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58.国境の決着

58話目です。

よろしくお願いします。

 ソーマートース団長ボティアの専用機は、リューズのハードパンチャー同様、大型の遠距離攻撃兵装は標準では持っていない。

 突撃して突破口を開くため、あり物の射撃兵装による射撃をしてその場に放棄、後は鉈状の武器で近接戦を仕掛けるのが基本コンセプトになっている。

 また、大型の魔力タンクを有し、長時間の作戦にも耐えられる。悪環境での長期にわたる拠点防衛や、敵陣内での長い行動にも耐えられる。


「確か、似たような機体だと聞いた事あるけど……」

 ケヴトロ帝国軍機をベースに、装甲を厚くした黒塗りのボティア機は、ずんぐりとした体形で、スリムなシルエットを持つハードパンチャーとは見た目は正反対だ。

「同じにして欲しくないなぁ」


 ぼやきながらも、リューズの腕は目まぐるしく動く。

 視界いっぱいに迫ったボティア機を、思い切り殴りつけたリューズだったが、ナックルガードは敵に直撃しなかった。

「ちぇっ、やるわね!」


 大鉈を盾にして、アームの前腕部分で止められた。

 反撃に振り抜かれた鉈を、逆にアームで無理やりガードして距離を取る。

 通常の人型魔動機ならばあっさりと斬り飛ばされていたかもしれないが、スームが特に頑丈に作ったアームの装甲は、凹みはしたものの斬撃に耐えきった。


「ああ、もう! ブンブンブンブン鬱陶しいったら!」

 振り回される鉈の前で、リューズは攻め込む機会を完全に逸していた。

 周囲ではストラトーの機体とグランドランナーが共同で的勢力を押してはいるが、決定的な成果は上がっていない。

 むしろ擱座する機体が出初めており、このままでは撤退を余儀なくされる。


「仕方ないわね! このまま作戦を強行するわよ!」

 通信を拾う相手もいないので、口に出すのは無駄なのだが、完全に癖になっている。

 同時に、紐で無理やり固定したコンソールを使って、背負った発光装置で上空のフライングアーモンドへと通信を送った。


 光は、正面にいるボティア機からは見えない筈だが、後方にいる味方には見えたはずだ。

 念のため、同じ指示を三度繰り返したあと、リューズはコンソールを脇に押しやった。上手く伝わっていれば、もうこれは使わない。

「カタリオ。ちゃんとやってよね!」

 三つ、ハードパンチャーの腰部には発煙筒が残っている。


 それを纏めて掴み取り、リューズは敵陣に向けて放り投げた。

 バラバラな飛距離で飛んだ発煙筒は、敵の軍勢を三分割するような位置に落ち、もうもうと煙を上げる。

 ボティアはそれを黙って見ていたわけでは無い。猛然と振り降ろされた大鉈は、発煙筒を投げたハードパンチャーの右腕、肘部分のジョイントを完全に叩き壊した。


 だが、リューズは発煙筒全てを投げた時点で、一人“してやったり”と笑っていた。

「スームが作った新兵器を見て驚きなさい!」

 詳しい内容は知らないが、リューズにとっては彼が作った兵器というだけで、信頼を寄せるには充分すぎた。


☆★☆


 膠着状態に陥った情報を受けて、最前線を後方から見ていたカタリオは作戦の中断を考えていた。

「ソーマートースのボスが、早々に顔を出すとは思いませんでしたよ……」

 予定通りであれば、先遣隊が対空兵器を破壊し、彼女たちが退くと同時に新兵器を使って敵の分断を狙う事になっていた。


 左右と中央、三つに分断すれば、縦に並んだ部隊を砲撃で真正面から削れると踏んでいたのだが、このまま作戦を開始すれば、リューズたちが巻き込まれかねない。

「これでリューズさんが怪我でもしたら、きっと僕はコープスの人たちに殺されてしまうね」

 部下に冗談を投げながら、頭の中で別の方法を考えていると、一人の伝令が駆けてきた。


「報告します! ハードパンチャーからの信号による連絡です。“印はつけた、横に切れ”と監視中のフライングアーモンドがキャッチしました」

 さらには、ハードパンチャーを残して、他の突撃部隊はじりじり後退しているという。

「横……なるほど。足止めに使いますか。以前の対ケヴトロ戦でスームさんが団長さんを巻き込んだアレですか」


 カタリオは新兵器の準備をするように指示を出すと、グランドランナーの操縦手に前進するように告げた。

「バリケードの向こうが見える位置まで進めて」

「危険では?」

「だろうね」


 高級官僚が前線に出る事そのものは珍しくないが、武人としての性質が強い指揮官に限る。とてもじゃないがカタリオは正反対のタイプだ。

 訝しむ部下たちに、カタリオは「信用無いなぁ」と呟いた。

「予定外の事をやるんだから、良く見える所に行かないと駄目でしょ」

「フライングアーモンドに乗ると言う手が……」

「高い所怖いから嫌」


 カタリオが前線を見る事が出来る位置まで全身した時点で、新兵器は既に準備が出来ていた。

 新兵器は、簡単に言えば“紐でつないだ地雷”だ。

 ケヴトロ帝国を撃退するのにスームが使った埋設型の爆弾を、そのまま地上で運用できるように改造を施した物だ。


「確かに、三か所から赤い煙がでているね」

 機体の上から頭を出して状況を確認したカタリオは、すぐに頭を引っ込めた。

 紙に適当な図を付けた指示を書きつけていく。

「この状態であれを使うのですか?」


 疑問を呈したのは、乗っているグランドランナーに乗っている操縦手だ。

「今だから使えるんだよ」

「しかし、コープスの機体が巻き込まれるのでは……」

「大丈夫。と本人が言っているんだ。直撃するわけで無し。気にするべきはそこじゃない。新兵器が起爆したら、他のグランドランナーと息を合わせて正面の敵に一斉砲火。他の機体にも連絡して」


 カタリオの指示書は、部下の手を渡って新兵器を扱う部隊へと届いた。

 “ひも付き地雷”と仮称されるその兵器を扱う部隊は、フライングアーモンドを操る魔動機乗りの部隊だ。

 実に乱暴な運用がされるもので、上空から投下して、端を持っている機体が起爆する。

 部隊には緊張が走ったが、今回の戦場で主役を張るのだという気合も入っていた。


 対空兵器はすでに沈黙しているが、人型魔動機が持つ砲は健在である。多少は地上のグランドランナーが砲撃して援護をしてくれるが、運が悪ければ直撃弾を装甲の弱い部分に受けて墜落する可能性はあった。

「この戦場、俺たちの手で動かす!」

「応!」


 新兵器の部隊が飛び立ったのを確認して、カタリオはやや下がる様に操縦手へ指示を出す。

 他のグランドランナーが突撃の準備をしているのを、邪魔しない位置まで移動せねばならない。

「大活躍……ですけれど、ちゃんと戻ってきてくださいよ。あの人と喧嘩なんてしたくないですからね」


☆★☆


「来た!」

 動かなくなった右腕をものともせず、リューズはボティアを相手にしっかりと時間稼ぎをしていた。

 その頭上を、紐でつながれた兵装をぶら下げたフライングアーモンドが飛んで行く。


 ボティアもそちらが気になっているようだが、腕だけでなく、脚部までも使って攻撃してくるハードパンチャーを相手に、観察や指示をする余裕は無いようだ。

「よそ見している暇はないわよ!」

 前蹴りが決まると、ボティア機はたたらを踏んで後方へと下がった。


 瞬間、最初の爆発音が響く。

 大地が揺れる衝撃で、ボティア機は転倒し、リューズのハードパンチャーはアウトリガーを展開する事で、かろうじて耐えた。

「凄い衝撃……!」

 一拍遅れて、熱風がハードパンチャーの機体を叩いた。さらに二度、少しずつ離れてはいるが、充分な爆発音と衝撃が届いた。


「……あの時の爆発反応装甲よりマシね」

 それはそれで嫌だけれど、と少しだけ温度が上昇したコクピット内で、シャツの胸を掴んでバサバサと空気を入れた。

 ボティアも無事なようで、機体は立ち上がって大鉈を掴んで前に突きだすように構えているのが見える。


 リューズの狙い通りに行っていれば、この爆発で敵集団は前・中・後と三部隊に別れたはずだ。

 爆心地は大きくえぐれ、トレーラーは元より、人型魔動機でも越えるのは困難なはずだ。飛行機能があるフライングアーモンドによる監視と、グランドランナーによる遠距離射撃で一方的な打撃を加えるお膳立てが九割方完成した事になる。


 あとは、最初の爆心地よりも手前にいる敵部隊を潰すだけ。

 中でも、ボティア機が止められれば、この戦場でのアナトニエの勝利はほぼ決まる。

「悪いけど」

 動かない右のマニピュレータに苛立ちながら、リューズは左側のレバーを掴む。

「ここで傭兵家業は終わりにしてもらうわ」


 声が聞こえたわけでは無いはずだが、その直後にボティア機は猛然と鉈を振るった。

「この!」

 縦に頭上から落ちてくる攻撃を前に、リューズは左のナックルガードを叩きつけた。ガードは潰れたが、その瞬間に爆発する。

 衝撃で鉈は中ほどから曲がり、ボティア機の手を離れてくるくると飛んで行った。


 代わりに、ハードパンチャーは左の拳が完全に潰れた。

 攻撃手段はボティア機には残っている。腰の後ろに装着されていたハンドガンタイプの武装を取り出して、至近距離からハードパンチャーのコクピットへ向けてきた。

 遠距離なら当たっても左程問題は無いが、小型でも至近距離から砲弾が叩きこまれれば、無事では済まない。


「おおおおおお!」

 それでも、リューズはペダルを思い切り踏み込んで前に出た。

 肘から先が動かずとも、拳が壊れていても、アームは動く。ぶらぶらと揺れる右のアームを、左で支えて前に突きだす。

 撃ちこまれるハンドガンの砲弾が右のナックルガードに当たり、先ほどと同じように爆発した。


 広がる爆炎。煙へと変わりながら戦場の土を巻き上げて視界を塞いだそれは、ボティア機から見たら大きな塊に見えた。勝利を確信するに十分な程の爆発。

 だが、スームが丁寧に作り上げた機体の一つであるハードパンチャーが、簡単に倒れるはずがない。


 ボッ、と空気の層を突き破るような音を立てて飛び出したハードパンチャーの機体は、傷はあっても両手以外はまともに稼働している。

「そんなので、このハードパンチャーが倒れるわけないじゃない!」

 笑い声にも等しい叫び声を上げながら、機体を前に進めるリューズ。


 ボティア機は慌てて次の射撃を行うためにハンドガンを構えたが、遅かった。

 火花を上げて上半身を回転させたハードパンチャーは、まだ繋がっている腕で肘打ちを決めた。

 頭部を完全に潰されて、横倒しになろうとするボティア機に、リューズはとどめを刺す。


「この距離なら、外さない」

 ハードパンチャーの頭部から撃ち出された十発の砲弾は、残らずボティア機のボディを叩き、グシャグシャに破壊した。

 コクピットと思しき部分も完全に潰れ、ボティア機は沈黙した。


「これ……キッツイ……」

 機体の構造上、ハードパンチャーは頭部からの視界をコクピットまで光学的に引っ張っているのだが、その視界を確保している部分の両サイドからの射撃は火薬を使わない射出方式であっても、パイロットの視界をチラつかせるには充分だった。

「良く考えたら別に頭部から撃つ必要ないじゃない。何が浪漫よ。マニピュレータで撃っても当たらないからって、あいつ……」


 両目を押えて呻くリューズの両脇を抜けるように、グランドランナーやストラトー機が前進していく。

 敵の首魁が倒れ、戦いの勢いは完全にアナトニエ側にあった。

「仕事はしたわよ。後は任せた」


 完全に壊れてしまったハードパンチャーの両腕を見て、リューズは大きく息を吐いてシートにもたれかかった。

お読みいただきましてありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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