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66.軍のトップ

66話目です。

よろしくお願いします。

「ヴォーリア連邦の軍をまとめるハイアッゴだ」

「カタリオです。一応は軍でも偉い方です」

 中途半端なカタリオの説明に、ハイアッゴは口をへの字に曲げた。

 握手を終えたカタリオは、そんなハイアッゴに肩を竦めて見せた。


「貴国や他の、軍人が沢山いる国と違って、うちは割かし緩いんですよ。だから、僕みたいな平和主義者がこんな所まで来なくちゃいけない」

「平和主義者? 貴殿も軍人だろう」

 ヴォーリア連邦の軍人は生真面目な物が多く、ハイアッゴはカタリオのようなタイプは初めてだった。

 カタリオと共に飛行機体を降りた兵士も、彼の言葉に苦笑を洩らしているのが見える。


「くだらない戦争に巻き込まれるまでは平和だったんですよ、アナトニエの軍は。田舎の任地で昼寝三昧だったのに、中央の馬鹿共が余計な事に首を突っ込んで死んだせいで呼び出された。たまったものじゃありませんよ」

 ただ、とため息交じりに首を振る。

「誰かが国を守っている間、昼寝をさせてもらったんでね。しばらくは代わりにやるのも義理を果たす意味でも、給料を貰うためにもやらなくちゃいけない」


「では、仕方なく軍人をやっているというわけか?」

「売上やお客さんの顔を窺ったり、収穫を心配しながら毎日畑仕事に精を出すのは向いていませんのでね。時々懸命に仕事して、あとは適当に訓練をこなしていれば良い軍人の方が、些か気楽ってやつです」

 理解できん、とハイアッゴは話を打ち切った。今は互いに敵地にいるのだ。


「コープスのスームを通じて、アナトニエ王国の狙いは聞いた。貴国に協力するつもりで来た。これが」

 ハイアッゴが提示したのは、カタリオが持っているのと同様のケヴトロ帝国内の地図だ。そこにはいくつかの印があり、ヴォーリア連邦側の印に複数のチェックマークが入っている。

「我々が叩き潰した基地だ。国境も、軍事基地も、戦力が激減して今まで手古摺っていたのが嘘のように弱かった」


「これは素晴らしい」

 チェックが入った軍事基地は潰してきたという意味だろう、と納得したカタリオは、懐から炭で作った筆記具を取り出すと、その図面のいくつかの印にチェックマークを追加した。

「ノーティア側に三つの基地施設が残るだけですね。これは、完全にケヴトロ帝国は“詰み”だ。ここからじゃ、とても挽回の手は無い」


 カタリオが書き込んだチェックマークの数は、ヴォーリアのそれを倍する数だ。ハイアッゴはその数が示すアナトニエ軍の能力に舌を巻いたが、かろうじて表情には出さずに済んだ。

「貴殿が言うとおりだ。首都には多少の警備部隊がいて、皇帝を護る親衛隊なんぞもいるだろうが、首都だけ、皇帝だけを護ったところでどうしようもない」


 座ってゆっくり話そう、とハイアッゴが示した先には、彼の部下たちが組立てたテーブルとチェアが用意され、暖かなお茶が湯気を立てていた。

「これはありがたい。たまにはゆっくりお茶でも飲みながら休憩したいと思っていたんですよ」

 快く受け入れ、向かい合って座った二人の間には、独特の緊張感があった。


「貴殿の言うとおり、ケヴトロ帝国は終わりだ。戦力というわかりやすい物で民衆と周囲の国家を相手に戦ってきたが、それを失いつつある」

 戦場には似つかわしくないティーカップを傾け、ハイアッゴは先ほどの地図をテーブルに置いた。

「そこでだ。協力して首都を陥落せしめるというのはどうだろう? アナトニエ王国を出し抜いてやるつもりは無い、という意思を示すためにそうしたいのだが」


「お断りします」

 にっこりと笑い、カタリオは即座に拒否した。

「なぜだ? これで決定的な戦果を挙げれば貴殿の地位は盤石のものとなる」

「いりませんよ、そんなもの。僕はこの戦いが終わったらなるべく楽な田舎に引っこみたいんです。今の地位だって忙しくて目が回りそうなのに」


 茶を飲み、「良いお茶だ。僕の給料じゃ高くて買えない」とカタリオは呟いた。

「僕が受けた命令は首都を攻め落とすことじゃない。王族の誰かが、ケヴトロ帝国を降伏させるための“お膳立て”をするのが仕事です。邪魔をする勢力があれば、排除する。それ以上は、給料に入ってない」

「国のために戦うのだ。給料は関係ない。それ以上の名誉がある」


「あー……僕には不要です。静かに眠ることができなくなりそうだ」

 カタリオの答えに、ハイアッゴは一瞬だけ目を見開いたが、すぐに大笑いを始めた。

「あーっはっは! 貴殿はスームとはまた違った“変な奴”だ。……いや、失礼。どうやら目の前の餌に簡単に釣られない、素晴らしい軍人と出会えたようだ」

「ずいぶんな好評価ですね。ありがたい話です」


 話は変わるが、とハイアッゴは地図の一部を指差した。

 それはケヴトロ帝国領の中でも、ノーティア王国と接しているエリアだ。

「ここの状況をご存じであれば、教えてほしい」

 ハイアッゴは自分がノーティア王国の暴走を懸念していると正直に話した。


「わかいりません」

 カップを置いて、カタリオはにやりと笑う。

「今はまだ」


 その直後だった。

 一気のフライング・アーモンドがカタリオを追いかけてきたかのように到着し、一人の兵士が駆け寄る。

 一瞬だけハイアッゴの部下たちに緊張がはしったが、すぐに落ち着いた。

「君ね。会談の場でバタバタ走るんじゃないよ」

「えっ? あ、はい。すみません」


 緊張の面持ちで近づいてきていた兵士は、カタリオからまるで教師のように注意を受けて、混乱しつつ誤った。

「落ち着いて。正確に報告を」

 伝令は他国の兵士たちの前であるということでためらったが、カタリオに促されて姿勢を正した。


「ケヴトロ帝国内、ノーティア王国側にある軍事基地で戦闘が発生しているのを確認しました!」

 カタリオとハイアッゴは顔を見合わせた。

「つまり……」

「ノーティアは、後から来て一番のご馳走を奪っていくつもりなわけですね」


 カタリオは立ち上がった。

「どうするつもりだ?」

「言ったでしょう?」

 肩をすくめて、ちらりと見やったカップに残ったお茶を見てしばらく迷ったカタリオは、結局カップをつかんで飲みこんだ。

まだ充分に熱いお茶に「あちち」と舌を出してから、恥ずかしそうに言う。

「邪魔する勢力があれば排除する、と」


☆★☆


「ちょっとヤバいかも……」

 接近戦に自信があるリューズだったが、不慣れな上に本来ホッパー&ビーは近接戦用には作られていない。

 細いフレームは装甲も薄く、機動性はあっても防御力は低い。

 両手のランスは突き刺すことも可能だが、基本は射出武器として制作された物で、度重なる攻撃を受け止めた結果、ランスそのものよりもアームの方が悲鳴を上げている。


 もちろん、相手になった騎士が強いという事もある。

 アナトニエ王国で一般的に使用されている、ローカライズされたノーディア機ではあるが、細かな調整を行っているのだろう。その動きは、以前にリューズが見たアナトニエの人型魔動機とは一線を画す。


「んん、この!」

 機体への負担を少しでも軽減するため、なるべく受け止めずに避ける事を狙うが、大きな剣を横に振り回されると、中々そうはいかない。

 現に今も、横なぎの攻撃を下がっただけでは躱しきれず、ランスを使って何とか受け流していた。


 他にも悪い要素がある。

「もうっ! ちょろちょろと……!」

 敵は目の前の騎士では無い。攻撃こそ真正面で戦う騎士に遠慮して散発的だが、取り逃がすまいと周囲を囲んでいる魔動機群が、ホッパー&ビーの持ち味である行動力を削いでいた。


「飛び回るのは苦手なのよ」

 取り押さえようとしたのか、すぐ横に飛び出してきた魔動機に思い切りランスを叩きこむ。

「あっ……もう!」:

 深々とコクピットを貫いたランスが抜けない。

 片腕で魔動機を振り回すようなパワーは無いので、急いでランス部分を切り離して後ろへ飛んだ。


「きゃっ!?」

 隙を見て踏み込んできた騎士の攻撃で、六脚の一つに打撃を受けてバランスが崩れる。

「このっ!」

 多脚ならではの動きでバランスを取り戻しながら円を描いて開始を試みるが、動きは決して滑らかとは言えない。


 さらに距離を取ろうとしたリューズだったが、金属がぶつかる大きな音がして、大きく視界が揺れた。

「何が……」

 ぐるりと見回して、自分が背の低いグランドランナーの機体につまずいた事を知って歯噛みしたが、悪態を吐いている時間すら惜しい。


 よろめいた機体に向かって、敵機が迫っているのだ。

 取り外した右手を後ろに回してランスを補充しながら、左手のランスを発射する。

 バシュンと弾けるような音を立てて飛んだランスは、確かに敵機に命中したが片腕を弾き飛ばしたに過ぎない。

 剣を持った腕は残り、鬼気迫る勢いで殺到した騎士の機体は、ダメージを無視して斬り込んできた。


「ああっ!」

 戦闘経験に裏打ちされた勘が、リューズに攻撃が当たる、と確信させた。

 コクピットに受ければ一撃で機体ごと身体が潰される。恐ろしい想像が全身を駆け抜けたリューズは、迫る大剣から目を離せないままに叫んだ。

「スーム……!」

『任せろ!』


 幻聴かとも思った通信機からの声は、確かに彼女の想い人だった。

 声に落ち着きを取り戻したリューズの目の前。巨大な魔動機が空から落ちて来て、騎士の機体を無惨に踏みつぶした。

 金属の擦れあう甲高い音と、機体を叩きつけられた石畳が上げる腹に響く様な悲鳴の中、リューズは再び声を上げる。


「スーム!」

『慣れない機体で良く持ちこたえたな。お前のおかげで城内は制圧できた。みんな無事だ』

「うん、うん……!」

 先ほどの怖さを改めて感じていたリューズは、同時に、すでに勝利の高揚感に包まれているのを感じた。

 まだ周囲に敵はいる。だが、それが何の問題になるだろうか。


『リューズ。退路は俺が切り開くから、ついてこい』

「了解!」

 人型形態に変形しているノーマッドは、両腕にチャクラムを装備し、敵機を撫でるように斬り裂きながら進む。

 大きな機体の背中を追いかけているリューズは、戦場とは思えない程の安心感に包まれていた。


「落ち着いたら腹がたってきたわ」

 ノーマッドと背中合わせになる様に後ろ歩きしながら、装填し直した両手のランスをすぐ近くで生き残っていたグランドランナーへと向ける。

 攻撃対象になった事に気付いたのか、慌てて方向転換する二つの機体に、リューズはためらうことなくランスを撃ちこむ。


 左右二本とも、狙い違わず機体の中央に突き刺さる。

「おお、当たった!」

『この距離で外す方が難しいだろうよ』

 嘲笑混じりの通信は、ボルトの声だ。


 ムッと口を尖らせるリューズだが、ガチャガチャとランスを再装填する操作に忙殺されて声を出せない。

『離脱直後に爆撃するぞ』

『ああ、脱出は大丈夫か?』

『ナットがしっかり回収した。今頃は王様と合流してるんだろうよ』


『わかった。それじゃ、派手にやってくれ』

 通信で交わされるスームとボルトの会話を聞いていたリューズが口を挟む。

「あんまりお城に傷入れたら怒られるんじゃないの?」

『お前と一緒にするなよ、リューズ。俺の攻撃は狙いを外さない』


『離脱完了!』

 城下の広場を抜け出したノーマッドとホッパー&ビーへ追いすがろうとしたアナトニエ王国の造反軍は、石畳の広場を畑に変える程の爆撃を受けて一気に崩壊した。

 城の建物にはほとんど攻撃は届かず、ただ魔動機だけをしっかりと破壊していく腕前は、スームをして「流石だ」と言わせる精密さだ。


『終わったぜ』

『ああ、作戦終了だ。帰投する』

 上空を高速で通り抜けたボルトのミョルニルからの通信に、スームは大きく息を吐いてから答えた。

お読みいただきましてありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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