表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強の眷属たちに囲まれて、まったりダンジョン運営してます~裏山ダンジョン、ときどき攻略者~  作者: Jasmin


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

86/87

第86話 ノア

俺はノアの前で絨毯の上に胡坐をかいた。


「ノア、でいいんだよな?」


「……そう。」


「あいつらも名前しか知らなかった。単刀直入に聞くけど、俺を殺そうとしたのは、お前の意思か?」


問いかけながら、俺はシノを横目に見た。シノは「どうぞどうぞ」とでも言いたげに、片手で先を促す仕草をする。


「……違う。COREの任務。」


俺はと言えば、思ったより驚いていない自分がいた。意識を手放す前の『ごめんね』の言葉、あの視線。彼女は自分の意思に反して動いていると、そう思った。


「こいつら5人組は、それを知ってたのか?」


「いいえ。」


ノアの首が、ほんの少しだけ横に振られた。


「うーん、5人組はマスターには手を出すなって言われてたんでしょ?よくわかんないね。」


シノがうんうんと悩みながら首を捻る。


「……あの5人は、COREにとっての、尻尾切り。」


「尻尾切り?」


「COREの中で、首輪のつけきれなくなった者を依頼として危地に放り込む。私の任務の成功率を上げるための、目くらまし。」


「あわよくば、依頼を成功させてくれればいい。失敗して暴れて死ねば、それはそれで片付けになる。そういうことか?」


「そう。彼らも米国の攻略者ランキングでTOP20には入る上澄み。でも、抑えきれなくなったから、処分。」


「マジか。」


俺は思わず素の声を出した。

風見が囮で、5人組が本命かと思いきや、それすらも撒き餌だったというわけか。


「使い捨てる側の人間が考えそうなことだな……。」


シノが「うちもこのタイプの組織は嫌いね~」と肩をすくめ、ハヤテが「えげつないっす……」とうつむいた。ユキは無言。だが、怒りのオーラが抑えきれていない。


俺は一度、息を吸って吐いた。


「で。お前本人の話だ。」


ノアの目線が感情の窺えない無気力なまま俺に向けられる。


「なんでそんな組織の駒になってる?」


ノアは、逡巡しつつ話し始めた。


「……孤児院。」


「孤児院?」


「私が育った孤児院。アメリカの、ある州の田舎にある。」


寡黙な声が、少しずつ続いた。


「私はそこで育てられた。物心ついた時から、孤児院にいた。」


「そうか。」


「孤児院は、長く資金繰りに困ってた。寄付の減少、土地の値上がり、運営費の高騰。何度か潰れかけて、その度に院長が借りを増やしていって。気がついた時には、債権の大半を握られていた。」


「……。」


「その裏にいたのが、CORE。」


俺は、額を一度押さえた。


「今、孤児院は私がCOREの任務を達成することで、延命してる。私が逆らえば、子どもたちの食事も、暖房も全部止まる。」


「なるほどな。」


「……私は、ここまで。」


「ここまで?」


「任務に失敗して、捕縛されて。CORE側から見れば、私はもう駒として終わっている。」


ノアは、そこで瞼を閉じた。涙がこぼれる。


「……みんな、ごめんね。」


ハヤテが、ぐすっ、と短く鼻を鳴らして、すぐに翼で顔を覆った。シノが、その背中を片手でさっと撫でた。



「……よし。」


「ご主人様?」


ユキが、控えめに俺を見上げる。


「ちょっとリンドヴルム呼んでくるわ。」


「リンちゃん?」


「おう、火山エリアでしょぼくれてるんだろ?」


似合わないことをしている竜に火を付けよう。


「CORE潰すか!」


シノが、目をぱちくりさせて、それから「ぷふっ」と吹き出した。


「君、本気で言ってるの~?日本でいう攻略者協会みたいなところだよ?」


「どうせまたちょっかい掛けてくるんだろ?放置したらゆっくり過ごせないし。それに。」


「それに?」


「ムカついた!」


「……へ?」


「俺さ。社畜辞めて、田舎で、好きな時に寝て、好きな時に飯食って、そういうのを目指してた。マスターになってからは思ったより忙しいけど、その隣にお前らがいればそれでいいと思ってる。」


「……ご主人様。」


「だから、平穏な毎日のため、ここで掃除しちまおう。」


もう、我慢するのはやめだ。



火山エリア中央。


岩盤を均した広場の真ん中に、リンドヴルムは正座をしていた。

妖艶な紫の髪が、両肩から腕に流れて、膝の上で揃えた両手の上に重なっている。瞳は閉じていた。背筋は不自然なほどぴんと立っている。


俺は、近づきながら、思わず吹きそうになった。


「リンドヴルム。」


呼びかける。

紫の睫毛が、ぴくっと震えた。


「……お主か。」


「うん、俺だ。」


「来るな。今、わらわは、反省中じゃ。」


「うんうん、聞いた。」


俺はそのまま近寄って、リンドヴルムの正面に、あぐらをかいて座った。


「今回のこと、わらわの責じゃ。わらわが、軽い気持ちで投稿などしたから、お主が、あんなことに。」


「あー、それな。」


俺は、後頭部を掻いた。


「ダンジョンに攻略者が来るのは、当たり前のことだろ。むしろ、攻略者として真っ当だと思ってる。」


「……。」


「それに俺を直接狙ったやつも。アメリカ、って言ってもわかんないか、異国の攻略者協会がマスター討伐の依頼をしてたんだとよ。気に入らないけど、別に不思議なことじゃない。」


俺は、岩盤に手を一度ついて、姿勢を変えた。


「だからな。反省はここまで。それに、そんな姿は似合わないぞ。」


リンドヴルムの紫の瞳が、ゆっくり開いた。


縦に細く伸びた瞳孔が、俺を捉える。


「……似合わぬ、か。」


リンドヴルムはようやく、ふっと小さく笑った。


「で、だ。お前の力が必要だ。」


リンドヴルムが、一度、軽く眉を上げた。


「なんじゃ?もう終わったんじゃろ?」


「アメリカの協会をつぶす。手伝ってくれ。」


「……ほう。」


「俺は、平穏に暮らしたい。けど、海の向こうの連中が、俺の喉を狙ってきてる。こんなんじゃゆっくり酒も飲めない。」


リンドヴルムの瞳孔が絞られる。


「だから、つぶしにいく。我慢するのはもうやめにする。お前の力が必要だ。リンドヴルム。」


しん、と、空気が静かになった。


リンドヴルムは、俺をしばらく見つめていた。


「ふ、ふふ。お主、わらわの口説き方が、上手くなってきたのではないか?」


「いや、別に口説いてないが。」


「ふん。」


リンドヴルムは、岩の上で、ようやく膝を崩した。


「これほど正座をしたのは初めてじゃ。この落とし前、その、あめりか?とやらの連中に付けさせてやろうぞ。」


リンドヴルムの八つ当たりがCOREに迫る。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ