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ヒロイン令嬢の初恋と再会

読者視点だとチョロインのフラン。

その過去話とドラゴン戦前までの背景です。

 わたくしの名はフランチェスカ・キャンベル。

 キャンベル子爵を親に持つ17歳の令嬢ですわ。

 貴族令嬢としては珍しく、英雄譚を読むのが幼い頃からの趣味……と言うよりは日課かしら。


 変じーー個性ある両親に育てられた自覚はありますが、侍女や執事、既に嫁いだ姉様たちのおかげか、常識を逸脱せずに育ったのではないかと自負しております。

 そんなわたくしの人生に転機が訪れたのは、数ヶ月前。


「うーむ、どうしたものか。ロバート様は今、アネッサ様と共に留学しているし……」


「家格を考慮しても、非常に難しいですな」


 当時、お父様は急な案件で仕事が立て込み、かなりお忙しいご様子でした。

 数年に一度催されるアンデルのパーティーは、後継者が決まったという報もあり出席が必須でしたが、当主は行けそうにありません。


 我が家の後継者が姉の婿であるロバート義兄様に決まった時、盛大に祝っていただいた経緯もあるため、誰を名代に立てようか皆が悩んでおりました。

 遠いとは言え、従者程度に言祝ぎを伝えさせるのは、両家の関係を考えればあまりに礼を失するからです。

 わたくしが産まれる以前に養子に迎えた義姉の夫婦は、アンデルに近しい国に滞在してはおりますが、流石に呼び戻す訳にもいきません。


「お父様。それならば、わたくしにお任せくださいな」


 うんうんと唸る皆を見て忍びなくなったのと、妥当な格を持つのが、当時わたくしか母のみであった事。

 そして、数瞬よぎった淡い想いの記憶が後押しして、気が付けば言葉を紡いでおりましたわ。

 今思い返せば、その時の自分の判断を絶賛したいですけれど。


「しかしフランお嬢様。以前アンデルに行った時と違い、従者もあまり多く付けられないのですぞ?」


「構いませんわ。皆が忙しい事は十分に理解しておりますもの」


 キャンベル家を継ぐ者が決まっている以上、わたくしは普通の貴族であれば各家とのパイプ作りのため早々に嫁に出される境遇。

 しかし、それを良しとしない周囲と恋愛婚至上主義の母のお陰で、未だに自由にさせてもらっているのです。

 ここで役に立たず、貴族の端くれを名乗れましょうか!


 尚も渋る家臣団たちでしたが、流れを変える一手が横から滑り込みました。


「……ふむ。旅立ちの時が来た、という事か」


 組んだ手に(あご)を乗せ、思案に耽ってらしたお父様が唐突に言い放ちます。

 芝居がかった口調はいつもの事として、昔からわたくしを過度に大事に育ててきた方です。

 そんな人物がした、試練に近しい実子への決断。覆せる筈もありません。


 わたくしの意志も変わらないと見るや、選択肢が非常に乏しい背景もあるため従者たちは渋々了承してくださいました。

 実力より信頼性を重視して冒険者をイルネストから継続的に雇う事により、様々なリスクを減らすなどの条件が付けられはしましたが。



 そうしてわたくしは、運命的な出会いーーいえ、再会を果たすのです。



 実は、アイズ様とは過去に一度だけお会いしておりました。

 と言っても会話をした訳ではなく、彼の生都アンデルに一度だけ訪れた時に出席した令息令嬢向けの茶会で、遠目に見ただけですけれど。


 豪商を含めた上層階級では比較的珍しい、英雄譚を好んでいる殿方と聞き、親近感が湧きましたわ。

 騎士の道を志す者を中心に、貴族の子息にも英雄譚好きは偶に居ますが、物語の好みが合わない方が殆どです。

 彼が周囲に請われて挙げていったお話は、全てわたくしが好む物でしたし、知らない作品も後日読んで感銘を受けました。趣味が合いすぎるのです。


 ただ、話し掛ける前に領主子息が嫉妬でもしたのか彼の秘密を暴き、周りから敬遠されてしまったため、近寄れませんでした。

 豪商に繋がりを持とうとしていた方々が居なくなり、寧ろチャンスと思ったのに、周囲に止められてしまったのです。


「魔物の肉を食べるなんて野蛮じゃないっ」

「下賎な平民ですら忌避する行為だぞ」


 確か、そのような事を仰っておりましたわね。

 わたくしとしては、別にそうは思いませんでしたが……ごく稀にではありますが、英雄譚にも出てきますし。


 その後は遠目に眺めるだけでしたが、罵りに負けぬ強い眼や余裕を感じさせる佇まいに目が奪われ続けましたわ。

 ふとした拍子に醸し出される雰囲気が、同年代のものとは隔絶しているように感じて憧憬を抱いた事も忘れられませんわね。



 思えばあれが、わたくしの初恋でした。



 滞在は一月以上ありましたので、その間に開かれる茶会に彼目当てで参加したのですが、ついぞ会う事は叶いませんでした。

 再会後に聞いた話では、あの出来事を切っ掛けに貴族に失望して、距離を置いたのだとか。

 然もありなん、という話ですわね。






 再び彼に巡り会った時、正直に申し上げて第一印象は最悪でした。

 いえ、わたくしの対応が最悪だったのですけれど。

 アイズ様は仕方ない状況だった、気にするなとフォローを入れてくださいましたが……。


 目的地であるアンデルに向かう旅の、最後の休憩中。

 突然魔物に襲われ、訳も分からず馬車に避難したわたくしは、長年連れ添った侍女、シャルの魔法にただ守られているだけでした。

 シャル自身も戦闘に秀でている訳ではなく、雇った冒険者と少数ながら家から連れてきた兵士の悲鳴が響き渡ります。横には、ポーカーフェイスを日頃湛える彼女には珍しい、険しさが浮かんだ表情。


「どうにか、お嬢様だけでも……何か手は……」


 魔力の急激な消費によって脂汗を浮かべたシャルのその小さな呟きに、不意に涙腺が緩みました。恐怖からか、窮地にも変わらぬ心根に感じ入ったのか、今でも分かりません。

 ただ、もう助からないのかと体が勝手に震えていき、何故かそれが貴族令嬢として情けなく感じた事を覚えています。

 魂が、わたくしに燃えろと語り掛けてくる幻聴の中……轟く爆音。


 その後魔物の怒号が響き渡り、急に静かになったと思ったら、血塗れで笑う美男子が顔を出しました。

 その流麗さが、余計に恐怖を煽ります。

 悲鳴が漏れたのは仕方ないとわたくしも感じておりますが、アイズ様の事を想うと、今でも悔やまれる言動ですわ。


 その後、彼の無双に魅せられ、魅力を感じたまま、アンデルに向かう道中。

 髪色や面影、英雄譚好きであり商人の息子だという事を知り、彼が昔淡い恋心を抱かせてくれた少年ではないかと気付きましたわ。

 残念ながら一目で気付く事も出来ず、確認しようとしてもはぐらかされてしまいましたが。


 街に到着して、シャルにはすぐに彼を探さないのかと問われましたけれど、今は名代としてのフランチェスカ・キャンベルですもの。

 最低限ここの当主の方に挨拶するまでは公を優先させなければと、はやる気持ちを抑えて断りました。


 ですが、やはり運命ってあるんですのね。

 彼が功労者としてパーティーで紹介された瞬間、わたくし絶対に彼を射止めると決めたのですわ。



 ◇◆◇◆◇



 そして現在。


「ふー、馬車旅も意外と快適だなぁ」


 持ち寄ったクッションやフェイロン家の高性能馬車により、長旅でも苦を感じない。

 その事には同意致しますが、休憩毎にわたくしに何かを食べさせるのはやめて欲しいですわね。

 肥えてしまいますわ。……まあ、凄く美味しいので食べてしまうのですが。


「うおっと、おあちっ! って、……あぁ」


「そりゃあそうなりますわよ……。何やってるんですか、アイズ様」


 今は、イルネスト付近では見ない形のお芋を、焚き火で焼いて食べていたところ。

 彼は布からずり落ちた芋を、類稀な反射神経で掴みました。布を持ってない方の手で。

 そして、あまりの熱量にまた落としてしまい、悲嘆にくれています。


「ふふふっ」


「笑うなー。あと、様付けもやめてくれー」


「や、ですわ。アイズ様はアイズ様ですもの」


 英雄のように強いかと思ったら、こんな風におっちょこちょいだったりする。

 精神的に大人っぽい部分があれば、魔物の軍勢には目を輝かせて子供のように向かっていく。

 貴族である自分でも食べた事の無い料理の数々を、馬車旅にも関わらず手際良く披露してくれるかっこ良さもあれば、美味しい美味しいと食べるわたくしを見て、無垢な笑顔で嬉しそうに頷いている可愛い一面もある。


(ふふっ、知れば知る程に面白く、興味を引く魅力を発見してしまう……不思議な方ですわね。これが、王都の劇で聞いたギャップ萌えってものなのかしら)


 卓越した剣術と身体強化ができるのに、全ての魔法の基礎を知り、効率的な修練方法まで編み出したのがこのアイズ様。

 マルチウィザードとして全属性を高い次元で行使できる才があると言われた身であっても、彼の使う雷魔法は上手くイメージできない。

 雨の日に空が光る現象の再現らしいのだけれど、それって区分としては光魔法じゃないのかしら?

 光魔法にあるまじき威力は、空から落ちてきたからではないみたい。


「さて、今日も魔法を教えてくださいね。お師匠様?」

雷魔法が一般化されていない理由の一端が、深く理解しやすい事象か否かにもあります。

その他魔法よりも身近で研究しやすいものではないので。


また、従者が死んでいるのにフランが自身の判断を絶賛している訳は、土地勘に優れない冒険者を同行させる以上、誰が行ってもあの惨劇は避けられなかったからです。

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