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最強の眷属たちに囲まれて、まったりダンジョン運営してます~裏山ダンジョン、ときどき攻略者~  作者: Jasmin


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第85話 CORE

「うーん……。」


鼻先を、何かがくすぐった。


ふわ、ふわ、と柔らかい。羽毛のような、けれど少し弾力のある感触。

寝起きの頭でぼんやり目を開けると、視界の端を、茶褐色の翼が掠めていた。


俺の身体を覆うように、翼が一枚、毛布の代わりに広げられている。


なんだこれ。


寝返りを打とうとして、右腕に妙な重みを感じた。それに温かい。

首を傾けて見やると、ハヤテが俺の右腕に抱きつくようにして眠っていた。

鋭い金色の瞳は閉じられて、長い睫毛がゆるく寝息に揺れている。

口元から、小さく「すぅ」と音が漏れていた。


鼻先をくすぐっていたのは、俺を覆うように被せられた、片方の翼の先端だった。


ああ、なるほど。

寝相が悪くて、翼で挟むみたいな格好になっているわけだ。


って。


あれ?


右腕?なんで生えてる!?


寝ぼけ眼で、二度、三度と瞬きをする。けれども右腕は、見間違いではなく、ハヤテの胸元に抱きしめられていた。手のひらを握ったり開いたりしてみる。動く。感覚もある。


「あ、あれ!起きたっすか!ご主人!」


ハヤテが、ぱちっと目を開けた。

寝起きの一拍を置いてから、自分の状態に気づいたらしい。

俺の右腕にがっつり抱きついた格好で、金色の瞳がぐるぐるしている。


なるほど、夢か。


俺は妙に冷静にそう判断した。


ハヤテに抱き着かれているし、無くなったはずの右腕は生えているし、これは夢だ。確定だ。


夢ならば、好きにしていいだろう。

俺は右腕をハヤテの首の下に滑り込ませて、そのまま胸元に引き寄せた。


「ちょっ、わっ、あわわ。」


ハヤテの口から、慌てたような声が漏れた。鼻先まで真っ赤になっていく。

夢のわりに反応が細かい。

そのまま二度寝に入ろうと瞼を落としかけたところで――


「……って!二度寝しないでくださいっす~!」


ぱさっ、ぱさっ、ぱさっ。


顔を、翼でぺしぺし叩かれた。


「うーん、夢なのに痛い。」


「夢じゃないっす!」


もう一度、ぱさっ、と翼が顔を覆ってきたところで、ようやく頭が覚醒した。

いつもの自分の部屋だ。


「あれ、ハヤテ、これ夢じゃないの?」


「何言ってるんすかも~。」


ハヤテはまだ赤い顔のまま、俺の胸を額でぐいぐい押した。

力を入れている割に、本気で離れる気は無いらしい。


「うーん、記憶があいまいだ。」


火山エリアでフードの女に殺されかけたところまでは覚えている。喉に熱い感触。力が抜けて、剣が落ちる音。それから、ハヤテの声を聞いた気がする。


「とりあえず、起きるか。」


「立ち上がって大丈夫っすか?」


「あぁ、自分がどうなったのかも聞きたいし。」


身体を起こしてみる。違和感は無い、むしろ意識を失う前に比べて、身体に力がみなぎっている。


ハヤテが、ベッドの脇でそわそわと俺を見上げている。


「大丈夫だよ、むしろ元気になった気がする。」


俺は頭をひと撫でして、それから立ち上がった。



廊下を渡ってリビングに入ると、視線が集まった。


ソファに座っていたシノが、目を細める。

キッチンにいたユキが、フリーズした。


「ご主人様っ……。」


ユキは、その場で固まっていた。蒼い瞳が見開かれて、白銀の長い髪が肩越しに揺れる。


「おう、おはよ――」


気づいたときには、もう胸元に飛び込まれていた。


「……っ、っ、ご主人、様――。」


声が、震えていた。

俺の胸に額を押し付けて、両手で背中の布を握り込んでいる。布越しに、指の力が伝わってきた。


肩が、上下に揺れている。


「ご主人様、ご主人様、ご主人様……。」


俺は、左腕でユキの肩を抱いた。それから、戻ったばかりの右手で、白銀の髪をそっと撫でる。


「心配かけて悪かった。」


「いいえ。」


ユキは、額を俺の胸に押し付けたまま、何度も首を横に振った。


「ご無事で、何よりです。それと――。」


「うん?」


「ご主人様の許可を、頂かないまま――エリクサーを、使ってしまいました。」


ユキの指先が、俺の背中の布をきゅっと握り直した。


「……なんだ、そんなことか。」


俺は、ユキの頭を、もう一度撫でた。


「ありがとう、ユキ。それに、みんながいてくれて、本当によかった。」


ユキの肩が、ぴくっと跳ねた。


「なるほど。だから、右腕も生えてるのか。」


ユキは、額を胸元に押し付けたまま、ようやく小さく息を吐いた。


「ハヤテちゃんが、すごかったんだよ?」


シノが、ソファから立ち上がりながら声をかけてきた。


「火山エリアから、君を抱えて飛んで、塔最上階まで運んでくれたんだから。」


「いやいや、それほどでもあるっす~!」


ハヤテが、リビングの入り口で胸を張った。


普段なら「調子に乗るな」と一言入れるところだが、今回ばかりは、それは違う。


俺は、ハヤテに向けて、ちょいちょい、と指で手招きをした。


「ご主人?」


ハヤテが、首を傾げながら寄ってくる。

俺はユキを左腕で抱いたまま、空いた右腕でハヤテの肩を引き寄せた。


「ほんとにありがとうな。命の恩人だよ、ハヤテ。」


頬と頬が、軽く触れる距離。

ハヤテの呼吸が、止まった。


それから。

ぼっ、と。

火が点いた音がした、気がした。


「ご、ごごご、ご主人――――!」


「えっ、何だ?」


ハヤテは俺の腕からするりと抜け出して、よろよろとソファに辿り着くと、そのままうつ伏せに沈んでいった。


シノが、ぷっ、と吹き出した。


「ハヤテちゃん、本当に分かりやすい子よね~。」


ハヤテの返事は無い。背中で翼が小刻みに震えているのだけが、生存信号だった。



「あ、それで、俺を襲ったやつは?」


「あ~それなら、あっちの小部屋に転がしてるよ。リンちゃん狙いで来た奴らと一緒に。」


シノが、リビングの隅にある通路の方を顎でしゃくる。

そこには、見覚えのない扉があった。一晩のうちに増設したらしい。


「あれ、そうなのか。てか、俺はどれくらい寝てた?」


「一晩くらいだよ。君を襲ったやつも、他の連中も、まだ気絶してる。まぁ、かなりボロボロだったからね~。」


「リンドヴルムは?」


「あ~、リンちゃんなら……。」


シノが、ちらり、とユキを見た。

ユキは、俺の胸元から少しだけ顔を上げた。蒼い瞳の縁が、まだ赤い。


「火山エリアで、正座で、反省中です。」


「えぇ……なんで?」


「今回の事態を招いたのが、自分だからって言ってたよ。」


「うーん、ダンジョンに攻略者が来るのは、当たり前のことのような気がするけどな。」


俺は、後頭部を掻きながら呟いた。


「俺を襲ったやつはちょっと毛色が違ったけど。それでも、マスターを討伐しようとしただけだし。」


「本人が中々動かないのよね~。」


シノが苦笑する。


「そうか。後で行ってみるよ。」



「ところで。」


俺は、シノの示した小部屋の扉に視線を戻した。


「あの小部屋のやつら、どうしようか。」


ただ解放するわけにもいかない。


「メフィスくんに、契約で縛らせようよ。」


「メフィス、出来るか?」


俺はリビングの奥に立っていた燕尾服に視線を向けた。

さっきから黙っていたメフィスは、シノに名指しされた瞬間、ぴく、と肩を跳ねさせていた。


「えぇ、出来ますよ。」


シルクハットの縁を一度押さえて、こちらに歩み寄ってきた。


「今、寝ているのですよね?普段なら使わない手法も、今回は使えます。」


「おお、何それ。」


「寝ている間に、親指をこう少し切って、契約書に血判を押させるのですよ。」


メフィスは、自分の親指の腹をすっと示した。


「マジ?それでいけるのか?」


「えぇ、いけます。私の主義には反しますし、格上の相手には普段は通用しない手法ですが――まぁ、今回の事情を含めますと、最適でしょう。」


「早速頼めるか。」


メフィスの指先で、黒い羊皮紙のようなものが、空気から織り出されていく。

表面に、銀色のインクで、文字がさらさらと刻まれていった。


『敵対禁止』『口外禁止』『黙秘禁止』『隠し事禁止』。

他にもいくつか、細かい条項が並ぶ。



小部屋の扉を開けると、絨毯の上に6人がそれぞれロープでぐるぐる巻きにされて、無造作に転がされている。


うち1人――黒いローブの、小柄な人影。

プラチナブロンドの髪が、フードの下から零れ出ている。


メフィスが、まず一番手前の男の前にしゃがみ込んだ。


「では、失礼いたします。」


紳士的な所作で、男の親指の腹を、針の先ほど切る。

血の珠が浮かんだところで、契約書の余白に、ぐ、と押し付けた。


紙の上で、銀色の文字が、一瞬だけ淡く発光する。


それから、男の身体に、微かに、紋様が走って消えた。


「成立しました。」


メフィスが、淡々と告げる。

ユキは、軽い回復魔法を男にかけた。


数秒後。


男の瞼が、ぴくっと震えた。


「……ぅあ?」


ぼんやりと開いた目が、視界に入った景色をゆっくりと処理していく。


「……そうか。」


敗北を悟ったのか、抵抗のそぶりは無かった。

その後、順番に契約で縛っては起こしていく。それぞれに恐怖、驚愕など様々な反応を見せるが、抵抗の余地が無いことを悟ると沈黙した。


そして、最後にフードの少女。


メフィスが、彼女の親指の腹に、針の先を当てた。

血の珠が浮かぶ。契約書に押される血判。


ノアの瞼が、ゆっくりと開いた。


青と金の瞳が、俺に焦点を結び、見開かれる。


「……生きてたんだ。」


寡黙な声。


「あぁ、元気いっぱいだ。」


シノが、にぃ、と笑った。


「じゃあ、キリキリ、はいてもらおうか~。」



聞き出した話を整理すると、こうなる。


連中の所属は、米国の組織「CORE」――Coalition Of Realm Elimination。直訳すると、領域討滅連合。

ダンジョンの討滅を市場とする、米国の攻略者協会のような組織らしい。といっても、日本のそれより一段過激なようだ。


依頼内容は、リンドヴルムの討伐。報酬は1人100万ドルの成功報酬制で、5人で500万ドル。ジェイクと名乗ったリーダー格の男が、取りまとめだったという。

彼らはCOREに登録しているSランク攻略者で、米国のTOP20には入る猛者らしい。


風見隼人の挑戦は利用された。

正しくは、彼らが風見の挑戦に「便乗」する形で動いた。表のチャレンジャーとしてマスコミ・協会・ファンの視線を風見に集中させ、その隙に5人で奇襲をかけてリンドヴルムを屠る。風見には「動きを止めるだけ、支援するだけ」と説明していたらしい。


そして、フードの少女。名前はノア・クロイツ。


「彼女については、俺たちもよく知らない。COREから同行させるように指示を受けた。単なる監視だと思っていたが……。」


ジェイクが、低い声で言った。


俺は、ノアに視線を戻した。


――――

貯金残高:12,450,000円 / ダンジョン蓄積魔力:2,880

スキル:【剣術】Lv.5 / 【身体強化】Lv.5 / 【戦闘機動】Lv.3 / 【危機感知】Lv.3 / 【状態異常耐性】Lv.2 / 【魔力操作】Lv.2 / 【マナバースト】Lv.3

眷属:ユキ(エルダーエルフ)/ ハヤテ(鷹獣人)/ リンドヴルム(祖竜)/ シノ(九尾)/ 猫又(下位妖獣)/ コムギ(土精)/ メフィス(契約の悪魔)/ リヴァイアサン


【ダンジョン構成】

入口 → 温泉街エリア(補給/工房/宿泊/食堂/湯治/神社)→ 森エリア / 火山・大空洞エリア / 海洋エリア&バベルの塔 → 居住エリア(塔最上階)→ コアの小部屋

――――


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