9-13 勇者攻略戦①
お待たせしました。連載再開します。
9-13 勇者攻略戦①
こまったものだ、爺はいつでも若いものに無茶ぶりをする。
「わかりました、必ず倒して見せます」
すぐその気になる若者ってどうだろう?
君は一応大国のお姫様なんだけどね。
そうこうしているうちに若い男が増えていく。
いや、増援とかではない。幻術だ。
幻術で同じ人間が乱立していく。
しかも本体だけが姿が見えない。
「サリア、大丈夫?」
「大丈夫です。私はこれでも18羅漢筆頭の嫁、獣王の妹です。この程度の敵に負けたりしません」
できれば王女という立場を思いだしてください。
「姫様、お下がりください!」
「ここは我らに」
ほら、立場を忘れていない人もちゃんといる。
サリアの前に飛び出して若い男、というか少年の剣を受け止めようとする騎士。
しかしその剣は騎士の剣をすり抜け、剣とは関係ない場所がすっぱりと切れた。
「だからそれは幻だって言ってるのに」
「そこ!」
キーンと音が響いてサリアが見えない何かを跳ね上げる。
「おお、いいセンスしてやがるぜ。武器が風を切る気配で対応してやがる」
「うむ、なかなかよい才能じゃな。ワシらの未来は明るいぞ」
「おうよ、あんな才能のある若手が出てくるんだ。年を取るのも悪くはないぜ」
いや、だからサリアは人間で獣人でないってのにこのジジイどもが。
サリアは俺の作った双剣を逆手に構え、周囲の紛らわしい幻術に惑わされることなく見えない、しかも見えている偽物から少しずれている本体と切り結んでいる。
はっきり言ってすごいの一言。
俺も空間質量を計測する能力がなかったら本体の位置なんてわかんないよ。
しかもサリアとまともに打ちあえるんだから相手の少年もなかなかの腕。
周囲の護衛騎士たちも高度な戦闘に手を出しあぐねている。
ではこのまま硬直か? さすがにまずくないか? とか声が聞こえてくるが、そうはならない。
サリアの剣はオリハルコンだのヒヒイロカネだのを使って作った超級アイテムなのだ。
しかも極めて固いものを簡単に切れるようにと波刃になっている。
数合打ち合ってサリアには余裕が出て来た。
「ふふふ、私の方が強いですね」
確かに。
姿が見えないことを利用して戦って、サリアと互角というのは確かにあの少年の腕はサリアよりも少し下か…。
いや、結構下かな?
サリアの動きに余裕が出てきて動きがどんどんしなやかになってきた。
「おう、見事見事。実戦の中で目に頼らない感覚を会得したようじゃの」
つまり喧嘩した場合、俺には勝ち目がないということだな。夫婦喧嘩は控えよう。
そして勝負は既に目に見えていた。
敵の動きは完全に把握されていたのだ。
振り下ろさせる剣。もちろん見えなくなっている。
だがその剣に、サリア派自分の剣を合わせる。薄い角度で受け流す。
相手の剣はサリアの剣の波刃の上をすべるように流され、そしてすっぱりと切り落とされた。
「そんな! 僕のバルムンクが!!」
少年が初めて声を上げた。
そのせいか、あるいは集中が途切れたせいか幻術が解けて幻の少年がすべて消える。
そして現れた少年。
少年といってもこの世界では殺されなければ死ぬことのできない元勇者だ。
年は不明。たぶんジジイ。
その次の瞬間、サリアの剣が少年の首に吸い込まれた。そして何の抵抗もないかのように振りぬかれ、少年の首が宙を舞う。
「うん、良い戦いでした」
えっと、まあいいか。
爺ちゃん伯爵とその部下たちがちょっと唖然としてみている。
サリアの実力に驚いたのか、それとも問答無用で首をはねたから驚いたのか。
脳筋レベルはうちの連中の方が高かったようだ。
俺は無間獄を顕現させると少年の魂を速攻で地獄に取り込む。
気づかれないように静かにやったんだが、あちらの気配が空気をきしませ、周囲にいた者たちの顔を青くさせた。
まあ、苦鳴とかが響かなかったから良しとする。
さてというわけでもう片方の方に視線を転じる。
こちらは騎獣戦だな。
◇・◇・◇・◇
ルトナと対峙しているのはいつか見た大男。
そいつの勇者スキルは幻獣召喚のような能力みたいで、今二匹目を召喚してその背に乗って戦っている状態だ。
一匹目の隠密性に長けた変なカメレオンはすでにルトナの戦車で倒されている。
あの魔獣の能力は隠密性能がすべてだったようで、一か所血を流してしまえばそれを隠す方法がなく、hit and awayで接近と離脱を繰り返しつつ、戦う戦車の翼のようなブレードに切り刻まれてあえなく倒れている。
と言っても外れた攻撃なんかを見ると攻撃力が決して低いわけではない。
全く姿が見えず、足元でチョロチョロしている元獣王のジジイをして明確に把握できなかった隠密性を持っているのだ。
無警戒の所にあの攻撃、舌を伸ばしてドカーン。をやられたら普通のやつならひとたまりもなかっただろう。
まあ、やられてしまえばそれまでなんだが…
そして二匹目は猿だった。
猿というかコング?
身長は6mぐらいある。
その頭の後ろにまるで一心同体みたいな感じで大男がしがみつき、高速で飛び回る戦車と激しくやり合っている。
「あれってディア様の攻撃なら簡単に倒せるのでは?」
「クレオ、それは言ってはいけない事なんだぞ」
タイマン勝負に水を差しちゃダメ。ゼッタイ。
そうしないとルトナがすねるから。
後ジジイどもが修業のやり直しだーとか言って襲い掛かってくるから。
戦車の速度はなかなか大したもののはずなのにコングも負けていない。
刃物なんてものは刃が当たるから危ないのであって、側面から当たれば怖くない。いや、怖いか。
でもそらすことはできる。
猿のくせに器用に腕を振り回して戦車のブレードを側面から攻撃してその攻撃を躱している。
そのたびに戦車は激しく揺れてルトナは揺さぶられていた。
だがただやられているはずもなく、コングの拳が近づくたびにルトナは自分の剣でこぶしを切りつけ、ずたずたにしていく。
刃筋が固定されていないからこちらには対応できずに切り裂かれているが、いかんせんに大きい。
大きいというのはその事実だけで十分に力なんだよな。
つまりあまり大きなダメージにはならないということ。
「ちまちま姉さまがダメージを積み重ねて追い詰めている感じですかね」
「うーん、でも相手がちゃんとした生き物かわからんし」
カメレオンもどきは死んだんじゃなくて光になって消えてしまったよ。
とか言っているうちにコングが戦車の軌道上に飛び出してきた。
そして大きく口を開けて噛みつき攻撃。
グリンブルスティは当然それを躱し、その代わりに戦車のブレードがコングの口に飛び込んだ。
そしてブレードにかみつくコング。
「おっと最初からこっちが狙いかの?」
「おっと、嬢ちゃんあぶねえぜ、どうするどうする?」
ジジイども完全に観客になってやがる。
まあ、俺もこの程度で助けが必要だとか、思ってないけどね。
カクヨムさんでやっていた『異世界でシッポの可愛い嫁をもらいました…』を無事完結させることができました。
ありがとうございます。
これからはこちら一本で完結まで、まあ、遅筆はどうしようもないんですけど、出来次第上げていく感じで。
またよろしくお願いします。




