9-17 帝城潜入
9-17 帝城潜入
「うおっ、なんだ? なぜ城の中に霧が」
「魔法使い。この霧を何とかしろ」
「ダメだ。魔法が吸い取られるみたいで効かないんだ…それどころか…」
目的の建物の前にいた衛兵たち
を黙らせる。
「あー、なんというかすごいな。そなたほどの魔法使いは見たことがない」
目的の建物の前にいた衛兵たちがへなへなと崩れ落ちたのだ。
爺さん伯爵がしみじみと感想を漏らす。
こちらは帝城潜入部隊だ。
メンバーは俺と勇者ちゃん二人。艶さんとミツヨシ君。道案内の爺ちゃん伯爵。
とにかく勇者ちゃんたちと爺さん伯爵が不安だ。
護衛をしながら戦闘とか無理じゃね?
「大丈夫ですよ。私たちだって結構強いんですから」
「そう、大丈夫」
基本スペックが高いから普通の兵士には負けないと思うけどね…
あと爺さんに関しては置いてくるという選択肢がなかった。他国の城の中なんて分からんし、第一目的の人物の顔が分からん。
委員会だというから臭いで区別はつくが、ここにいる臭い人が一人とは限らない。下っ端を狩ってお大物を逃がす形になったらバカだ。
それに爺さん伯爵がいるおかげで帝城の奥、奥宮と呼ばれるところまですんなりこれた。
魔力による探知がうまくいかないんだよね、何か細工があるのかもしれない。
なので選択肢は実力行使。
冥の霧を発生させて、そこにモース君が眠くなる霧を混ぜて、自分たちの周囲に流しているのだ。
これがなかなか効率がいい。
冥の霧が魔力や気力を奪い取り、眠りの霧が速やかに意識を刈り取る。
冥の霧で意識を刈り取るとそのままご臨終になってしまう可能性が高いのでこれが平和というものだ。
それにこの方法なら人間にとりついている火の下級精霊も封じることができる。
「こちらは順調ですね」
「そうすると外が心配」
「いや、外も問題ないよ、にらみ合っているだけだ」
勇者ちゃんたちの心配に俺が状況を説明する。
外というのはサリアたちとビアンカ母さんたちのことだ。
あの後勇者ちゃんたちの合流を待つ間に伯爵が自領に連絡を入れ、連れだせるだけの兵力をかき集めた。
その状況で堂々と、粛々と街道を行軍し、帝都に向かったわけだ。
当然帝都も反応して『これは何事か?』と問いただす使者が来るわけだが、それに対する伯爵側の答えはこうだ。
まず伯爵は幼いころに行方不明になった孫が返ってくると聞きつけて黙っていられずに会いに行った。
俺の意志には関係なく俺がその公爵家の公子であるという話は帝国貴族の間では定説になっているので別段不思議はない。
ただなんかやることがずさんなんだよな。俺は、王国の貴族でその兼ね合いで謝罪とこれからのお話。というやつをしに来たはずなんだけど。
まあ、それはそれとして伯爵は俺に会いに来たら俺たちのことを害そうとする一段と会敵。これを撃退した。
ここでは伯爵が撃退したということになっている。
ここ重要。
そしてとらえた者から、今回の襲撃が帝国宰相イムホテプの指示であるという証言を得た。
つまりトリスタン君のことだ。
なので帝国に改めて詰問状を送り、しかしそれにとどまらずきっちりと話をつけるために軍を整え堂々と進軍してきた。
というわけだ。
ただ帝国というのはそう言うのをおとなしく見ているような国じゃない。
もともとがそうなのか、それとも帝国を乗っ取っている委員会がそうさせているのかはまだ分からないが、当然のように帝国軍が出張ってくる。
この段階でサリアたち王国は後ろに隠れて表には出ていない。
表にはね。
コートノー伯軍は総数で500ほど。
対する帝国軍は軽く見積もって2000ほど。
もちろん全軍ではなく帝都に守備軍を残した人員だ。
普通に考えれば伯爵家に勝ち目などない。普通なら。
だが伯爵軍の中には化け物が紛れている。
獣王とか言う化け物が。
他にも戦闘狂とかいろいろ。
たかが2000の軍でどうこうなるはずもない。帝国軍はあっさりと蹴散らされて終わり。
サリアも変装して参加していたのでまた委員会の連中が紛れていないかと警戒したんだがそれもなかった。
「いま、委員会は多く北の戦争に行ってるっすよ」
すっかり下っ端ムーブが板についてきたトリスタン君だった。
討伐軍が蹴散らされ、伯爵家の軍が堂々と帝都に近づいてきてしまうと帝国も政治的な決着を狙わないというわけにはいかなくなったようだった。
帝国の偉い人とか出てきてビアンカ母さんを代表としたコートノー家と政治的なお話をせざるを得ないのだ。
お互いに後ろに軍を配置してにらみ合う形で。
ビアンカ母さんの役目はとにかく帝国政府の真意を問うということで、妥協なしの強硬姿勢。
目的は俺たちのために時間を稼ぐことだから妥協もない。
帝国政府の対応はできるだけ時間をかけて周辺から兵力を集めて態勢を整えること。だから時間がかかるなら大歓迎。
なので双方が望むにらみ合いが茶番のように続いているわけだ。
◇・◇・◇・◇
そんなわけで外の援護を受けて俺たちは帝城の中を進んでいく。
帝城は三部構成で、まず一般の従業員が出入りして仕事をこなす外宮。大臣などの偉い人の執務室が集まっている中宮。
そして皇帝の執務室がある奥宮に分かれているらしい。
つまり現在俺たちが侵入したところだ。
ここは皇帝や宰相など、帝国の本当の中枢のみ出入りできるところで、上級貴族もよばれなければ入ることはできないのだという。
皇帝の生活スペースもあるということだけど、俺たちの目的の一番はここの奥にいるというこの国の神。火の上級精霊に会うこと。
それに合わないと状況が全く分からないからね。
「ここはもともと火の神イグン様の住まう場所だったらしい。そこに人が集まり町ができ、それが国のようになって帝都になった。
帝城もイグン様のいた場所に作られ、彼の神の加護を受けていたのだと…聞いたことがある」
建国神話というやつだろう。
それがいつの間にか妙な一神教が持ち込まれ、神様は下っ端扱いになってしまった。
まあ、精霊ならばそういうことを気にしたりはしないと思うけどね。
加護とか言うけど別に帝国の人を愛していたわけではないだろうし。
ただ予想外だったのが…
「奥宮っていうから大奥みたいなところかと思ってました」
という意見が流歌から出た。
それは歩けども歩けども誰にもあわなかったからだ。
俺も帝国の奥というのでもっとこう華やかな感じをイメージしていたんだけど一言で言うと閑散としている。
人影がない。
護衛の兵士すらいない。
建物も無機質で温かみがない。
そう、コンクリートで出来たきれいなだけの廃墟みたいだ。
周囲の気配を探ってみるがうまくいかない。
ただ近場には何もいないみたい。
「いつもこんなですか?」
「いやいや、用があってくるときはもう少し人がおるよ。護衛も配置されているし…」
伯爵は言うが今はそんなものどこにもない。
「とりあえず精霊のいる場所は分かりますか?」
「あっ、ああ、それは分かるね。洗礼と称して招かれたことがあるから。こっちだよ」
爺ちゃん伯爵が自信を持って歩きだす。
だけどしばらく行くと首をひねり始めた。
「すまない、こんなはずじゃなかったんだが…いや、こんな形だったか?」
路に迷ってしまったらしい。
やはり変なところだな。
仕方ない、適当に…
「お待ちしておりました」
駆けられた声に振り向くとそこには見知った顔がいた。
一つは知り合い、もう一つは、いつも見ている顔だった。




