ヤ・ク・ソ・ク
シュタッ タタンッ!
山を越え、地を駆け、森を抜け、川を渡り、1人の男が人里に降り立った。
「田舎だ…。」
ポツリポツリと家はある。だが、それだけだ。一見すれば、妖怪など現れるはずもない、のどかな場所だ。しかし、こうして依頼があったからこそ、司は此処にいる。
「おーい。電話もらったモノだがー。」
「おお、よく来てくだすった。さあさあ、中へ。ずいぶんお若いですな?」
興奮気味の老人が出迎えてくれた。中に入ると、明らかに司のことを疑っている、夫婦の視線が。
「こうも睨まれると、やりにくいんだけど…。」
「親父が呼んだだけで、俺は、霊媒師とかそういうのは、一切信じてないからな。それに、年上には敬語を使って貰おうか。君は、まだ子供だろう?」
「コラッ!何ということを…。」
「あー、いいよいいよ。やっぱりそう見えるよねぇ。でも、仕事は仕事だから。化け物を見たってのは、どいつだ?」
司はみんなの顔を見渡す。そして、憔悴しきった顔のガキに目を止める。
「どう考えても、お前だよな…。おい、名前は?」
「ケイタ…。」
「よっしゃ、ケイタ。化け物の特徴を教えてくれ。見た目とか、何をしたとか…。」
「もうやめてよっ!」
「あ?」
ケイタは耳をふさいで自分の世界に閉じこもる。昨日の恐怖が、今になってトラウマになってしまったらしい。
「もういいよ…。昨日のは、見間違いなんだよ…。何もなかったんだよ…。」
メソメソと泣き始めるケイタに、司の苛立ちが募る。
「ふざけんなよ、テメエ…。」
「ヒイッ!?」
ケイタの頭をつかみ、目を見つめる司。
「ちょっと、何してるの!?」
「このガキ!」
「黙ってな。」
夫婦がごちゃごちゃ言うのを、睨み付けて制する司。
「ケイタ、お前が見たのはな、妖怪ってやつだ。」
「妖怪?」
「妖怪は、時に人を襲う。お前がこうして泣いてる間にも、誰かが襲われてるかもしれない。俺は、そういう人間を救うために来た。止まってる暇なんかねえんだ!」
真剣な表情。司の過去に何があったか、ケイタは知る由もないが、その覚悟だけは伝わったようだ。
「大丈夫。俺が、絶対にお前を守る。そのためにも、教えてくれ。頼む。」
深々と頭を下げる司。誰も何も言えなかった。沈黙を破ったのは、ケイタだった。
「アイツは…黒くて、小さいのがたくさんいて…目が赤くて…。分かるのは、これくらい。あと、何故か部屋に入ってこれなかった。」
「部屋に?どの部屋だ?」
「こちらです。」
じいさんに案内された先は、何の変哲もない座敷。普通の人にとっては、だが。
「ほう…。じいさん、あんた、妖怪の事知ってたな?」
「はい。この土地に、古くから伝わる言い伝えがありましてな。一応、対処はしとったのですが…。」
「おい、どういう事だよ。俺は何も聞いてないぞ!」
父親がわめく。それもそのはず、この家に生まれてから1度も、そんな話は聞いたことがないのだから。
「すまん。しばらくは妖怪が出とらんかったから、いらん心配をかけたくなくてな。この部屋には、結界が張ってあるんじゃ。」
「だが、相当古いもんだ。次は耐えられないだろうな。」
部屋を見渡しながら、司が呟く。
「ヤツはしつこい。今日にもまた来るだろうよ。」
「お兄さん、アイツが何か分かったの?」
ケイタが、驚いた顔で訪ねる。
「俺は、頭がいいんだ。人生経験豊富だからな。」
「フフッ、自分で言うの?」
ケイタに笑顔が戻った。さっきまでの悲壮な顔とは大違いの、年相応の笑顔だ。
「何なんだよ…。もう訳わかんねえよ…。」
へたりこむケイタの両親。
「安心しなよ、夜にはもう、全てが終わってる。」
「ヤツらの正体は、油取りだ。」
夜になり、司はあの部屋にみんなを集めた。
「油取り?」
「人間、特に子供をさらう妖怪だ。1度狙った獲物に対して、執着心がすごい。今日もまた…ん?」
司の顔が殺気に満ちる。さっきまでの柔和な笑顔は吹き飛んで。
「来やがった!」
ガタガタガタ!
窓に張り付く黒い影。卵形の胴体に手足と目玉のみがくっついた、シンプルな構造。それゆえに、恐怖をかき立てる。
「うわぁっ!」
「キャアッ!」
「怖いよ…。助けて…。」
3人はへたりこんで身を寄せ合う。
ついに結界が壊れ、窓が破壊された。
「うわああ!もうダメだ…!」
1体が、ケイタめがけて飛びかかる。その刹那、鋭い蹴りが、油取りの顔面にクリーンヒットした。
「ゴキャッ!?」
ピクリとも動かない油取り。周りの油取りも、何が起きたのか分からない。それは、ケイタたちも一緒だった。
「妖怪を素手で…。あなた様は、一体…?」
心底驚いた顔の、じいさん。司は、ニヤッと笑ってこう言った。
「俺は司。人であり神!最強の調伏師だ!見せてやるよ、俺の戦いを!」
ジリジリと油取りとの距離を詰めていく。仲間を1人やられたせいか、逃げ腰だ。家の外に追いやられたとき、司に逃がす気がないと悟ったのか、一斉に飛びかかってきた。
「テヤッ!ソイヤッ!ハアアアッ!」
上段下段中段蹴りを使いこなし、的確にダメージを与えていく。1体1体はそう強くない。こんなことが出来るのも、神になったおかげだ。神になった影響は、体にも出ている。それがこれ、身体能力の向上だ。付喪神を使わなくても、十分に渡り合える。
「フンッ!」
ブレイクダンスの要領で、一気に蹴散らす。数も半分に減ってきた。
「こりゃあ、楽に終わりそうだな。んお!?」
「グギギギギ!!」
怒り狂った油取りが、1体の巨大な油取りに合体していく。
こいつの厄介なところは、合体すると何倍にも強くなるところだ。
「遊びはここまでってか?」
「お兄さん、頑張れ!」
「あ、バカ!何出てきてんだ!」
いつのまにか家族で外に出てきていた。何考えてんだ!
声につられて油取りが、そっちに向かう。
「うわぁっ!」
「クソがっ!」
後ろから、延髄と思われる部分に蹴りをいれる。しかし、体が柔らかいゴムみたいになって、ダメージを吸収してしまった。そのまま司の足をつかみ、地面に叩きつけた。
「グハッ!いってぇ…。」
「ごめんなさい…。僕のせいで…。ヒッ。」
慌てて駆け寄るケイタ。
思わず息を呑んでしまった。目の前に般若がいたからだ。
「あーもー、ブチギレたわ。ちょっくら本気出しますか。」
司は、懐からガントレットを取りだし、腕に装着した。
カードリーダーに調伏師専用カードを装填すると、電子音と共に
起動した。
『付喪神を選んでください』
司は無言でタッチパネルを操作する。
『シオリ』
「召喚。」
司の横に、魔法陣が出現し、光の粒子が集まって1人の女の子を造り上げた。
「やっと呼んでくれたんですか?」
紫織は膨れっ面だ。
「わりい。頼めるか?」
「分かりましたよー。」
ふてくされながらも、紫織は本に姿を変える。
「フッ!」
司は、力を込めると同時に光に包まれ、体の大きな、髪は銀色の青年へと成長した。
「お、お兄さん?なの?」
「俺は神だからな。これくらい余裕だ。」
「へえっ!?」
「さあて、滅ぼすか。」
呆気に取られる一同を尻目に、司は本をめくる。
「圧!」
途端に油取りが膝から崩れ落ちた。まるで、自らの重みに耐えきれなくなったかのように。
「こんな魔法も弾き返せねえのか。つまんねぇ。いいや、消えろ。」
とびっきり冷酷な死刑宣告だった。
「滅!」
次の瞬間、油取りは跡形もなく破裂した。あっけなく、風船を割るかのように。
「依頼完了…。ってことで、いいか?」
みんなうなずくしかなかった。
翌日_
「もう行っちゃうの?」
「コラッ!神様に対して、そんな言葉…」
「いいよ。ってか、昨日まで俺の事信じてなかったくせにー。」
「す、すいませんでした…。あんなすごい人だとは、いや、神様だとは…。」
「まあ許してやるよ。ちなみに、当たり前だが俺のほうが年上だ。そこんとこよろしく。」
両親共にペコペコしまくり。ちょっと優越感に浸る司だった。
「おかしいとは思ったんです。調伏師にしては、やけに若く見えましたからな。」
「あんたもよく知ってたな?調伏師のこと。」
「昔から、この土地ではお世話になっとったようですからな。ワシも、何度か話には聞いとりましたし、その縁で、お電話させていただきました。」
「ねえねえ…。」
ケイタが、寂しそうな顔で司の袖を引っ張る。
「どした?」
「また会える?」
「さあな。人間の一生は短い。チャンスは少ないだろうな。」
あからさまにショボンとするケイタ。司は、髪の毛をワシワシして、
「依頼があったら、いつでも電話してこい。何なら指名でもしてくれ。すぐに来てやるよ。」
ケイタの顔がパアッと明るくなる。
「じゃあな!ケイタ!また会おーぜ!」
司は、空に向かって飛んでいった。
「バイバーイ!」
また会えるよね!ケイタは、そう思いながら、いつまでも手を振るのだった。
これが守られるかどうか…まだ考えてません。皆さんはどう思います?見たいですか、この家族のアフターストーリー?




