2.止められない
「公爵、あの……本当に良かったんですか? 何も、誰からも、咎められたりはしてないんですか……?」
上品に紅茶を飲む公爵に、私は気になっていたことを聞いた。
公爵は「大丈夫ですよ」といつものように笑った後、「ただ」と少し低めのトーンで話を続ける。
「本当は言わない方がいいのかもしれませんが……あとでルミが苦しむのを見たくないので先に伝えておきます。僕の父が——現国王が、僕とルミの関係のことをあまりよく思っていないんです」
一瞬にして曇ったハーマス公爵の顔を見て、私は苦い気持ちに襲われる。
……なんとなく、予想はついていたことだ。ただ思ったよりタイミングが早いなとは思う。
「それは、ハンナさんのことがあるからでしょうか?」
「……ハンナと僕のこと、知っているんですね」
「はい。いろんな噂が、あるので……。あ、別に公爵とハンナさんのことを詮索しようとしたわけじゃないですよ?」
「分かってますよ。ハンナとのことは、ほとんど国民公認みたいなものですから」
そう言ってハーマス公爵は苦笑する。彼自身、ハンナと結ばれることを、心から望んでいないのだと分かった。
「ルミの言う通り、ハンナとのことがあるので、父は僕がハンナ以外の女性と仲良くすることを望んでいません。一度は弟のアイルを王位継承者にしようというところまで怒られました。でも、すんでのところで父を止められたんです。一年、待ってほしいと伝えています」
「一年……」
彼の言いたいことを、私はなんとなく理解することができた。
要するに、私の命が尽きるまでは容赦してほしいと国王にお願いしたのだ。
私は、なんとも言えない気持ちになって、公爵の顔を見つめる。彼は真剣なまなざしで「これは」と続けた。
「決意表明なんです。一年で、父の気持ちを変えてみせるという僕の決意です。もちろん、ルミの病状のことも鑑みて言ったことですが、僕は父に、ルミのことを認めてほしいんです」
彼の、私に対する並々ならぬ想いが、その固い声と強い言葉によって、私の胸に刻み込まれていく。
公爵は自分の立場がどうなろうとも、私に向き合おうとしてくれているんだ。
だったら私も、彼の想いに応えたい。たとえこの命が近い将来に尽きるとしても、それまでは彼と正面から向き合う義務がある。
「そこまで伝えてくださってありがとうございます。私でよければ、これからもよろしくお願いします」
いろんなことが頭をよぎった。
公爵と結ばれるはずのハンナのこと。
国王や弟のアイルさんのこと。
それでも、今強く彼に対して感じているこの恋を、どうして止めることができるだろうか。
「こちらこそ、不甲斐ない僕ですが、よろしくお願いします」
まるで結婚の挨拶みたいにお互いに恭しく頭を下げた。顔を上げて、公爵の顔を見て私はぷっと吹き出してしまう。
「なんだか恥ずかしいですね。こんな気持ちになったのは初めてです」
「奇遇です。実は僕も同じことを思っていました」
柔らかな公爵の笑みが無機質だった部屋にほのかに灯りをともしてくれる。
この人を好きになって良かった。
まだ始まったばかりの関係に、新たな希望の芽が出始めていた。




