表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋した悪役令嬢は余命一年でした  作者: 葉方萌生
第五話 この想いが届くように

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/35

3.どうか届きますように


 それからというもの、私たちはお忍びで会い続けた。

 外に出るのには私の身体の症状的にも、公爵の立場的にも細心の注意を払う必要があったので、デートらしいデートはできなかった。せいぜい車で十分圏内の公園に行くぐらいだ。それも、公爵の送迎車で行くことはさすがにできないので、二人でゆっくり歩いて向かった。散歩にも向いているその公園は広々としていて、周りの目もあまり気にならなかった。

 公爵は私服を着ていると、良い意味で普通の国民らしく見える。だから、外を歩いていても周囲に気づかれないことの方が多かった。

 公爵は二人で外に出る時、「なんだかゲームみたいだね」と笑いながら言う。


「何がですか?」


「僕が公爵だって気づかれたら負け、のゲーム」


「それ、笑い事じゃありませんよ」


「はは、そうですね。バレたらまずいんだった」


 公爵は子供みたいにいたずらっ子っぽい笑みを浮かべて、私を見た。私も、そんな彼につられて笑ってしまう。公爵は常日頃忙しくて外でのデートは本当に僅かな時間しか取れなかったけれど、公爵の隣で笑っていられることが、あまりにも幸せだった。


 十二月二十五日、クリスマスの日に公爵はケーキを買って来てくれた。イブの夜は、ハンナと過ごしたんだろう。でもそんなことはどうでもよかった。彼は身体に悪くないように、特注で作ってもらったケーキだと言う。食べてみるとほんのり甘くて、やさしい味がした。公爵の優しさに涙が滲んできて、幸せな夜だと言うのに泣いてしまって少し申し訳なかった。でも、そんな私を彼は大きな心で包んでくれた。


「ルミの写真、撮ってもいいですか?」


「写真? はい。恥ずかしいけどぜひ——」


 久しぶりに、彼がカメラを構えるのを見て、心臓がどくんと跳ねる。部屋の中での写真なんて、一ミリも映えないのに、公爵は真剣にファインダーを覗いていた。私が緊張して固い顔をしていると、彼は「もっと可愛らしく」なんて冗談を言って私を笑かす。こんな撮影会なら何度被写体になっても構わないと思えた。

 撮った写真を見せてもらうと、ブロンズの髪のルミエールがこちらを恥ずかしそうに見つめている。自分じゃない人の写真を見ているみたいだ。「家宝にしますね」と宣言する公爵に、「まだお父様に認められてないでしょう?」と冗談で返した。



 その後も自宅でのデートを繰り返し、私たちはお互いにかけがえのない存在になっていた。

 私は、公爵と会う傍ら、ある人物への手紙を書いて、送り続けた。返事はまだ一度も来ていない。そもそも手紙が届いているかも分からない。それでも、今公爵のために自分にできることだと信じてやめなかった。


 厳しい冬の寒さは年が明けて春が来ても、まだまだおさまらない。日本とは違い、イーギス国は一年を通して気温が低かった。

 時が経つにつれて、私の身体の症状は少しずつ、けれど確実に悪化していった。 

 胸が痛くなる頻度が増え、その度にエクシア医師に診てもらった。公爵と会う予定だった日だったが、彼と会うのをやめて家で休むように指示を受ける。致し方ないことだ。公爵にも電話をして、理解してもらった。彼はただ、私のことを心配して「ゆっくり休んでください」と優しい言葉をかけてくれる。その頻度が増えても、もちろん文句ひとつ言わない。彼のさりげない気遣いが、今の私にはありがたく、同時に痛くもあった。


 痛む心臓を抑えて、私はなんとか手を動かして、手紙を書き続けた。

 どうかこの想いが、あの人に届きますように。

 強い願いを込めて、ペンを握りしめていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ