どれだけ幸運だったかと考えると、今も震えます。
「い、痛みが消えて行く……」
「なんて力強い輝き……め、女神様?」
「ふふっ、私はそんな大仰な存在ではありませんよ?」
それこそ、その神に裏切られ、神を憎んだ醜い人間でした。
最期まで敬虔な信徒だった両親とおおらかなキャンベル家の方々のお陰で、今の私があるだけです。
「あの、治療費はお幾ら払えば……」
私が治した方のお仲間さんが、申し訳なさそうに尋ねてきました。
先程アイザック君を襲おうとした方々を、止めようとしていた女性です。
「いえいえ、これは私が勝手に行った事ですので、金銭など不要ですよ?」
お嬢様によって生じた怪我ですが、流石に向こうが悪いので、そこは謝罪しません。
ただ、放っておくのは良心が痛むのもあり、私が勝手にした事としておきました。
正直、少しは痛みを教訓にすべきかとも考えましたが、しゅんとしたお嬢様に頼まれましたので。
「そんな訳にはっ」
「あらあら……ここは民想いのウチの姫君の顔を立ててくださいな」
最後は小声で囁き、目線で後方を指します。
そこには、アイザック君に対する態度に、ぷりぷりと怒る女の子が一人。
けれど、彼女の視線は度々こちらに飛んできていました。
その目には心配の色が浮かんでいますね。
「フランチェスカ様――分かりました、感謝致します」
自分は悪くないと分かっていながらも、領民の事を想い私に治療をお願いするお嬢様。
内緒の相談みたいで、あわあわしたお顔も含め、凄く可愛かったです。
人目が無ければ、確実に頭を撫でていたであろう破壊力でした。
そうした中始まった、ギルドマスターとアイザック君との模擬戦。
相手は現役時代に『封嶽』という二つ名を持った御仁です。
私も周囲の方々に教えていただいただけなのですが、最前線を一人で支える事から付いた異名だとか。
魔物の意識を自分に惹き付け、仲間の力を存分に引き出すリーダーさんだったようですね。
「ギルマスが勝つ方に一杯掛けるぜ」
「俺も」「あたしは二杯」
「おいおい、賭けにならねーだろっ」
うーん、私が見る限り、アイザック君の方が足取りに余裕を感じますね。
何より、彼の体幹は徹底的に鍛え上げられているようです。
恐らく、かなりのレベルの身体能力強化が許容されるでしょう。強靭な肉体にしか、強い強化は施せませんから。
私も、生きるために身に付けた技術ですので、少しは分かりました。
「嘘だろ……」
「現役じゃねぇとは言え、あいつAランク以上の実力があるって事か?」
「確か他所でCランクだっけ?」「詐欺じゃん」
そして、予想通りアイザック君が勝ちました。
屋敷で色々と見せてくれた動きから、人間離れしているとは思っていましたが、ここまでですか。
「いやはや、凄いですね~」
「いや、あんたが驚くんかーい」
「パーティーメンバーじゃないの?」
言葉を漏らした私にツッコミが入ります。
「だって、今日からですからねぇ」
様々な反応を見せる冒険者さんを他所に、お嬢様を追い掛けて戦い終わった二人に近付きました。
すると、第二ラウンドが始まるようです。
死人に鞭打つスラムの追い剥ぎ程ではありませんが、中々に無茶をしますね。
「なぁ、ねえちゃん。ホントにあの戦闘狂に着いていくのか?」
「私たちのパーティーで良ければ、歓迎するよ?」
そんな言葉が掛けられます。
「うふふ、有り難いお話ですが、お嬢様も居ますし」
それに、戦闘狂って言うより、ただ真っ直ぐな少年のように思えて仕方ありませんからね。
付き合わされるクウォルさんからしたら、たまったものじゃないでしょうけれど。
第一、大恩ある領主様直々のお願いですから。
私が密かに実家の復興を夢見ていた事を看破していた当主様。
施しとしての復興を私は拒んだのですが、彼の方は違う提案をしてくださいました。
拾われた上に更なる恩を受ける事を良しとしないのであれば、自分で切り開け、と。
お嬢様を助け、その伴侶たるアイザック君たちの力となり、自身の名を上げた時。
その時こそ、キャンベル家の助力の元、家を興すのはどうだ、と。
それであれば、息女に尽くした奉公の見返り足り得るだろう、と。
私はそれでも迷いました。
しかし、私の反応を見てか、すかさず下げられた頭に慌てふためきます。
「数奇な運命を歩んだ君だからこそ、我が娘フランの押し寄せる宿縁に帯同できるであろう。――我が娘を、宜しく頼む」
「い、いきなり何を?!」
貴族が自分の配下に頭を下げるなんて有り得ません。
それも当主なのですから、してはいけないと言い換えても相違ありません。
「どうか」
言葉少なに頭を下げ続ける当主様。
普段の態度とはまるで別人です。
「か、顔をあげてください当主様! 分かりましたからっ」
まさか、ゼルトザーム様が一介の侍女に頭を下げるなんて。
いえ、このお方なら普段もやりそうではあるのですが、誰にも見せる訳にはいきません。
特に、領主の座を虎視眈々と狙っていると評判の、トロト男爵家の方々には。
ギルドの窓から覗く侍従、ティーリスさんの姿を見ながら、私は過去の反芻を終えました。
あの方は何をしているのでしょうか?
「ふぅー、楽しかったぜ! メルヴィナ、悪いんだけどおっさんの回復頼めないか?」
「あっ、はい。分かりました」
「……やっぱり凄い練度だな。オレもいつかは身に付けたいものだが」
アイザック君は出逢った時から私の回復魔法を誉めてくれますが、所詮神を信じきれぬこの身です。
何処まで着いて行けるか、些か不安ですね。
ただ、この弟妹のような二人と、これから仲間になるであろう方たちが紡ぐ物語。
そこに、もう少しだけお邪魔させていただこうと感じました。
ゼルトザーム=ドイツ語で奇妙な。
尚、前述のタブレットですが、盗難のようです……。
外で出した場所は一箇所だけなので、まぁ妥当(´・ω・`)
お手洗いの後、急いで荷物纏めて出たのが仇になりました。
キーボードも消えた為スマホで今話書いたのですが、辛い。腱鞘炎になりそうorz
タブレットとキーボード返ってくる事を願いつつ、代わりを探します。それまでは週一くらいで不定期連載になるかもです。
執筆環境整ったら絶対毎日更新再開するので、よろしくお願い致します! こんな不幸(不注意)に負けるかー!!
まだ序盤ですが、読み直し不要にはしますので!




