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57.前線の彼女

57話目です。

よろしくお願いします。

 造反に加担した兵士達の士気は最低に近い。

 直属の上司である騎士たちの指示にただ従っている連中が大半であり、何のために味方であるコープスを攻撃するのかすら、大半の者が聞かされていない。

 それでも疑問を口にするより前に身体が動いているあたりは、良く訓練されていると皮肉な分析が成立する。


 それでも、前線に出た者たちや、留守部隊の中でも上位の者たちは造反に参加する事無く、それぞれの判断で状況を見て規定通りの動きを始めている。

 規定としては、王城で問題が発生したと見られる場合、郊外で一度集合する事になっていたため、セマ造反に加担しない者たちの軍勢が、造反者のさらに外側で集合する状況になっている。


 そこへ、造反組の妨害を突破したイーヴィルキャリアが飛び出して来た恰好だ。

「まだ敵の増援が?」

『いや、そいつらは別口だ。国境方面へ一緒に退け。途中の町で編成をしなおせば、王都奪還も難しくないだろう』

「スームさん!」


 さすがに戦闘機型であるミョルニルには遅れたものの、ノーマッドの速度も速い。少し遅れて到着したスームは、集合していた王都防衛部隊に驚いたコリエスを宥めた。

『行け! ここは俺とボルト、あと遅れてくるナットで押える。セマ、聞こえるか?』

「ええ、聞こえます」

『これから、王都にある魔動機はかなり損耗する事になる。悪く思うなよ』


 スームに答えようとしたセマを、王が止めた。

「コープスのスーム殿。余はアナトニエ国王、ヴァシリウスだ」

『上手く脱出できたようで、なにより』

「余を庇って、テンプ殿が負傷された。その件についてもそうだが、王都の反乱対応を任せてしまう形になる事、誠に残念に思う。……だが、同時に心強く思っておる」


 王は力強く言葉を続けた。

「スーム殿。余から正式な依頼をさせてもらおう。全て責任は余が取るゆえ、王都の不埒ものどもを、完膚なきまでに叩き潰してもらいたい!」

『へえ……承知した。依頼料については、陛下を信頼して、その査定に任せよう。では、失礼する』


 通信が切れたあと、コリエスはイーヴィルキャリアの速度を落として目の前にいる集団へと近付いていく。両方のアームを上に向けて、攻撃の意思がない事を示し、尚且つコクピットの前方を開いて、こちらに王がいる事をアピールするためだ。

 一台の二輪型魔動機エアスライダーが接近してきて、コクピットにいる人物を見て驚きの表情を見せた。


「わたくしは傭兵団コープス所属のコリエスと申します。ヴァシリウス陛下とセマ殿下を保護していますわ。合流して移動をしたいのですけれど、いかがかしら?」

「しょ、承知しました! 先導いたしますので、こちらへどうぞ!」

「よろしくお願いしますわ」


 Uターンしたエアスライダーの後を追い、脱出した正規軍本隊と合流したコリエス達は、一旦近隣の町へと向かう事になった。

 そこは王の直轄領内でもあるので、他の貴族からの影響も少なく、軍事基地も有るので、部隊が集結するにも都合が良い。


「このまま逃げて終わり、じゃありませんわよね、セマ様?」

「当然です。お父様の為に怪我をされたテンプさん分は、仕返ししないと気が済みません。それに、これは我が王族で処理せねばならぬ事でもあります。コリエスさん、私自らが軍の指揮をとりますから、お手伝いをお願いします」

 従軍するというセマを止めようとしたが、コリエスは受け入れる事にした。


「わかりましたわ、その代わり、わたくしと一緒にイーヴィルキャリアに乗っていてくださいませ。きっと、それが一番安全ですわ」

 指揮官機として、ワンオフ機体で目立つイーヴィルキャリアは都合が良い。少し狭くなるが、指揮の為の発光装置も乗せられる。


「スームさん達だけに暴れさせるわけにはいきませんわ!」

 コリエスは、テンプが負傷した報復とは別に、自らと愛機イーヴィルキャリアに活躍の場が出来た事に対する意気込みも強かった。

 町へ着いてからテンプと王、そして数名の護衛のみを医療施設へと収容すると、部隊編成に関して、セマよりも鼻息荒く率先して動いた。


☆★☆


 鼻息荒く、活躍に向けて邁進しているのは、コリエスだけでは無い。

「ぬぅりゃあ!」

 と、女子としてはいかがかと思われる掛け声と共に機体を進ませたのは、ケヴトロ帝国との国境で、コープスとして一人残されたリューズだ。


「ったく、か弱い女の子を囮にするなんて、アイツぜったい性格悪いわね」

 ぼやきながらも、ストラトーから貸与された数機の人型魔動機部隊を引き連れ、リューズはトレーラーで構築されたバリケードから出て、グランドランナーを盾にして進んで行く。


 現在の戦況は、アナトニエ王国軍が前回同様トレーラーとグランドランナーを使って構築した防御ラインに対し、傭兵団ソーマートースとケヴトロ帝国正規軍の混成部隊が、味方の残骸を使ったバリケードを作って対抗している状況だ。

 ソーマートースは魔動機を使って発射する強力な魔力砲を使って時折アナトニエに被害を出しているが、連射は不可能らしく、決定的な打撃まではいかない。


 カタリオは、スームが用意した武装を使うにあたって、その魔力砲だけは沈黙させたい、とリューズに語った。

「武装としては地面に埋めて使っても良いタイプなんですけれど、ケヴトロ帝国もソーマートースも、戦場に慣れている。そうそう釣り出せるとも思えません」

 別の策として、“上から落とす”方式を取りたい、とカタリオは説明した。


「要するに、対空砲撃が出来そうな兵器をある程度潰せば、って話よね」

 単純にそう解釈していたリューズだが、間違ってはいない。他にもカタリオは色々と説明をしたのだが、彼女は自分が動く範囲の外の事は、あまり考えない事にしていた。

 余計な雑念が入ると、自分のいる戦場で迷う羽目になる。


 リューズが率いる突撃部隊は、敵からの砲撃に耐えながらゆっくりと前進し、人型魔動機で構築されたバリケードへとりつく事に成功した。

「うげっ……」

 撃破された人型魔動機を無造作に積み上げただけの壁は、ところどころにパイロットと思しき腕や足が出ているのが見える。

 当然、それらはぴくりとも動かないし、明らかに千切れてしまっているものもあった。


「精神的に、さっさと終わらせたいところね」

 バリケードの切れ目まで進むと、排除に出てきたケヴトロの機体に対して、一発の拳を放つ。

 ナックルガードで護られたハードパンチャーの拳は、容赦なく敵のコクピットを叩き潰して沈黙させた。


「突入するよ!」

 後ろから着いてくるストラトーの機体に、ハードパンチャーの腕を振って合図をする。

 直後、カツン、と機体に音が響いた。後ろにいる機体が、返事代わりにハードパンチャーのボディを軽く叩いたようだ。


 最初にハードパンチャーが敵陣に飛び込む。

 スームが作ったこの機体は、多少の砲撃ではびくともしない。それに加えて、リューズの人並み外れた反射は、機体のレスポンス性能を最大限引出し、まるで人間そのものの動きで攻撃を躱していく。


 まずは掃除を行う、と大きく息を吐いたリューズは、ハードパンチャーをかけさせ、侵入口の近くにいた機体を片端から殴りつけて沈黙させていく。

 機体の特徴でもある長い脚が、人型魔動機の膝を踏みつけて行動不能にしたかと思うと、アウトリガーを展開して機体下半身を固定、腰をぐるりと回して、その隣にいた機体のコクピットをぶん殴る。


 混戦が敵からの砲撃に躊躇いを生み、逆にリューズは伸び伸びと動けるようになった。

 基本的な強度の違いもあるが、ハードパンチャーのナックルは的確に敵魔動機の薄い部分を捉えていく。

 ケヴトロ帝国機もそうだが、ソーマートースが使う非正規の改造が施された機体に対しても、しっかりと弱点を叩いていた。


 その間にも、リューズは周囲をしっかりと見回している。

 探しているのは、見覚えの無い魔力砲だ。

「……見つけた! 四つ!」

 過去の戦闘で見たことが無い、スームが設計した新型砲を細身にしたような物を背負った人型魔動機が四機、リューズの視界に入った。


「邪魔!」

 目の前の機体を殴り倒し、腰に装備した複数の筒を掴み取ると、ハードパンチャーは腰のひねりを活かした見事なサイドスローを披露し、投擲する。

 ガツン、と音を立てて目を付けた機体に次々と筒が当たり、赤い煙が吹きあがった。


「やっちゃえ!」

 発煙筒は、攻撃対象を定めるための目印だ。

 リューズが片付けた突破口に入り込んできたグランドランナーは、その煙に巻かれている機体を狙って、次々と射撃していく。

 ストラトーの機体は、グランドランナーを守る随伴兵代わりだ。


 その間にも、リューズはハードパンチャーを駆って、敵魔動機を叩き潰している。

「良し!」

 見つけた魔力砲装備の魔動機が、全てグランドランナーの砲撃で沈黙した事を確認したリューズは、右の拳を握りしめて叫んだ。


「後は……あっ!」

 雑兵に等しい機体群をかき分けて突進してきた一つの機体が、他とは一線を画す機動性を見せて跳躍し、グランドランナーの上に着陸し、そのまま叩き潰した。

 護衛に立っていたストラトーの機体も、反撃しようとしたところを大きな鉈状の武器で薙ぎ払われる。


 潰れたグランドランナーの上に立ち上がった機体は、ケヴトロ帝国の人型魔動機をベースにしたことはわかるが、かなりの改造を施され、一回りは大きく見えた。

 全体を黒塗りにされた機体は、背面に大きな箱を背負っている。それはリューズにはわからなかったが、技術者が見れば魔力タンクだとわかっただろう。

「こいつ……見覚えがあるわね!」


 被害が広がらないうちにハードパンチャーを走らせ、真正面に対峙したリューズは、相手を観察しているうちに思い出した。

「ソーマートースの団長……」

 世界最大の傭兵団、滅多に前線で戦う事が無い団長の機体だ。見覚えがあるのは、戦場では無く、以前の共同作戦の時に少しだけ見たからだった。


「ここで倒しておかなくちゃ……」

 リューズは、いくらスームの機体に乗っていると言っても、相手を侮る事は無かった。

 最大手の傭兵団団長という肩書は、営業力や経営力で培った物では無い。間違いなく、戦場で築いた戦果によるものなのだ。

 ここで放っておけば、今後の作戦展開にも支障が出るうえ、多くの味方に被害が出るのは間違いない。


 ハードパンチャーに新しいナックルガードを装備ししながら、リューズは気合を入れる。

「ここで倒す!」

 正面で大鉈を構える黒い機体を睨みつけた。

 ここが正念場、とリューズがそっと踏み込んだペダルに反応し、ハードパンチャーは敵へと向かって突き進む。

お読みいただきましてありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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