9-28 北についたけど何もない…いや、どこかで見た顔が
9-28 北についたけど何もない…いや、どこかで見た顔が
「空から見下ろす地上は美しい…はずなんだけどなあ…」
これ、空の魔法というか、上空から見下ろせばどんな地上でも美しく見える。気がするのだ。
それが豊かな自然だろうと、人工的な都市であろうと。
そしてこの世界は基本的に自然環境が素晴らしく、空から見る景色はどこも素晴らしい。と思っていた。
ついさっきまで。
《魔物がごちゃごちゃしていてきっちゃない感じでありますな》
「そだね」
そうなのだ。地上は魔物が好き勝手にのさばっていて、あまり美しく見えない。というかはっきり言ってきっちゃない。
魔物は基本的に北から南に進行しているのだが、無秩序で、ひどいところだと殺しあったり食いあったり。
見た目にスプラッター。
変な話だが、半分精霊みたいになってから俺は死が怖くなくなった。死体が怖くなくなった。
人が死体を恐れるのはその死体に自身の〝死〟を幻視するからだと思う。
死と近しくなった今、俺は死を恐れる必要がないのだ。
ただそれとは別の次元でゾンビとかスプラッターとかはあまり好ましくないというかできればお近づきになりたくない。というのが本音かな。
あれは美しくないからね。
そのお近づきになりたくない光景が眼下に広く展開されている。
「まあ、それでも好き嫌いでどうこう言ってもいられないからな」
魔物の集団があれば攻撃して数を減らさないと、南で防衛にあたっている兵たちのキャパを超えてしまうからね。
《おおっ、あそこの集団はなかなか強そうな魔物がいるであります》
モース君の指し示す方を見ると確かにまとまった魔物の集団があり、そこは大きな、強力そうな魔物が率いていてまとまりがある。
こういうのが一番困るのだ。
「よっし、爆弾生成すっか」
俺は空の上で爆弾を作る。といっても魔法なのだが、まず水の玉を作る。その周りに殻を作る。からの周りに細かい石だの金属ゴミだのを敷き詰めてその周りを力場でガッチリコーティングする。
そのうえで真ん中の水を300度ぐらいに加熱してやるのだ。
そして投下。
投下した爆弾は何かに当たると力場が壊れてむき出しになる。
水の周りの殻は外からの圧力がなくなれば中の圧力に耐えられなくなって壊れる。
壊れれば中の水は、外殻で押しとどめられ超高圧の環境で水の状態に置かれていた水は一気に水蒸気に代わることになる。
体積でおよそ7000倍。だったっけ?
砕けた外殻とその周囲のデブリを勢いよく吹き飛ばしながら爆発。
飛散したデブリは周辺の魔物をずたずたに引き裂きながら周囲にまき散らされることになる。
それは十分な殺傷力を持っていた。
そして爆殺された魔物は周囲の魔物たちに『餌』として認識される。傷付き血を流す魔物も同様だ。
凄惨な食い合いが始まる。
「うーん、行動が変なんだけど、納得いかないんだけど、爆弾投下するだけでグループを壊滅できるんだから、便利っちゃ便利」
リーダーが協力で、無事だった場合は上空からガトリングガンの洗礼を浴びせてやればいい。
俺はこの方法で目立つ魔物の群れにダメージを与えながら北に向かって空を進んだ。
敵の動きが何か察知できるかと思ったんだけど、そんなこともなく、どこまでも同じような光景の果てに俺は北の山脈にたどり着く。
「どういうことだ? 何もないじゃんか」
《変でありますな…これでは普通の…まあ、あまり普通ではないでありますが、魔物の氾濫のようであります。
異常がないのが異常であります。
あっ》
「どうした?」
《人の気配があるであります》
モース君の差す方向を探査すると確かに人間の気配がする。
これは見つけたかもしれない。行ってみよう。
◇・◇・◇・◇
「んー、ここら辺…おっ、あそこだ」
地形はいつしか山になっている。
すでに山の中だ。
そこは山の中に作られた村落だった。
この北の山脈は起伏にとんだ登ったり下りたりの地形が延々と続く巨大な山岳地帯で、その中の平地に村が作られている。
標高的には結構高い。
近づくとそこは…
《ぼろぼろでありますな》
「うん、戦闘があったみたいだな」
山の中にもかかわらず、しっかりとしたつくりの家々が立っている。だがほとんどの家が破壊された後だ。
その廃墟の中に人の反応があるのだ。
当然近づいて…
「帝国のものか…コリもせず、ここには何もないぞ」
あー、天翼族だね。背中の翼を大きく広げて威嚇してきている。
一言で言うと『荒ぶる大鷲のポーズ』といった感じ。
思わず拍手をしたく…あれ?
「誰かに似ている?」
その男は俺のことを忌々しそうに見つめ。
「くっ、帝国のやつらめとうとう空にまでやってきおって、空を我々天翼族のものなのだぞ。人間ごときが…」
ごにょごにょゴニョゴニョと文句を言うその姿は…
「ああ、ホルガーアイセンにそっくり」
いや、かなり似ているというレベルかな。ただ物言いとか主張が彼によく似ている。
もんく言う感じがそっくりだ。
王国の魔法研究所に放り込まれた彼だが、元気でやっているだろうか。
まあ、けつをひっぱたく奴がいるから心配はいらんと思うけど。
さて、この男だが頭に白いものが混じっているし、全体としてちょっとくたびれている感じがある。ホルガーアイセンが壮年になったらこんな感じかな? という見た目をしている。
多分親族だな。
ということはこの村は帝国の進行で放棄された村ということなのかな?
「むっ、貴様、なぜホルガーアイセンを、甥っ子を知っておるのだ」
はい、親戚でした。




