9-40 再始動
9-40 再始動
「うーん、にぎやかだね」
ここは帝都である。
復興の槌の音がどこでもかしこでもなり続けている。
都市部はあまり被害がなかった。
魔物も帝都ではさほどの被害は出さなかったし、アレキサンダーの『嘘』で作られた虚構はほとんどなかったからだ。
やたら荘厳だった橋がぼろになったり、立派だった神殿が掘っ立て小屋になったりしたが、民衆の住宅や商店などはほとんど影響を受けなかった。それは本当に狸に化かされたような話だっだろう。
逆に帝城はひどかった。
荘厳で帝都の住民の自慢であった城は一夜にして半ば廃墟に変わり、その無残な姿をさらしている。
まあ、仕事をこなすという意味では逃げ出した貴族家のどこかを接収すれば回せるといえば回せるのだが、やはり国の象徴としての機能もあるので、とりあえず使えるように修理するという方針が出された。
ただ一朝一夕に直せるようなものでないのは明白で、直して使おうというより帝国の『仲間として』何か共通の目標をというような気分だったのかもしれない。
そんなわけで現在、帝国は残った貴族の合議制で回っていたりするのだ。
ちなみに議長役は爺ちゃん伯爵ことコートノー伯爵だ。
今回帝国を救った立役者的な立ち位置なので、彼がやらなかったら誰もかれも自分の都合を言い募って収集が付かなくなっていただろう。
話し合いというのは参加者が知性と理性をもって実現可能な落としどころを探る意思がある場合にのみ有効な手段だ。
何人かの心ある貴族が現状を打開するために理性的な判断を下したとしても、おバカちゃんが言うことを聞かなければ意味がないのだ。
悲しいかな人類は『暴力』なしで文明を維持できない生き物だったりする。
そして現状、暴力という点において爺ちゃん伯爵が完全に一強なのだ。
俺の祖父であるという事実は、俺の保有する武力を使えるという意味であり、俺の武力の中には今回国中を席巻した獣王や獣人。そしてエルフ、さらには隣国アリオンゼール王国の戦力までが含まれるのだから。
現実がどうであれ、そう見えることが大事。
え? 現実はどうかって?
俺が邪神とどつき合いができるぐらい強いことは、みんな知らないからね。
まあ、どう転んでも問題はないのだ。
だから現在帝国は、爺ちゃん伯爵が武力で無理矢理秩序を保っているのが現状なのだ。
だって他に上に立つものがいないから。
この国の王族は全滅していたのだ。
とうの昔に。
そして現在、王家の血を引いて一番〝位〟が高いのは実は俺だったりするのだ。
迷惑な話である。
これも現実としてという話で、公的に認められた話じゃないから当然バックレるわけだけどね。
◇・◇・◇・◇
「デートはうれしいけど、確かに異国情緒は楽しいけど…」
ルトナの言葉に俺は同意する。
「本当ですわ。いくらなんでもひどすぎます」
「うむ、さすがにめげるな」
サリアも、クレオも賛同する。
何がひどいかって食事がひどい。
いや、粗末とかではなくてね、この帝国。砂糖の生産がものすごく多いんだよね。あの激甘料理にはそういう背景もあったようだ。
地産地消と言えば聞こえがいいが、健康には悪そうである。
この国の死因の一番は絶対糖尿病だと思うぞ。
というわけで、暇を見つけてデートに出てきた俺たちだけど、観光は楽しいけど、食道楽は地獄だった。
しかもここは帝都だ。
帝国料理の本拠地だ。
王国風の、つまり日本人の口に合う料理はほとんど売ってないのだ。
なので俺は思う。
「きっとこの国で一番いい料理を食べていたのは奴隷だったかもしれない」
なんてね。
いや、ほんと参ったよ。俺の収納の中に大量の食材が入っていたのは幸運だった。いや、マジで。
で、まあ、毎日身内だけで食事会などを催しているわけなのだが、その日はちょっと変な日だった。雰囲気がね。
「さてと、いい加減ストレスが溜まってきているので、ここら辺でその解消をしたいと思います」
その日ルトナがそんなことを言い出した。
時間は既に夜。場所は俺たちが寝泊まりしている魔動船のところ。一番居住環境がいいからね。
「ああ、いいことだよね、不満はため込むばかりじゃよくないよ」
俺は何の気なしに賛同した。
「言いましたね、言質は取りましたよ」
あれ、なんか不穏な空気。
そう言えば今日はよそからの参加者がいないんだな。
俺と嫁さんたちだけだ。
勇者ちゃんたちも艶さんたちも用事があるって…
ちょっと身の危険を感じた。
でもまあ、この娘たちのことだから、思いっきり体を動かすとかだよね。全員武闘派だし。
その証拠にルトナは上着を脱ぎ棄てて、あれ? 他のものも脱ぎ捨ててるじゃん。
ていうか、全裸?
みんな全裸?
おおー、壮観だな。恥じらう女の子もいいけど、堂々と立つ全裸の女性も美しい。
「って、ストレス解消ってそっちかよ」
「勿論」
「私たちが満足するまでお相手してくださいね」
「子づくりOKですよ。なんかいろいろ落ち着きそうですし」
きやーーーっ、おそわれるーーーっ いやマジでだよ。
◇・◇・◇・◇
嫁たちとラブラブできる時間はありがたいと思う。
なんというか癒されるし、活力にもなる。
これでまた十年は戦えるという感じだろうか。
まあ、やることはいっぱいあるんだけどさ。
「ディアちゃん、気を付けてね。無理しちゃだめよ」
外に出て風に当たっているとルトナも出てきてそんなことを言われたよ。
月の光の下で裸の美女。うん、すごく絵になるな。芸術だと思う。
「まあ、あまり心配はいらないと思うよ。すぐに…かどうかはわからないけど、負けはない。
問題は処理にどれだけ時間がかかるかなんだよね…」
これは間違いない。
絶対に負けはいなと思っている。
ただ、簡単に勝てるか? というと分からないかな、怪獣の時も結局直接的なダメージは与えられなかったし、結局は逃げられた。
「一番困るのは逃げ回られることだよね。あいつの勇者スキルって、逃げたり隠れたりするのにはものすごく強いから…」
あの『嘘』というスキル。
本気で隠れられると次の行動まで見つからない可能性まである。
だから何としても、位置を特定できる今のうちに何とかしたいのだ。
「ほんと?」
おお、下からのぞき込むルトナが可愛いな。
サリアたちには悪いけど、力尽きてくれていてよかった。
こういうのは照れ臭いからね。
「ほんとほんと」
「わかったわ、お帰りをお待ちしています」
凛々しく言うルトナだが、尻尾が人懐っこいよ。俺から離れない。
獣人の女の子は基本的に情深いからね。
さて、気合も入ったし、
「そろそろ行くか」
一回、ぐっと伸びをして。
チュッと口づけ。
キスってちょっと特別だよね。
特別さだけに注目するとHよりも特別かもしれない。
「じゃあ、行ってらっしゃい」
そう言って部屋に戻っていくルトナ。
いい女だよね。俺の嫁さん。
さて、では行きますか。




