9-37 ハメ技
9-37 ハメ技
まず勢い良く地面がはじけ、そこからぶっといビームが撃ちだされた。
それは怪獣の足元なので効果はてきめんだった。
バチバチと対消滅を起こし、削られていく邪壊思念。つまり怪獣を構成する力たち。
怪獣の方も負けじとブレスを吐くが攻撃は地中からだ。有効打にはならない。
一体何者なのか…
え?
俺は分かるよ、以前一回会ったから。
怪獣を押しのけるように現れたそれは!
「地底怪獣だ!」
翔子君の声だな。あの娘は怪獣映画まで守備範囲なのか?
まあ、それはさておき、飛び出してきたのはやはり50m巨体を持ったカバに似た生き物。全身が真っ白で身体に浮きあがる赤い文様。そして鎧のように装甲版が体の上部に張り付いている。
そう、獣人が崇めている(といっていいのかわからんが)神獣だった。
「ディアさん、ルトナさんから連絡です。援軍を連れてきたって…」
「おお、それはありがたい。
それでルトナは? 近くにいるようならやっぱり魔動船で回収して後方に…」
「いえ、獣王の人たちと一緒らしいんですけど、このずっと南の方で魔物との戦闘に突入してしまってこっちには来ていないようです」
「それって連れてきたっていうのかしら?」
艶さん、今は細かいところに拘らなくていいと思うよ。
「そうですよね、この場合は援軍を送りましたとかが正解では?」
「いえ、でも獣王の人たちを集めて連れてきたんだから、援軍を連れて来たで間違ってない気もします」
意外とみんな細かいな。
でもそれはともかくベヘモットはさすが神獣と言ったところか。なかなか良い攻撃をしている。
なんといっても神様的ななにかで守られているのがいいよな。怪獣の邪壊思念も寄せ付けていない。
逆に口から吐き出すぶっといビームはやはり効率よく怪獣を構成する邪壊思念を削り取っている。
形成はこちらに傾いたな。うまくやればこのまま押し切れるだろう。
俺たちの魔力は無限にあるけど、穢れは無限にあるわけじゃないからね。
さて、ここがクライマックスかな。
では行ってみよう。
「モース君、カムヒア」
お日様の力とか借りられるといいんだけど、ここで力を貸してくれるのは大地と冥府だからね、それで頑張るさ。
一度ほどけるように溶け、そして俺の前で再び形を成した象の背中に俺は降り立った。
「モース君、ここでベヘモットを援護するぞ」
俺は左手のアルケミック・マギ・イクをガトリングガンに変形させる。
《大丈夫でありますか? ベヘモット殿、やたらアグレッシブでありますが》
「あー、確かに…」
怪獣がいかにも大怪獣然とした動きで対応しているのに対してベヘモットは飛んだり跳ねたりでよく動いている。
俺は左腕のガトリングガンを起動させる。
カラカラカラという回転音が次第にヒィィィィィィィンという甲高い音に代わっていく。
《大丈夫でありますか? そのまま撃つとベヘモットに当たるであります》
「問題ないよ、ちゃんと考えている」
キュンキュンという発射音が響く。
いつもの『ドゥルルルルルルルルッ』という音じゃないのだ。
そして飛んでいく光条。
回転の音とあわせてなかなかにSF的だ。
宇宙な戦争的な見た目。
撃ちだされた弾丸は怪獣に殺到し、当然のようにベヘモットにも殺到する。
《ああー、なんということでありますか、フレンドリーファイアー…あれ?なんか気持ちよさそうであります?》
「当然だよ、撃ってるのは回復魔法だからね」
こう、今回は左手のガトリングガンから撃ちだしたのは実体弾ではなく魔法だったりする。しかも回復魔法だ。
魔力と邪壊思念は相克の関係にある。
攻撃魔法だと破壊力依存になってしまうが回復魔法や純粋な魔力だと対消滅を起こす。
しかも俺の魔力は冥属性で邪壊思念を効率よく相殺するからね。
それでいて神獣とはいえ生き物のベヘモットにはちゃんと回復魔法として作用する。これならいくらでも撃てるのだ。
「モース君も攻撃を土属性の魔力弾にすればベヘモットにはご飯をやるような物じゃない?」
《おおー、なるほどであります》
モース君は水と土の複合属性精霊だし、ベヘモットは地底怪獣…じゃなかった。土属性の神獣だ。モース君の魔力弾もベヘモットにとってみればご飯のような物だろう。
俺のガトリングガンとモース君の背中に生成された二連装のガトリングガン。三条の光の奔流が戦う二体の巨獣を襲うのだ。
ベヘモットは次々に回復し、怪獣はどんどん力をそがれて消耗していく。
怪獣は正統派な怪獣ムーブでベヘモットを攻撃する。
ショルダーアタックや尻尾攻撃だね。
対するベヘモットはものすごくアグレッシブで跳んだりはねたり、こいつ、ほんとに河馬か? と言った感じだ。
《おー、ジャンプしてからのクロススラッシュであります》
《続いて前足を地面について逆立ちごまキック》
《そのまま体を戻して低い姿勢で両手をついたままの回し蹴り》
《ここで怪獣の反撃。伝統的な踏みつけ攻撃。これをバク転でかわし瞬時に飛び上がって膝蹴り》
《怪獣が倒れたところに全体重を乗せたエルボードロップ》
「もはや何を見ているのか、自分の目が信用できないレベルだ」
《いやあ、困った河馬であります》
50メートルの巨体で繰り出す大技は迫力がどうのという以前に環境破壊だな。跳んで着地するたびに地割れが起こっているよ。
周辺環境のためにも早くどうにかせねば。
とは言ってもできることは援護射撃なのだが、これがかなり効率的でどんどん怪獣の。邪壊思念を削り取っている。
怪獣が少し小さくなってきたような気がする。
「よし、ここが攻め時だな」
俺はモース君にそのまま射撃を続けるように命じ、怪獣に突撃する。
到達するまでのわずかな間に領域神杖・無間獄の羽を大きく展開して大きな壁のようにしてそのまま怪獣に体当たり。
俺とベヘモットの位置関係はあちらとこちら。ちょうど怪獣を挟み込む位置関係になる。
ベヘモットはおそらく俺の思惑を理解した。
俺が光の壁を支え、その壁に押し付けるようにベヘモットの攻撃がさく裂する。
殴られてはみを削られ、衝撃で壁に飛ばされては対消滅で身を削られる。
跳ね返れば再びベヘモットの攻撃を受ける。
横に逃げたりしないようにモース君が間断なく銃撃を続けている。
完全にはまった。
はめ技は完全に決まれば勝確だ。
怪獣がどんどん存在感を薄め、怪獣の中から『やめろー』『はなせー』と声が響いてくる。
いい感じだ。
さあ、このまま押し切るぞ。




