9-46 帰還
9-46 帰還
「なにやってたのー!」
バチーンと景気のいい音がした。
俺の頬あたりから。
ハイ。めっゃおこられました。
なして?
起こっているのはルトナです。
怒られながらこそこそとモース君とお話し中。
返ってきたときは本当に喜んだんだよ。俺がね。
だってルトナ、お腹大きかったしね。
いやー、俺って子供好きだから~。
なんか奇麗になって、そんでお腹が大きくなっていたルトナを見たら、なんかこみあげてくるものがあって、大急ぎで駆け寄りました。
そしたら迎撃されました。
なので情報収集中。
現在ここね。
だけどなんでそういうことになるのか状況が分からない。
《いやー、申しわけないであります。マスター殿を探しに来たルトナ嬢と行違っちゃいまして、
あと吾輩気が付かなかったんですが方向音痴だったみたいで帰り着くのに三か月もかかってしまったであります》
はい、状況が判明しました。
俺がメイヤ様に連れ去られてからモース君は報告のためにルトナ達の所を目指しました。
でもモース君の本体は俺の左腕にはめ込まれた流竜珠だ。しかも普段は俺の中の【世界の欠片】を使って移動をしている。
この状況だと…
《自分で歩いていくしかなかったであります。てへっ》
むう、これは責められない。
華芽姫も本体は俺のフラグメントの中に在る樹だから俺が連れ去られた時点でこっちから強制退去になってしまったのだ。こういった差がどこから来るのかわからないけど、俺の方からは連絡を取る方法がなくなってしまった。
だってすぐに別の場所に放り出されてしまったから。
そのうえでモース君とルトナ達がすれ違うとどうしようもないのだ。
なのでルトナが俺の痕跡をたどってやって来たときに、そこにあったのは俺が捨てた俺の死体だけと…
最悪じゃん。
それでもしばらくは俺の復活を信じて待っていたのだろう。
だけど待てど暮らせど俺は復活しない。
だってそのころ俺はメイヤ様にこき使われていたから。
新しい体を作るのに良い素材を提供しましょうとか言われて乗ったのが間違いだったか。
そして半年がたち、みんながなんとなく納得して、前を向き始め、一応葬式とか出して、ぽっかり何かが開いたような気分に浸っていた時に俺が返ってきたと。
最悪じゃん。
メイヤ様狙ってね?
ちなみに現在お腹が大きいのはルトナだけ。
もともと天翼族は子供ができにくいらしいし、サリアはまだ若いからね、こちらはちゃんと加減しましたよ。
みんな集まってきたけどそんな感じ。
というのが現在の状況であります。
「というわけで、なにしてたの?」
「あー、実はですね~」
あの日メイヤ様につかまって連れていかれたのが実は地球だったりする。
《からだがあると異世界転移とか認められないんだけどね、体がなければただの魂だから》
とか言われて、放り出されたのが冥夜神社。
つまり地球の故郷だ。
いやー、面白い経験だったよ。状態幽霊だったしさ。誰も折れに気が付かないし。
つい懐かしくてふらふらと町に繰りだしちゃいました。
まあ、偶には見える人もいて、ものすごく吃驚されたり、なんでか知らないけど拝まれたりもしたけどね。
ただダメだな、ブランクが長すぎた。
本屋とかいったら半分おもちゃ屋みたいになってるし、本屋でプラモ売るなや! とか思ったよ。時代だね。
あと電子書籍? パソコンの発達具合とか、ほぼほぼ異世界やんけ。こっちの方が異世界やんけ!
それに知っているものがない。俺が夢中になったゲームもアニメもどこにも…まあねアニメは系列の者があったけど。何というかすでに食指が動かない感じ。
いやー、自分が年を取って取り残されたような感覚っていうのかな。
がっくり来たよ。
仕事で来たんだから仕方ないんだけどさ…
さて、なんで俺がそこに放り出されたかというと神社における魔法陣の構築のためだった。
勇者ちゃんたちを呼び戻す魔法陣ね。
《神託で魔法陣の書き方は伝えたんだけどさ、地球人にはハードルが高すぎたみたいで…》
つまり予定よりも進行が遅かったわけだ。
そんでテコ入れのために俺が送り込まれたと。
ここら辺が中間管理職のつらいところだな。行けと言われりゃいかねばならん。単身赴任じゃーっ。
ただこれがなかなか難問で、こっちは魔力が薄いから魔法陣がなかなか定着してくれないのだ。
最初のメイヤ様の計画では塗料で魔法陣を描いて、そこに月の光をためて魔力とし、十分なエネルギーがたまったら発動。といった計画だったんだけど、今の人たちって信心深くないし、神様パワーでごまかすにしても時間がかかりすぎる。ということらしい。
《このままだと魔法陣が発動するまで50年ぐらいかかっちゃいそうだしさー、神様がそれって不味いじゃん?》
そうね、確かに2、3年で帰れるよ。みたいな話だったもんね。それが50年になったら『神様の嘘つき!』とか言われても反論できない。
特に流歌は氏子だからね、何とかしたかったんだろう。
そこに手の空いた、しかも移動可能な俺がいた。ならやらせればいいや。見たいな。
就職する所を間違えたような気がしなくもない。
まあそんなわけで夜の間に魔法陣を修正し、術式の中に魔力を込めて溜める。そしたら魔力が抜けるからまた溜める。元の魔力以上に。というのを繰り返して四か月。
何とか魔法陣に魔力が定着して安定したのを見届けて冥府に帰還したのだった。
もちろんその間、懐かしい街並みを堪能し、懐かしい顔を確認し、元気でいることにの安心したりしたのだ。
まあ、みんなあれだね、普通のおばさん、おじさんだ。
それが生きるということなのだね。素晴らしいことだよ。
そんで冥府に帰ってからメイヤ様が用意してくれた素材を使って全身を再生。
以前よりも少し高級になりました。
そしてアレキサンダーの嘘だが…
《あんなもの本人がいなくなれば直に元に戻るわよ~》
とか言われたよ。
つまりあのままあそこで待ってて少ししてから再生かければそれで済んだという話しだったのだ。
がーーーん!
「馬鹿なんだから」
「バカ」
「バカですね」
ちゃんと話をしたのにぺちぺち叩かれながらバカ連呼されました。
まあ、仕方ないんだな。
「というわけで、今度の新月に地球に帰れるよ」
「「え?」」
勇者ちゃん二人の顔がおもろい。
◇・◇・◇・◇
新月、月が見えない夜。ただし地球の。
月や太陽は魔力と呼ぶかどうかはともかく力を持っていて、新月の真夜中が一番余計な力が混じらない。
この日に魔法陣に細工した流歌の召喚魔法が発動することになる。自動だ。
もちろんこのことは神託でメイヤ様が凰華に伝えてあるので迎えは来ているだろう。
きっと半信半疑で祈るような気持ちでその場にいるに違いない。
なので最初に流歌が飛ぶ。
当初の予定では帰還した流歌が再び魔法陣を構築して翔子君を召喚する予定だったのだけど、魔法陣の強度が高くなっているので続けての使用が可能になる。
すぐに流歌が翔子君を召喚して、とりあえず今回のミッションは終了だ。
帰ったら帰ったでどこにいたのかとか大騒ぎになるだろうが、そこらへんは頑張って何とかしてね?
といった感じ。
「では二人にこの指輪を渡しておきます」
「「え?」」
「プロポーズですか?」
んなわけないだろ。姪っ子だぞ。
あっ、別に今は血がつながってないか。
だがそんなことはないのである。
「これは封印の指輪です。この指輪を装備していると普通の人と同じになります」
そうなんだよね。
勇者ちゃんたちは時空のハザマに落っこちたことで、魔力を受けすぎて変質したわけで、地球に帰ったからと言って能力がなくなったりはしないのよ。
あっ、びっくり目している。
だけど行方不明だった奴が帰ってきて、たぶん大騒ぎになる。それでもし変な能力とか持ってたら大騒ぎでは済まないだろう。
というわけでメイヤ様が用意してくれたのがこの封印の指輪。
物理的なものではなく霊的なものだ。
機能は着けている間色々能力が封印されるのだ。
まあ、普通の地球人並みに。
一時的に解除すれば収納も魔法も勇者スキルも使えるようになるけど、普通はどこを調べても一般人と変わりなし。
これもぶっちゃけちゃうと世界の歪みの元ではあるんだけど、地球はそういう異常事態に対するキャパが大きいのだそうだ。
だから大概何とかなる。
まあ、いいではないか。みたいな感じで。
ここまで親切にするには理由がある。のだと思う。
それでも歪みが出たときに修正できるように、地球にも手を伸びる状態にしておきたいというのがある。メイヤ様が。
昔は神様としてちゃんと祀られていて、いろいろ融通がきいたんだけど、今の人は神託とか神様とかまともに取り合ってくれないからね。
つまりこの二人はメイヤ様の駐在派遣員(流歌)とその補佐(翔子)に任命されてしまったのだ。
合掌。
それはともかくこの二人もこの世界に来て長い。
友誼を結んだ相手だってそれなりだ。特にうちの女性陣とは。
かなりしっかりと別れを惜しんで、そのうちに一回目の魔法陣が発動して流歌が消えていく。
光の柱の中に立って、涙ながらに手を振る姿に安心感が湧いてくる。
もし、俺が健康だったら、ああね前世の話ね。
もし健康だったら俺の娘だったかもしれない子だ。かなり感慨深いものがある。
長い別れと考えれば遠くに嫁に出すような感覚か。流歌が最後に俺を見て深々と頭を下げた。
どうか幸せになんなさい。
流歌が消えてから少しして二回目の魔法陣の発動。翔子君が光に包まれた。
ありがとう翔子君。気になっていた漫画の結末を話してくれた君の功績は大きい。
地球に帰っても元気でいなさい。
そして流歌といつまでも良い友達でいてほしい。
光の柱がきえて、あとには何もない。
残されたうちのメンバーはしばししみじみとその場に佇んだ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ありがとうございました。次回で終わりです。
少しだけお時間を頂きます。




