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花菱女学園重装機兵部  作者: キ74
第二章 やりがい/練習試合
33/45

1-2

 同日 重装機兵部部室棟 浴場


 「あぁ~、いい湯だなぁ~」


 浴槽に肩までどっぷりつかった唯里ちゃんが気の緩んだ声を出す。


 「そうだね…」


 私はその言葉に相槌を打ちつつも、ついつい彼女の大きな胸に目が行ってしまう。唯里ちゃんのそれはたわわ実っていてとても柔らかそうで、素直に羨ましいと思った。私のちょっぴりとだけ控えめな胸と見比べて、とても同い年とは思えない。


 (…やっぱり、大鳥教官も大きい方が好きなのかなぁ…?)


 「ねぇ、ねぇ、凛、ちょっと見てよ、なんか変な筋肉ついてない?」


 白藤さんは自分の二の腕をさすりながら、隣の凛ちゃんに尋ねていた。


 「うーん?筋肉ついたのなら、それはいいことだよ」

 「えー、そう?。あとさ、最近外で走ったりしてるからさー、ちょっと日焼けしちゃったし、もう最悪」


 白藤さんはそう言うが、彼女はランニングでももほとんど走らないし、筋トレだって全然やっていない。もちろんそれはサボりとかじゃなくて、体調の問題が大きいのだろうけど。


 「うーん、そうかな…?でも、筋肉ついて日焼けしてってちょっとかっこいいじゃない?」

 「えー、可愛くない。…まあ、凛はそう言うのも似合いそう。って言うか、ちょっと腹筋すごくない?」

 「もう、ちょっと急に触らないでよ。もう、くすぐったいってば」

 「ほほう、ここがええのか、ううん?」


 白藤さんと凛ちゃんが体を洗いつつ、体を互いの触りあっていた。


 まあ、凛ちゃんのスタイルの良さには憧れを通り越して、もう芸術品か何かだと思うことにしている。あれはもうなんて言うか、完全にモデルさんとかの域に達しているので、それこそファッション雑誌を見ているのと同じ感覚だ。


 対して白藤さんは、筋肉がついたとか日焼けしたとか言ってはいるが、私たちの中では一番細いし色白で、素直にきれいだと思う。それが、どこか繊細で儚い印象も受ける…のだが、私よりお胸が大きいのだけは納得できない。


 ガラガラ


 私がそんなことで悩んでいると、黒沢先輩が遅れて浴場に入ってきた。


 「「「お疲れ様でーす」」」

 「おつかれ~」


 何人かがそれに反応して、挨拶をした。


 黒沢先輩は転校当初こそまだ慣れない環境と言うこともあってか、少し私たちに対して遠慮していたところもあったが、最近では部長として先輩として私たちを優しく指導してくれて、さらに時には厳しいことも言ってくれるようになっていた。


 「今日も午後は自由にしていいってことだったから、用事のない人以外はシュミレーターやっていこうよ」

 「そうですわね。訓練機が使えないいま、少しでもシュミレーターで訓練しておかないと、感覚が鈍ってしまいますものね」

 

 浴槽のふちに腰かけて足だけ浸かっていた百合奈ちゃんが、濡れた髪をかき上げつつそう言った。


 百合奈ちゃんは体形的には私とそんなに違わないのに、どうしてか私なんかよりずっと色っぽく見えてしまう。その理由を考えた時、百合奈ちゃんは意識してかはわからないが、その所作がいちいち優雅でいて、そして時に色っぽくて、育ちの良さと言うか、こういう人は男の人にモテるんだろうな、なんて感じる。


 まあ、実際のところ鎌倉時代から連なる武家の出身で、いまも華族としての身分があるのだから私たち庶民とは育ちが違うのは当たり前と言えば当たり前の話なのだけど。


 「星良は午後どうする?」

 「予定もないし、私も訓練していくよ」

 「そっか、瑠香は?」

 「私は…ごめん、用事あるから帰る」


 瑠香ちゃんはそう言うと、浴槽から上がりそのまま脱衣所に行ってしまった。


 「…瑠香も相変わらず忙しそうだね」

 「うん…」

 

 瑠香ちゃんも以前と比べて訓練そのものを休むということは少なくなったものの、未だ居残り練習などはしたことはなかった。だけど、その代わりなのかはわからないけど、土日の訓練の時は誰よりも早く登校して一人練習したりトレーニングをしているのを私は知っている。


 何で知ってるかって?


 もちろん私も早い時間に出てきているからだ。その理由は、大鳥教官と少しでも話す機会ができればなぁ、なんて下心丸出しなのが良くないところではあるのだけど。


 しかし、それを言ったら瑠香ちゃんだって大鳥教官目当てで早く登校しているのではないか、なんて、邪推してしまっている。


 「青崎って彼氏でもいるの?」


 瑠香ちゃんが浴場を出てからしばらくしてから、黒沢先輩が体を洗いつつそんなことを訊いてきた。


 「えっ、どうかな~。そんな感じじゃないと思いますよ」

 「でも、いつも訓練終わったらすぐ帰るじゃない?やっぱ彼氏でもいるのかなって」

 「それはないと思うな」


 それまで凛ちゃんといちゃついていた白藤さんがにやにやしながら会話に混ざる。


 「何で?」

 「えー、私から言っちゃうのはちょっとね。それに、見てたら分かるくない?」

 「?」


 黒沢先輩は恋愛には疎いのか余りよくわかっていない感じだったが、もともとそんなに興味がなかったのか、それ以上その話題を続けることはなかった。


 瑠香ちゃんが大鳥教官に気があるなんて、みんなすぐに気づきそうなものなのだが、それとも私や白藤さんがたまたま気付いただけで、瑠香ちゃんはあれでも上手く隠しているということなのだろうか?


 「…まあ、それはそれとして、気になるのは教官の様子だよね」

 「何がですか?」

 「いや、最近と言うか、この間の戦いの後からちょっと元気ないような気がするんだけど、私だけ?」

 「そうですね。ちょっと落ち込んでいるというか、なにか悩んでるような…」


 大鳥教官が何か悩んでいるということはみんな薄々気が付いていた。


 しかし、その悩みがなんなのか、それに気付いているのは私以外にはいないと思う。


 「…うーん。まあ、教官もまだ教官になったばっかりだし、最初の内はいろいろと大変なんじゃないですか?」

 「そうですわね。何か力になってあげられればいいのだけれど」


  百合奈ちゃんは真剣な表情でそう言うが、きっとそれはできないことだろう。


 大鳥教官の悩みは特殊で、普通の人には共感できないどころか、寧ろその悩みを知れば離れてしまうことになるかもしれない。

 

 だからこそ、大鳥教官にはその悩みを知り、そして受け入れ、隣で支えてあげられる人が必要なのだと思う。


 そしてそれは、私しかできないことだと思っている。


 「…いいじゃん、別に。教官さんだって人間なんだし悩みの一つや二つ、そりゃあるでしょ」

 「そうだけど…」

 「まあ、こうやって子供に心配されるなんてどうかと思うけど、大人なんだから自分で何とかするしかないんだし。少なくとも私たちが口出すようなことじゃないと思うな」


 白藤さんが少しイラっとしたような口調でそう言った。


 「…でも、やっぱり心配ではないですか?大人だって辛いことは辛いですし、わたくし達だって子供とは言ってももう高校生なんですよ。少しぐらい力になれると思うのですけれど」

 

 白藤さんの言葉に百合奈ちゃんが反論じみたことを言う。


 露悪的と言うか、どこかニヒルなところのある白藤さんと、正義感が強い百合奈ちゃんの二人は、はたから見ても合わないな、とういうのは感じていた。


 「多分だけどさ、そういうのをお節介って言うんじゃない?」

 「それの何が悪いのですか?困っている人がいれば手を差し伸べるのが人として正しい道でしょう?」

 「ふーん、ま、人がどう思おうがその人の勝手だけど、私はそう言う押しつけがましいのは迷惑だと思うな」


 白藤さんはそう言い残すと、お湯に浸からず、シャワーで泡を流し落とすと、脱衣所の方に行ってしまった。


 …………。


 「…ごめんなさい。空気を悪くしてしまって」


 百合奈ちゃんはバツの悪そうな顔をしていた。


 「よいしょっと…百合ちゃん、そんなに気にしなくていいよ。美沙ちゃんはちょっと怒りっぽいところがあるけど、全然引き摺ったりする子じゃないから」


 凛ちゃんがその大きな体を肩までお湯に入れつつ、微妙に的を外した慰めの言葉を百合奈ちゃんにかけた。


 「…凛さん、ありがとうございます」

 「ふふふ、どういたしまして」


 凛ちゃんはなんてことはないといった感じで、緩い笑みを浮かべていた。


 ちょっと気難しいところのある白藤さんの親友をやっていくにはこのぐらい、いい意味で適当でなければやっていけないのかもしれないと思った。


 「ま、仲良くしてね。私たち部員数ギリギリなんだから。トラブルなんて起こしたら目も当てられないことになっちゃうからね」


 黒沢先輩が少し他人事のようにう言うので、先輩なんだからどうにかしてくださいよ、なんて思う一方で、結局人と人との関係なんて、外野がとやかく言うものでもないのかもしれないとも感じた。


  「…あぁ~、いい湯だなぁ~」


 唯里ちゃんが重くなった空気を和ませるように、もう一度そう言ったのを聞いて、いつも重装機のことばっかり言ってる唯里ちゃんもいろいろ考えてるんだなぁ、なんて偉そうなことを思いつつ、そろそろいい時間だと思ったので、私も湯船から上がった。

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