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花菱女学園重装機兵部  作者: キ74
第一章 赴任/出会い
13/45

3-3

同日 花菱女学園校門前


 「はぁ~、すごかったな~」


 唯里ちゃんは訓練機に乗ってからずっとこんな調子で、ふわふわしている。落ち着きがなく、全然前を見て歩かず空ばかり見ているので、あぶなかっしい。


 「唯里ちゃん、ちゃんと前見て歩かないと危ないよ」

 「いや~、すごかったよねぇ」

 「…はぁ」


 唯里ちゃんの耳には私の声は届かない。

 

 まあ、別にこういうことはよくあることで、唯里ちゃんとは仲が悪いというわけじゃない…と思いたいが、とにかくあまり波長がかみ合わないことが多い。


 かみ合わないと言えば、瑠香ちゃんともそうだ。瑠香ちゃんはクールでいて、なんでもそつなくこなしていくところはかっこいいと考えるが、少し怖い人と言う印象があって私は勝手に苦手意識を持っている。良くないことだとは自分でも思っているが…。


 だからこそ今日はチャンスだとは思う。普段割とすぐに帰ってしまう瑠香ちゃんと今日はなんとなく一緒に帰っている。瑠香ちゃんは駅まで行くことになるが、私と唯里ちゃんはここから歩いて数分のところにある女子寮に行くことになる。なので、その数分の間に何とか会話して距離を縮めたいと思う。


 そう思うのだけど…正直何を話していいかよくわからない。


 とは言え、このまま何も話さないままと言うのも、なんとなく気まずいし、とにかく今日、重装機に乗った感想でも聞いてみよう。うんそれがいいよね。


 「あ、あの、瑠香ちゃん?」

 「ん、何?」

 「え、えっと、その…今日はどうでした?」

 「え?ああ、部活のこと?」

 「う、うん」


 瑠香ちゃんはちょっとの間、言葉を選んでいるかのように顎に手を当てて考え込んでいた。


 「まあ、楽しかった…かな」

 「楽しかった?」

 「うん、やっぱ学校の授業より、ああやって実際に体を動かすって言うかさ、そういう方が私はいいかな」

 「そっか、そうだよね。私も…ちょっと怖かったけど、楽しかったかな」

 「………」


 会話が続かない。


 「あ、そ、そうだ。緑川さんと白藤さん、部活入ってくれるかなぁ?」

 「…どうだろ。緑川は入りそうだけど、白藤はね」

 「でも、白藤さんすごかったよね」


 あの動き、今日ただ乗っているだけでもびくびくしていた私としては、全然別次元の人のように感じた。


 「…まあね。でも、ああいうことする人、うちの部ではやっていけないじゃない?」

 「え?」

 「だって、機兵部は卒業後そのまま軍に入るわけでしょ、あんな勝手なことするのってダメ…って私が言えることでもないか」


 瑠香ちゃんは自分で疑問で呈して、自分で引っ込めてしまった。


 確かに白藤さんのやったことは本来ならいろいろと大問題なことで、もしかすると今頃部室で大鳥教官にかなり怒られているのかもしれない。だけど、多分そんなことはないだろう。なんて、何の根拠もないのだけれど。


 「でも、入ってくれるといいですよね」

 「…そうだね」

 

 今私たち機兵部はピンチである。先生方や教官はあまり言わないが、この部員の少なさは誰がどう見たって良くない状況だとわかる。


 こうなった大きな原因は去年報道された、機兵廃人化事件だ。確か、憑依操縦をし過ぎると、機体と自分の境界が曖昧になって精神に重大な支障をきたすとか何とか。軍は否定しているが、今でも週刊誌やネットではよく取り上げられていて、昨年6月に起きた樺太事件で精鋭の第一機動憲兵隊が金属虫により大損害を受けたというのも、この廃人化事件の隠ぺいで、実は機体の調整ミスにより集団廃人化が起きたのだと言われている。


 樺太事件が公表されたのは昨年10月のことで、ちょうどその頃に廃人化事件が話題になっていたこともあり、機兵部にとっては大きな痛手となった。実際私も、孤児院の院長先生からすでに決まっていた機兵部への入部を考え直すよう説得された。


 だけど私は入部することを選んだ。確かな信念とか、希望とかがあったわけじゃない。ともすると自滅願望みたいなものが私にあったことは否定出来ない。


 私は世の中に、どこか息苦しさみたいなものを感じている。


 私が生まれた時にはもう世界に金属虫が溢れていて、人類は限られた土地でいつとも知れぬ滅びを待っていた。


 それでも、人間同士で争い続けている。日本と豪州の関係はもはや修復不可能なところまできていて、誰も口には出さないが近い将来全面戦争となってもおかしくはない。国内に限ってもそうだ、主義の違いで殺しあって、人種や生まれた場所で差別される。


 だけど、世の中は娯楽が溢れていて、哀しいことや厳しい現実を忘れさせようとしてくる。


 そんなちぐはぐな世の中が、私にとってはどこか息苦しい。


 きっとその苦しさから逃げたくて私は入部することを最終的に決めたんだと思う。


 なんて、きっとこんな思いは思春期特有の自意識の拡大とか、ただ単に斜に構えているだけで、いずれは大人になるにつれて消えていくもの、とも思っている。


 「ちょ、ちょっと、星良どこ行くの?」

 「えっ?」


 唯里ちゃんの声でハッと我に返ると、いつの間にか寮へ帰るための脇道を通り過ぎていた。


 「もー、星良ってばちゃんと前見て歩かないと危ないよ」


 少し前に私が唯里ちゃんに言ったことを、ほとんどそのまま返されてしまった。恥ずかしい。


 「えっと、瑠香ちゃん。あの―」

 「また、明日」

 「あ、うん。またね」


 私は駅に向かう瑠香ちゃんの背中を少しの間見守った後、唯里ちゃんに続いて寮へと向かった。


 また、明日


 その言葉で少し頬が緩んでしまった。


 きっと、明日もいい日になる。そんな気がした。


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