カダ29歳ー友情と別れー①
カダは、日が傾いたスベラギの塔の干し場で、椅子に腰を掛け、友の姿が見えるのを待っていた。
目の前にあるテーブルの上に置かれた杯と酒の入った入れ物に目をやり、口元が緩む。
「待たせたか」
遠くの方からかけられた声にカダが目を上げると、太い眉としっかりした顎の青年が手を振りながら近づいてくる。振っていない方の手には、抱えきれぬほどたくさんの料理が入った籠を持っている、毎度の光景だ。
「オウガ」
カダが名を呼ぶと、オウガも「カダよ、久しぶりであるな」と笑顔で返す。
オウガはカダの兄弟弟子だ。兄弟弟子として当時は4年も同部屋で寝起きをしていたが、そのころは会話をすることはほとんどなく、お互いがお互いを避けていた。皮肉なことに、オウガがカムイクジナを去るようになって初めて、お互いに腹を割って話すことが叶い、おかげでわだかまりや嫌悪感がすっかり消えた。その後は部署が離れたわけだが、こうして頻繁に会っては酒を酌み交わしたり、いろいろな相談をしたりできる真の友となったのだ。
カダとオウガは同い年で、この年29歳となっていた。オウガはミコトになるため、カムイクジナを合わせると、すでに三つ目の部署に所属しており、その部署でも4年目を迎えていた。どうやら、彼の計画は順調なようである。そのようなオウガの近況を楽しそうに聞いていたカダに、ふと真面目な顔になったオウガが問う。
「それで? 話したいことがあるのであろう?」
カダは目を上げ、オウガを見つめる。「さすがだな」と感心し、カダは苦笑する。
オウガは、かつてカムイクジナに所属していた元審神者である。審神者は本来、一般の者より人の心を読むことに長けているものだが、今のカダには、その心の内を読める者などいない。
一方でオウガは、実のところ人の心を読むのがあまり得意ではない、審神者としてはそれほど優秀ではなかったのだ。だが、彼には並々ならぬ洞察力があった。相手の視線や息遣い・顔の表情のわずかな動きや行動をつぶさに観察し、それらが示しているであろう心理をいくつか選び出し、分析することで最適解を導いていく。それは、優秀な審神者であっても、ある意味では太刀打ちできない、オウガの優れた能力の一つであるとカダは認めていた。
「ガルシャに、子どもが欲しいと言われた」
カダは、手元の杯に目を落としながら端的に言った。
「ほう、子どもであると? そなた父親になるのか!」
オウガは楽しげに答える。カダも、なるべく楽しそうに見えるよう、微笑んでみせた。




