穏やかな休日①
ガルシャが死去して一週間ほどが経った。
その日の朝、食事をしているヨヲセの姿を食堂で見つけたヒネは驚いた。
「ヨヲセ? 今日は非番ではありませんでしたか?」
膳を受け取り、ヨヲセの前の席に座りながらヒネが声をかける。
今日のヨヲセは、カムイクジナもタオキホオヒカムナも非番だと、たしか昨日言っていたはずだ。ヨヲセが非番の日は、昼を過ぎてもスベラギの塔で見かけることはめったにない。以前、本人から聞いたことによると、非番の非番の日は一日中寝ていることが多いということだ。
「今日は用があるんだ。」
そう言ったヨヲセは、朝食用と昼食用の料理を一膳ずつ並べ、交互に口に運んでいた。その様子から、用というのは夕刻までかかるらしいとヒネは推測する。
「地方に赴いていた左官職人の先輩たちが戻ってくるんだよ。今夜は宴会なんだけど、その前に飛行艇の発着場まで、道具やらなんやらの引き上げを手伝いに行くんだ」
非番の日に駆り出されるというのに、ヨヲセは機嫌よさそうに話す。
「ヒネも散歩がてら飛行艇乗り場まで行くか?」
ヨヲセが目を上げてヒネに問う。
ヒネは突然の申し出に驚いたが、今日は神呼見習い候補生向けの講義もなく、正直に言うと暇だった。ありがたく同行させてもらうことにした。
カタカタカタカタ――
足元の木板が小気味よくリズムを刻む。
ヒネとヨヲセは、飛行艇乗り場まで向かう地下通路の中を、「動く歩道」に乗って移動している。飛行艇乗り場はアマトの中心部から見るとヒガシ側に存在している。アマトの中心地下街からは地下通路で向かうのだが、なかなかに距離がある。かつては歩くしか手段がなかったこの通路も、数十年前に「動く道」なるものができて非常に便利になったと聞いている。ヒネは初めてアマトに来た日に、この「動く道」を実際に体験できて感動したものだ。
「動く道」は横に3人ほど立って並べる幅があり、横幅いっぱいに敷かれた細い木が縦方向に延々と続き、それらが整然と動いている。てっきり動力は電気だと思っていたが、どうやらそうではないらしい。アマトに来た日、案内をしてくれた者から詳しい説明を聞いてはみたものの、ヒネには理解できなかった。なんでも地熱と磁力を使っているらしい。
動く道に添うように、荷台が通るための通路もある。動く道と荷台用通路の両隣では地下広場が続いており、多くの人で賑わっている。まるで市場のような活気を見せるその場所では、物を取り交わしたり、芸を披露したりする者の姿もあった。
「香りのよいお茶にござーい! 滋養強壮に効くお茶にござーい!」
どこかで、お茶を売る声が聞こえてきた。ヒネは、先日受給したばかりの「価物受給権」で、百蓮という茶を手に入れたばかりだったが、つい気になって目で追ってしまう。帰りに寄ってみようかと考えながら、「動く道」の先を見つめた。
長い「動く道」が終わると、その先に、上へと続く階段がある。階段をのぼった先が、飛行艇が離着陸する場所、飛行艇乗り場だ。
玄武岩の階段をのぼると、外へとつながる大きな扉がある。扉を開けた途端、ヒネとヨヲセはむっとした湿気と、砂の混じった風に包まれた。
「なんだヨヲセ、お前いつの間に恋人ができたんだ」
突然背後からかけられ、振り返ってみれば、そこには逞しい体つきの男性が立っていた。
「へへへ、羨ましいでしょ。内緒にしてくださいね」
ヨヲセが人懐こい笑顔で答えた。




