カダの年齢④
そう、ヒネは「カダ様」はもっと年老いた男性だと思っていたのだ――
ヒネが生まれ育ったマガの都市には、『昔は大陸の神呼だった』という老婆がいた。
子どもたちは老婆によく、スベラギの塔での生活について尋ねていた。パムゥの大陸において、スベラギの塔で職務にあたる者たちは子どもたちの憧れで、中でもミコトやスベラミコトは英雄のような存在として扱われることもある。
あるとき、老婆が語ってくれた逸話があった。ヒネは、懐かしい記憶を掘り起こし、当時の老婆の話を思い返していた。
「あれはまだ、わたくしが10代後半のころでございました」
老婆の、しわがれた声が耳の奥に蘇る。
「当時、カムイクジナのミコトは麗人と表現する方がふさわしいほどの美麗な男性で、名前をカダ様とおっしゃいました。カダ様は人の心を狂わす妖術があるとされ、女人が一度でも目を合わせれば心を惑わされ、三度も目が合ったなら魂を抜き取られると、上役から再三にわたって言い聞かされていたのです。わたくしはもう、恐ろしくて恐ろしくて。いえ、わたくしだけではなかったはずです。若い女性の神呼や審神者は皆、カダ様に謁見する際には常に下を向き、目を合わさないようにしておりました。今思えば、上役に担がれておったのやもれません」
記憶の中でこだました老婆の笑い声が、隣の席の下品な笑い声にかき消されて、ヒネは手にした茶碗に意識を戻す。
スベラギの塔に来て、カムイクジナのミコトが「カダ」様だと知ったとき、老婆が現在のミコトの名を、当時のそれと勘違いしていたのだろうとヒネは思ったが、名前を代々受け継いでいるなら老婆は間違っていなかったといえる。
「だが私は、ある新説を考えておる」
ヨヲセが、「せいつく」を揚げたものを美味しそうに頬張りながら、ほくそ笑むように言った。必死で食べ進めていたヒネが目で返事をすると、大仰な口調でヨヲセは続ける。
「今のカダ様は、実は初代カダ様の息子ではないか、という説だ。性格はともかく、美しいという点は同じだろ? 初代カダ様はオウガ様と歳が同じだというから、仮に今も生きていれば90代後半。今のカダ様が20代だとするなら60代後半から70代前半のころに設けた子どもだということになる。かつて精力絶倫とうたわれた初代カダ様だ、あり得なくもないだろ?」
「親から子へ名前を引き継ぐ……」
ヒネは箸を止めて、たしかに無くはない話だと考える。
「あるいは……」
そう言ってヨヲセは、にやりと笑った。
「実はカダ様はああ見えてすでに40代説だ!」
ヒネは眉根を寄せ、なるほど、それならほかのミコトの年齢基準にも沿うな、と考える。
とはいえーー
「あれで40代ならば、もはや化け物でございますね」
ヒネが言うと
「たしかに……」
と、ヨヲセも同意した。カダは、どれだけ年齢を大きく見積もっても、せいぜい30歳くらいが限界であろうか。
いずれにしても謎は深まるばかりだ。
いつか朝の礼儀会の前に、特に報告事項がないときにでも聞いてみようかとヒネは考えていた。
しかし、その機会は翌日、早々に訪れることとなったーー




