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撮影!

 私が南海市に来て、二度目の春がやってきた。

 遠くに見える山々や川沿いでは、桜がきれいに咲いている。また、南海市の桜の標準木が全国で最初に開花したらしく、全国ネットのテレビでも取り上げられていた。


 真珠の当たる白いチョココロリンはネット上で大きな話題になり、様々なネットメディアで取り上げられるようになった。


 また、城内ミミが南海市を知らなかったことから、フォロワーが南海市について彼女に教えることが続いていた。それがきっかけとなり、城内ミミは南海市の様々な特産品を紹介するようになり、ネット上で南海市というワードが何回も話題に急上昇していた。


 マスコミもネットでの話題に気付き、ついにテレビでもチョココロリンが紹介されることになった。また、私たちも真珠のチョココロリン誕生の立役者として、テレビに出演することが決まった。





 今日は地元テレビ局の取材を受ける日だ。

 テレビ局の撮影クルーがあと少しの時間で到着するため、みんな落ち着かない様子でそわそわしている。


「緊張しますね」

 毛利くんが大きな体を揺らしている。


「やっぱ、いいスーツを買うんやった」

 清家が服装をやたら気にしている。


「私も髪を切ってきたらよかったです」

 亜利紗も髪型が決まらないようで、手鏡で前髪をいじっていた。


 そんな亜利紗を、さっきまで服装を気にしていた清家がじっと見つめる。


「亜利紗、提案がある」


「……何ですか」


「眼鏡を外せ」


「嫌です」

 亜利紗が即答する。


「なんで」


「父親からの遺言です」


 亜利紗の父は存命なはずだが、それだけ嫌なのだろう。


「それじゃあ、二択だ。眼鏡を外すか、ツインテールにするか」


 この質問で、清家が幼少期にいじめっ子だったのが想像できる。

 亜利紗も突然ツインテールを要求されて、しかもテレビの取材時に理不尽すぎると怒り出すだろう。


「ツインテールで」

 予想に反して、亜利紗は即答する。

 亜利紗も極度の緊張のため、冷静な判断ができていないようだ。


 亜利紗の行動を止めようとしたが、亜利紗が素早くツインテールになると同時に、テレビの撮影クルーがやってきた。


「本日はよろしくお願いします」


 挨拶が終わるとすぐに、取材準備が始まる。

 私たちは指示された場所に座らされて、段取りの説明を受ける。


 進行が速すぎて、頭が付いていかない。私は慌てて、頭の中で話す内容を練習していた。


「あっ、ちょっと清家さん、返してや!」

 亜利紗の怒った声が聞こえる。

 亜利紗を見ると、清家に眼鏡を取られていた。


「清家さん、悪ふざけがすぎとるけん! いい加減にしてや!」

 亜利紗は興奮して方言が丸出しになっている。

 怒っているのに、方言だとかわいらしく聞こえてしまうのが不思議だ。


 清家と亜利紗がじゃれ合っていると、今日の取材を担当するキャスターがやってきた。


「おい、十亀(そがめ)キャスターだぞ」


 眼鏡を奪い取った清家が緊張した面持ちでみんなに声をかける。

 毛利くんも越智くんも緊張しているようで、微動だにしない。


「なんで、そんなに緊張しているのよ」


「お前、十亀キャスターを知らんのか。四国県で一番人気のある男性キャスターやぞ」


 確かに、顔立ちは彫が深くて精悍だ。体つきも筋肉質でがっしりしており、どことなく一般人とは違うオーラをまとっていた。ただ、少し背が低いようで、私の好みのタイプとは違っていた。


「夕方のニュースとかで、たまに見るけど。よく分からない」


「お前、(おそ)れ多いということを知らんのか」

 清家が慌てたように、私の発言を遮る。


「亜利紗もそう思うよね」


 しかし、亜利紗は返答することなく十亀キャスターを見つめていた。眼鏡を取られたことも忘れているようで、ぽーっとした顔つきになっている。

 私は四国県人の皆さんに何も言えなくなる。


 これがローカル特有の地元の有名人現象というやつか。


 十亀キャスターが私たちに近づいてくる。


「十亀と申します。本日はお忙しいところ、取材に協力してくださり、ありがとうございます。短い時間ではありますが、よろしくお願いします」


 私以外は緊張して固まっている。仕方がないので、私が代表であいさつする。


「南海市役所の山本と申します。こちらこそ、遠方までお越しいただきましてありがとうございます。本日はよい取材となるよう、精一杯協力させていただきますので、よろしくお願いいたします」


「すげぇ、十亀キャスターに物怖じしてねぇ」


 清家の呟きと、残り3人の畏怖の眼差しを感じながら、取材はスタートした。





 取材は順調に進み、問題なく終わった。

 

 日は流れ、私たちの出演したVTRが放送される日がやってくる。


 仕事もそこそこで切り上げて、アパートでテレビの電源を入れる。

 みんなと市役所で見ることができればよかったのだが、テレビがある部屋は新型コロナウィルス蔓延防止のため、一部の職員を除いて出入り禁止となっていた。


 私たちが出る予定のローカルニュースは番組の後半からで、今は全国版のニュースが流れている。ローカルニュースになるまで時間があったので、ソファーに腰かけて冷たいお茶でのどを潤す。


 全国ネットの女性アナウンサーがにこやかに次のニュースを伝える。


「続いて、今話題の真珠が当たるお菓子『チョココロリン』についてです」


 お茶を噴き出す。

 全国のニュースで放送されるなんて聞いていない。


「ちょっとローカルニュースじゃないの!?」


 スタジオの画面パネルに私たち5人の姿が映し出されている。


 突然の展開に、頭が追い付かない。そんな私を置き去りにして、ニュースは進行する。


「ネットで話題の白いチョココロリンは、どのようにして誕生したのか。南海市の若手5人組に迫ります」


 再現VTRとして、打ち合わせの様子が流れ始めた。なぜか取材を受けた時より、私は緊張している。


 真珠とチョコ玉が似ていることに、私が大げさに気づく場面が映る。ディレクターらしき人の指示に従っただけだが、自分の演技を見るのはとても恥ずかしい。


「白いチョココロリンのアイデアを思いついた山本里琴さんは、内閣府の推進する地方創生のために航空会社から南海市役所へ出向しました」


 ナレーションに対して、そんな大きな使命は背負っていないと訂正したくなる。通常の業務は地方創生とは程遠い雑務ばかりだ。


 私へのフォーカスの後に、南海市PR作戦を企画した亜利紗へのインタビューが始まる。

 眼鏡を外した亜利紗は、ツインテールも相まってどこかのローカルアイドルに見えなくもない。緊張していた割には、とてもはきはきと受け答えしている。


 インタビューの最後に、カメラ目線で亜利紗が微笑む。

 あまりの可愛さに私でもドキっとする。牛乳瓶眼鏡の封印力は、恐るべしだ。


 亜利紗へのインタビューが終わり、中畑製菓の社屋が映し出される。どうやら南海市役所のパートは終了のようだ。取材時には男性三人組にもインタビューしていたのだが、かわいそうなことに放送時にはカットされていた。


 中畑製菓の奈良橋さんと只野さんの紹介があり、白いチョココロリンの製造工程が映る。

 最後に、南海市の真珠業者の皆さんが方言丸出しの大賑わいで出演し、チョココロリンのニュースは終わった。


 見終えた後に、思わず亜利紗に電話する。


「もしもし、亜利紗! ニュース見た!? なんで全国放送なの!? ローカル放送じゃないの!?」


「里琴さん! 全国ニュースで放送されるなんて聞いていませんよ! しかも私、緊張しすぎて、眼鏡をかけ忘れているし! ツインテールだし! カメラに向かって笑っているし!」


 お互い興奮して、矢継ぎ早に話していく。


 そのうち、スマホにメッセージが届き始める。


「ごめん、亜利紗。メッセージアプリが騒がしいから、電話を切るね」

 興奮している亜利紗との電話を終えて、メッセージアプリを開く。


 すると、会社の同僚や大学時代の友人からメッセージが届いていた。


「メッセージ数、すごっ」


 誰から来たのか確認すると、よくやり取りしている人もいれば、何年かぶりにメッセージを受け取った人もいる。


 放送するなんて伝えていなかったのに、やはりテレビの影響力はすごい。しかも、テレビ番組もネットでアップされることが増えたので、誰か一人がテレビ番組を見るだけで、一瞬で拡散される。ネットの伝達速度も加わると、すさまじいものがある。


 一人ずつ返信していると、結構な時間がかかった。話題はそれぞれ違ったが、やり取りの最後には、新型コロナが落ち着いたら食事をしよう、飲み会を開こう、久しぶりにみんなで会おうと約束してメッセージを終えた。


 時計を見ると、21時を過ぎていた。メッセージの返信にはかなり労力が必要だったが、今まで出会ってきた人との繋がりを思い出す。


 心地よい疲れを感じながら、私はシャワーを浴びるために風呂場に向かった。





 シャワーを浴びながら考える。早くコロナが収まって、今まで通りの生活が送れるようになりたい。そうすれば、連絡してくれたみんなとも、楽しくお喋りしたり、馬鹿なことを言ったりして、笑い合うことができる。


 しかし、コロナが収まれば、出向先の南海市役所から航空会社に戻らなければならない。それは、亜利紗たちと一緒に働くのが終わるということだ。


 バスタオルで体を拭い、部屋着に着替える。ソファーに腰掛けて、テレビの電源を再び入れる。


「速報です」

 男性キャスターが真剣な表情で原稿を読み上げる。


「新型コロナウィルスの国産ワクチンが初めて、厚生労働省の認可を受けました。これで、海外製を含めて4つのワクチンが使用可能となります」


 男性キャスターは続ける。


「また、新たに認可されていた治療薬についても、感染者の9割に効果があったと発表がありました」


 ナレーターが解説を行い、コメンテーターや医師会の有識者が様々な意見を交わす。肯定的な意見も否定的な意見も入り混じっていたが、予感めいたものが私の中に渦巻いていた。


 私が東京に戻る日は、そう遠くないだろう。





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