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46.連邦への使者

46話目です。

よろしくお願いします。

 城での打ち合わせに、女性傭兵団ストラトーの団長であるミテーラも参加していた。会議室に入ったスームを見て、彼女は肩を竦めて見せる。

「聞いたわよ。とんでもない事を考えてくれたわね」

「いい趣味だろ?」

 隣に座ったスームが、抱えてきた書類をどさりと置く。四~五百枚は軽くある紙束に、ミテーラは眉を顰めた。

「それ、なに?」

「戦争は準備が九割って事で、ちょっと作ってみた」

「……旧式破壊戦ドクトリン?」

 一部渡された書類。その表題を読んだミテーラは、疑問の視線を向けた。

「今回の戦いは、乱暴に言えば古くてショボい機体を徹底的に壊して、新しい戦闘用魔動機が主役となる時代を作る為、と俺は考えている。その為に、セマが言うようにアナトニエの機体が前面に出て活躍するのは悪くない流れだ」

 ペラペラと書類を捲って行くミテーラに、スームは自分も書類に目を落として語る。

「だから、狙うべき場所と優先度合、それに破壊方法について取りまとめた資料を作った」

「これ……大金が取れる内容じゃないかしら」

 書類に掲載されていたのは、ノーティア王国とケヴトロ帝国、そしてヴォーリア連邦の各軍事基地とそこに格納されている主だった魔動機の種類、そして弱点や警備状況までが記されている。

「古い情報も入っているからな。詳細は調べ直す必要はあるが、今の時点での資料としては充分だろう」

「充分すぎるわ。でも、こんなのをアナトニエ王国に渡して良いの?」

「お前に見せた。それが答えだ」

 ストラトーがアナトニエ王国に所属する組織になる話を知っている、とスームは答えた。

「なるほどね。充分な脅しだと思うわ」

 ミテーラがあえて「脅し」と言ったのは、それだけの情報を持っているコープスが、アナトニエの情報もかなり深くまで知っているだろう、とセマを始めとしたアナトニエ王国側に伝える意味もあるのだろう、と彼女は想像したからだ。

 とはいえ、敵対しなければ問題は無いし、セマは王と相談したうえで、他国からは完全にコープスがアナトニエについたと思わせるように動くつもりでいる。


「お待たせしました」

 数名の文官や武官を引き連れたセマが会議室に登場したところで、会議は始まった。


 当初はセマが基本的にスームの提案を概ね受け入れる事を正式に表明し、改めて修正案を提示したため、その調整に時間を費やした。

 クロックから全権を任されて参加しているスームは、セマの言う修正希望の内容について了承の意思を示した。正式な契約書を作成する段階でまた調整が必要ではあるが、ここでコープスとアナトニエ王国の協力体制が正式に確立される事になる。

 そして、その目的は他国に対する圧力だ。

「各国にアナトニエ王の名前で書簡を送ります」

 セマが作成した書面の案は、簡単に整理すると以下の通りだ。


・全ての戦闘行為の停止を求める。

・応じなければ、アナトニエ王国とコープスは協力して反対者の戦力を叩き潰すための行動を起こす。

・各国の相互理解を進め、交流を図る為に“魔動機による対戦競技会”を開催する。

・参加国には、友好の証として魔動機技術の供与も検討する。

・その為に、アナトニエ王国において、国際首脳会談を執り行いたいので、協力いただきたい。


「完璧に脅しているな」

「ケヴトロ帝国は反発するでしょう。悪いとは思いますが、かの国には見せしめの犠牲になってもらいます。ケヴトロが止まれば、多くの戦線は止まりますから」

 スームの感想に、セマは冷静に答えた。

「ノーティアはどう出るかしら?」

「戦力的に考えれば、我々に対して充分な抵抗をする力はありません。むしろ、ケヴトロ帝国が弱体化した事が公になった時点で、ケヴトロ帝国方面へと侵攻する可能性の方が高いです」

「その時、セマはどうするつもりなんだ?」

 直接アナトニエに関連しない戦闘行為に対して、今までのアナトニエ王族は沈黙を守っていた。それは、新型の魔動機軍の整備が出来てから同じだ。元来、好戦的な国では無い。

 だが、セマはもっと積極的な平和構築を目指してこそ、国を守る切欠が掴めると考えている。

「止めます。ノーティア王国に対して、我々の戦力を見せつける良い機会になりますし、ケヴトロ帝国に対して恩を売る事にもなります」

 問題は、とセマは表情を引き締めた。

「ヴォーリア連邦です。位置的な事もあって、政治的な指向や情報が、今一つはっきり掴めません。誰かを使者として送り、書簡を渡すのは当然としても、直接話をするべきなのですが……」

 自身は城を離れるわけにいかないというセマが、ヴォーリア連邦出身であるミテーラへと視線を向けた。

「嫌です」

 ミテーラはセマが何かを言う前に断った。

「わたしはあの連中の男尊女卑の塊みたいな性質の癖に、人気取りの為に外面だけはまともに振る舞う連中の集まりは嫌いなのです。だから、嫌です」

 ミテーラが言う“連中”というのは、ヴォーリア連邦政府の事だ。形だけは議会制ではあるが、実際はヴォーリア中央州の王であるヴォーリア王の独裁政治で、各州の代表は王の元で各種の議論を行い、王の承認を得るという政体になっている。

「わたしよりも、もっとうってつけの人材がいるじゃないですか。今回の提案内容を良く知っていて、尚且つ高速移動手段を持っている人物が」

「……おい、ミテーラ?」

 ミテーラが名前を言うまでも無く、視線はスームへと集まった。

「彼は厳密には我が国の政府人員ではありませんが……そうですね。距離の問題がまず解決されるのは非常に重要な事です」

 セマは自分の言葉に頷いている。

「文官を一人付けますから、使者としてヴォーリア連邦まで親書を届けて、説明をしてきていただけますか?」

「……仕方ないな。正式な依頼書を頼む」

 スームは肩を竦めて立ち上がった。

「じゃあ、あとは他国の反応待ちになるな。次に、俺からちょっとした資料を配布しようと思う」

 そう言って、セマを始めとした居合わせた者たちに、スームは先ほどミテーラへ見せたドクトリンを配布した。

「これは……」

 資料として記された内容にセマが絶句している。

 スームはウインクをして、笑いかけた。

「ヴォーリア行きのついでに、空から新しい情報を拾ってくるとするさ」


☆★☆


 町を出た訓練施設まで来ていたコリエスは、イーヴィルキャリアを起動して、カイトシールドの裏にずらりと並んだ武装と、バックパック内の武装を確認する。

 その間、正面に立っていたハードパンチャーも起動して立ち上がるのを見て、コリエスは大きく息を吐いた。

 だが、イーヴィルキャリアは立ち上がらない。膝をつき、エアスラスターで滑る為の姿勢を保ったまま、コリエスは相手の動きを注視している。

 先に動いたのは、リューズが乗るハードパンチャーの方だった。機械とは思えない程しなやかに動く足が地響きを立てる。

一気に距離を詰めようとするハードパンチャーに対し、コリエスは素早く後退を選んだ。

 速度ならイーヴィルキャリアは地上兵器としてはかなり速い。あっという間に元通りの距離まで離れ、まずはカイトシールドの裏からハンドガンを連射する。

「……うえっ! なんて腕なのかしら!」

 コリエスが驚嘆する。

 機体の胸あたりを狙った弾を、ハードパンチャーは前腕部分で完全に弾いた。まるで着弾地点が分かっているかのような動きだ。

 本来なら胸部装甲に頼っても良いのだが、リューズはわざとそうして見せた。これがコリエスに対する指導の意味もあるからだ。

 防御姿勢のままで、変わらず近づいてくる相手に対し、コリエスはやや迷いを見せた。近接戦闘で勝てる見込みはほとんど無い。

「また距離を取って……いいえ、別に方法がありますわ!」

 それはいつか見た光景。思わず目を閉じてしまったので、後で詳しく聞いて、リアルタイムで見る事ができなくて強い後悔を覚えた、スームのやり方。

「ハードパンチャーは重心位置が高いから、きっと通用しますわ!」

 ハンドガンを収納したイーヴィルキャリアは、姿勢を低くしてカイトシールドを突き出すような姿勢を取った。

 そして、近づいてくるハードパンチャーへ向かって、全速で滑り出した。


「え? ちょ、待って!」

 目の前で、カイトシールドを突き刺す勢いで迫ってくるイーヴィルキャリアを見て、リューズは背筋に冷たい物を感じた。

 実弾を使っていない演習だが、カイトシールドで突き刺されれば、無傷とは行かない。まして、コクピット部分に当たれば、最悪潰されて死んでしまう。

 スームがやったのはもっとシールドの先を下げて、掬い上げるようにしたのだが、コリエスは気付いていない。

「と、と、っとおっ!」

 変な掛け声を叫びながら、リューズは両手両足をフル稼働させて、走っている最中のハードパンチャーに側転させた。おそらく、この世界で人型魔動機をこれだけアクロバティックに動かしたのは、彼女が最初だろう。

 かろうじてシールドの直撃を避けたハードパンチャーは、着地に失敗して尻餅をついたが、機体にはダメージを負っていない。

「いてて……」

 振動を受けたリューズは、舌を噛んで涙目になりながら、急いで機体を立たせる。

 素早く確認すると、イーヴィルキャリアは大きく弧を描いて、再びこちらへ向かって突進を仕掛けてくる。

「あー、もう! 危ない事してるって気付いてないのね?」

 悪態を吐きながら、リューズはしっかりと迫りくるイーヴィルキャリアの姿勢を見ていた。

「……教えてあげるわ。同じことを繰り返しても、通用するわけないって」

 今度は、逃げずに反撃する。

 そう決めたリューズは、ハードパンチャーに腰を落とした姿勢を取らせて、迎撃態勢を取る。

「悪いけど、何年も戦場にいて培った技術は、そう簡単に私を裏切らないのよ」

 ペダルを踏みつけ、機体を走らせる。

 真正面からぶつかるコースを取りながら、緊張に汗が流れるのを感じる。

「……いま!」


 コリエスは勝ちを確信していた。全体的に細めのシルエットをしているハードパンチャーでは、イーヴィルキャリアの突進を止める術は無い。

 だが、その甘い予測は一瞬で相手の姿を見失った事で霧散した。

「ど、どこへっ!?」

 叫んだ瞬間、コリエスは付き上げられるような衝撃を受けて、直後に浮遊感を味わう。

「……へっ?」

 スリットから見える光景は、カイトシールドの下をくぐるスライディングで、脚部を破損しながらもイーヴィルキャリアの足を完全に止めているハードパンチャーの姿だった。

くぐった? あれ、地面?」

 突進の勢いのまま足払いを受けた格好になったイーヴィルキャリアは、ハードパンチャーを飛び越えるようにして前方へすっ飛んで行く。

 自機が飛んでいるとコリエスが気付いた時には、視界一杯に広がった地面が、完全にスリットを塞いだ。

「ぐえっ!」

 上流の生まれらしからぬうめき声を上げて、コリエスはシートベルトであっぱくされた身体から唾を吐いた。

『どう? 思い知ったかしら?』

 通信機から、リューズの勝ち誇った声が聞こえる。

「……残念ですが、まだ敵いませんわね……」

 もう少しは良い所を見せたかった、とコリエスはシートベルトに吊り下げられた格好で、がっくりと肩を落とした。

 このテストで、コリエスはまだ前線には出ず、陣地防衛メインを引き受ける事となった。


 ちなみに、激突による双方の機体損傷は激しく、基地へ戻り、ボロボロになった機体を見たスームは「まあ、整備とか調整する予定ではあったから、良いけどさ……」と言いつつも涙目になった。


お読みいただきましてありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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