ヒャッハー冒険者に囲まれて育った英雄
閑話ラストー。
視点は受付嬢→アイズ→受付嬢です。
アイズ視点以降過去のお話。
「はぁ……あの子が来ないと暇ねぇ」
私はエリー。
この国でも有数の商業都市、アンデルにある冒険者ギルドの受付嬢だ。
年齢? ははっ、言う訳無いわよ? 消されたいなら別だけど。
「ちょっとエリーさん。ザクが来なくなって生活に張り合いがないのはお察ししますが、仕事はあるんですよ」
「誰のお肌にハリが無いって?」
「ひぃ、言ってません言ってません。早口で詰め寄るの止めてください」
そう言って、目の前にいる成人前の男の子が数歩下がる。
はっ、こういうところよね。気を付けないと。
「まあ、幼馴染みの僕としても寂しいと言えば寂しいですけどね」
「あぁ、そう言えばそうだったわね。昔はあいつより僕の方が強かったんですよ、だっけ」
過去の記憶から、生意気な紅顔の美少年を思い出す。
その隣には、確かに彼が居た事も何度かあった。
「ちょっ、やめてくださいよ。若気の至りじゃないですか」
「私からすれば今も充分若いけどね。はー、若さっていいわー」
アイザック君には面として言われた事はほぼ無いが、雰囲気として揶揄されたのではないかと感じる時がある。
その手の話題には、神の啓示の如く詳細に察せられるのが不思議だ。
「そんなことっ。エリーさんもまだまだお若いですし、大人の魅力も押し出してけますよ」
はいはいと流して仕事を捌く。
そうしながら、彼の成長に思いを馳せる。
考えれば、微塵も才能無さそうだったのに、遠くに行ったわねぇ……。
◇◆◇◆◇
「ヒャッハー。坊主ぅ、依頼は順調かぁ?」
世紀末モヒカン風の口調で話し掛けてくる一人の冒険者。
いやまぁ、ニュアンスは似てても異世界語だし、脳内変換の結果ではあるが。
「ぼちぼちだよー、カインズさん」
そう答えるオレはアイザック・フェイロン。九歳だ。
「まーた、ザク坊に絡んでんのか。程々にしとけよー」
「『おれをCランクパーティー、ズィーゾのメンバーと知ってのことかーっ』……くぷぷっ」
数年前、ギルドで流れの冒険者に絡まれた時の台詞だな。懐かしい。
「うっせぇ、昔の失敗を引き合いに出すなっ。しかもそれを言ったの俺じゃねーだろ」
「だっけかぁ? 似たような奴が多くて忘れちまったぁ」
「ちげぇねぇな。俺も覚えてねー」
まぁ、ヒャッハー系冒険者が多いからな。
特にこの街はそうだ。商業都市だから、学がある奴の就職先には困らないので。
前世で見た多くの異世界物と同じく、冒険者って定職に就けない者や食い詰め者がなる職業でもあるから、話し方や見た目が独特な人も多い。
勿論誰でも簡単になれる訳ではなく、一応資格制だし試用期間も設けられている。
けれど、通常の就職窓口と比べればかなり間口が広いからな。
この世界、職業斡旋所みたいなのは、ほぼ無いし。
「まっ、何かあれば頼れよ」
手をひらひら振りながら言われたので、サムズアップで返す。
この風貌で優しい人が多いのは不思議だが、凄くありがたいよな。
「ザクは小せぇくせに中々やるし、多芸だからな。頼るのはお前なんじゃないか?」
「ちげぇねぇ! ハハハ」
「するか! 魔物からも余所者の冒険者からも、おれが守ったらぁ!」
煽りが多いのは大変だが、それすらも温かいし。
「あー、余所者冒険者に絡まれ率ダントツ一位だからな、この坊主は」
子供だからな。それでいて、一般冒険者くらいの力は身に付けた。
だからか、一部の奴はオレを見ると、冒険者をままごとと揶揄されたと勝手に思われるらしい。
「そうだ、この前擦り傷負ってたが、もしかして傷薬切れてんじゃねぇか?」
「やばっ、そうだった。どうしようか……」
今から依頼を受けようと思ってたのに、出鼻を挫かれてしまった。
そう思っていたら、おっさん冒険者の肩パッドから傷薬が取り出され、こっちに投げてくる。
いや、何処に入れてんねん。
「ほらよっ、返しはフェイロン商会製のマッチでいいぜ」
「ありがとー。じゃあ依頼受けてくるねっ」
ガキらしく振る舞い、受付に並ぶ。
今日はエリー姉ちゃんは不在のようだ。
「ったく、多少強くなってもほっとけねぇ奴だぜ」
「だが、イソーロさんに託されたしなぁ」
「自分の恩人が害されたとありゃあ、温厚なあの人も黙っちゃいねぇだろうしな」
半年以上前に流れ着き、少し前に街を出た流浪のSランク冒険者の名が挙げられる。
とある経緯で共闘したのが懐かしい。恩人は言い過ぎだと思うが。
詳細は省くけど、魔力の身体への使い方は、あいつを見て身に付けたようなもんだ。また会えるかなー。
「一部の受付嬢からもアイドルにされてるし、過保護にならん程度に俺らが守らなにゃあ」
見てくれと言動は粗雑だが、心が温かい彼らのお陰で、自身の無茶以外では大過なく育てたと言えよう。
感謝の気持ちを忘れないようにしないと。
「だからって、汚物野郎は粛正だ~って調子に乗ると、またギルマスが出てくるから程々にな」
「それはあいつが馬鹿やっただけなっ」
「ちげぇねぇや、ヒャハハハッ」
ちげぇねぇおじさんは、今日も併設の酒場で飲んだくれだ。
◇◆◇◆◇
背伸びしながら受付台に依頼票を差し出し、待たされる間に渡された安い飴を、んぐんぐと舐める少年を眺める。
「やーん、可愛い」
「確かに見た目は可愛いけど……あの子時々年齢不相応よね。色々と」
受付嬢仲間がそう溢して頬杖を突いた。
「そこが良いんじゃない! 彼の年齢くらいだと、殆どは背伸びしたマセガキか悪ガキだもの」
「まあ、冒険者としては危なっかしいけど、昔と違ってここのギルドは安全だしね」
そうなのだ。
この場所は、以前からあんなにも温和だったのではない。
少年が出入りしているというだけで言葉を荒ぶらせる者も少なくなかった。
「つい、見守りたくなっちゃうしね」
基本的には、彼の言い知れぬ魅力のお陰で雰囲気が穏やかになる。
豪商子息を利用してやろうという打算の内に、絆され改心する輩も枚挙に暇が無い。
でなくとも、庇護欲を掻き立てられた者が彼を守る。私もその一人である事は言うまでもない。
勿論、彼の敵はそんな甘っちょろい人物だけではない。足を洗わなかった者もいる。
なんせこの街を象徴する大商会の息子だ。
利用価値はあるわ、攫ったら大金せしめられそうだわ、である。
悪ぶった冒険者では無く、本物の悪に狙われない筈が無かった。
「さて、流石にそろそろ事務処理をし……ッ!」
今、静かに建物の扉を潜った痩せ形の男。
身のこなしはただ者では無く、視線は誤魔化しているがアイザック君に注がれている。
靴裏に細工でもしてあるのか足音は消音され、それに反して服装は平凡だ。
尋問を通して幾度か経験した、非合法な臭いを感じる。
遅れて、仲間とおぼしき存在も二人入ってきた。
これはーー
「門番から警戒の報をいただいたのですが……少々、おいたが過ぎる者が坊ちゃまを狙っているようですね?」
思案に耽ろうとした瞬間、背後の柱の陰から人が現れる。
清潔さと大人の色気を両立させた髭が魅力を感じさせる、細目の老紳士だ。
この老練な執事には、冒険者ギルドも彼に対する見守りと協力を行う事で、何度も助けられてきた。
「黒であれば、ウチで預かっても?」
「ええ、お願いします。報告は書類で構いません」
尚、その後彼らを見た冒険者はいない。
※彼らはフェイロン商会の下働きとして働いています。待遇はお察し。
人格が矯正されれば昇進も見込めるかも?
また、エリー姉さんの尋問技術はこうやって磨かれました☆(協賛:老紳士)
そして初めて台詞を与えた主人公の悪友が、なんか一回り上のお姉さん好きみたいになってる……。勝手に動くなぁー。
明日より本編に戻ります!




